変わらぬ時
短編です
コチコチコチ・・・
機械的に一定のリズムで音を発する壁掛けの古い時計。婆ちゃん家に行くと、この時計を見るのが好きだった。
田舎のど真ん中、家の前には畑と田んぼ、家の裏には小さな山。丘と言った方が正確かもしれない程度の小さな山。瓦屋根の大きめの平屋。そこがうちの婆ちゃん家。
THE田舎の老人の家、なんて言ったら、怒られてしまいそうだけど、まぁ大体の人がイメージする田舎の平屋を想像してもらえれば良いと思う。
婆ちゃん家のこの時計、何でも、戦争に行った爺ちゃんが、どこからか持って帰ってきたんだとかで、婆ちゃんはたいそう気に入っている。私もこの時計が好きだった。
何より、決まった時間にボーンボーンと低い音が鳴る。その音を聞きたいがために、幼い私は、食卓の時計が良く見える席をいつも陣取っていた。
婆ちゃん家は、何もないから、周辺の音が良く聞こえる。カエルや虫たちの鳴き声、鳥のさえずり、羽ばたき、近所のお婆ちゃんたちの何やら楽しそうな声。私はこの家ごと大好きだった。
「あれ・・・婆ちゃん!」
高校生の夏、久しぶりにこの家に遊びに来たら時計が止まっていた。電池を入れ替えたりしたけど駄目だったらしい。
「何とかならないの?」
「もう古いものだしねぇ・・・」
私は持ち前の検索スキルを使って、古い時計の修理を請け負ってくれる会社を調べた。
しかしやはり、あまりに古いもののようで、この時計を直せるという会社はなかなか見つからない。
「新しくデジタルの見やすい時計を買うわよ」
何て言うから、私はよりムキになって、修理屋を探した。
タイムリミットに追われるような気分で、最後に見つけた、古物商の店主にアポを取って、私はその足で、その古物商に会いに行った。
「こういう時計なんですけど」
「ほぉ、これはなかなか珍しい。だいぶ年代物ですね」
「直りますか?」
「実物を見てみないと何とも言えませんが・・・直せる可能性はあります」
私は優しく目の垂れ下がった白髪のお爺さんに強く握手をして、婆ちゃんの家に飛んで帰った。
「婆ちゃん!あのね!」
嬉しい報告をするつもりで帰ったら、婆ちゃんが倒れていた。意識はある。でも、「転んじゃったのよ・・・」と小さく漏らす声に力がない。私の頭も一気に真っ白になる。
何とか救急車を呼んで、婆ちゃんを近くの大きな病院へ連れて行った。その日の内に、両親もやってきて、入院の手続きなどをやってくれた。
私は、ふと、あの時計が動き出したら、婆ちゃんが元気になるかもしれないと、そう思って、お父さんを説得して、あの古物商の元に時計を運び込んだ。
「お願いします!」
「やれるだけはやってみましょう」
古物商の言葉を信じて、連絡をまつ。婆ちゃんの容態もわからない。どうか二人とも無事でいてほしい。
数日後、父の元に、婆ちゃんが元気に回復したと連絡が来た。その翌日、古物商から、何とか動きましたよと、連絡が来た。
私は大喜びで、婆ちゃんに会いに行って、報告をした。
「あら、動くようになったの?そんなに好きなんだったら、あの時計、あなたにあげようかねぇ」
「ううん。あれはあの場所になくちゃ」
翌年の夏、杖を突きながらひょこひょこ歩く婆ちゃんを特等席に座らせて、私はその隣で、時計がちょうど十二時を指すのを見守った。
コチコチコチ・・・。時計の音が決まったリズムを刻む。
カチリ。
ボーンボーンボーン・・・。
——変わらぬ時——
コチコチコチ・・・ボーンボーンボーン・・・




