42.魔人Side
《魔人マルスSide》
ああ……ガイアぁ……♡
ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡ ガイア♡
「キショいんだよ、てめえ……クソ豚がよぉ……」
……ん? どこだ、ここ……?
「クソ豚、目ぇ覚めたかよぉ~……」
「おお、サトゥルヌス! 助けてくれたのはおまえか……?」
おれを見下ろすのは、パンクな衣装をまとった、小柄で柄の悪い女。
こいつもまた、おれと同じ魔人だ。ゆっくりと体を起こす。ここは……バーのような場所らしい。おれは床に寝かされていた。
「【ソル】兄の奴が、直せって言うから、仕方なくやっただけだ。勘違いすんなよ、豚野郎」
……これは、ツンデレというやつだな。我が姉は可愛くて仕方ない。やはり家族は素晴らしい……!
まあ、一番はガイア♡ だがな。
「きっしょ……。なんか前より気色悪さが増してんぞ、豚弟」
「サトゥルヌス……おれは何にやられたんだと思う……?」
ガイア♡ は黒い渦を使い、おれを殺そうとした。
「あれは……ブラックホールだよ」
バーカウンターに座り、酒をたしなんでいる男が口を開く。
黄金の長髪、女と見まがうほどの美貌──我らが長兄、魔人ソルだ。
「おお、ソル」
「やぁマルス君。目が覚めたかな?」
「ああ。悪かったな、ソル。手間かけちまって」
「気にしなくていい。家族を守るのは、長兄の役割さ」
サトゥルヌスは「ケッ……うさんくさ」と吐き捨て、扉を開けて闇に消えた。
「サトゥルヌスも心配してたんだよ?」
「だろうな。我が姉は優しいからな」
おれは自分の体を確かめる。あの黒い渦──ブラックホールに首から下を丸ごと飲み込まれたのだ。
「そうだ、ソル。聞いてくれ。ガイアがすごいんだ! おれが殺した人間を、あっという間に治したんだぞ! どういう理屈だと思う?」
「ふふっ……ブラックホールの性質を応用したんだろうね」
「と、いうと?」
「ブラックホールの重力は時間を遅らせ、やがて止め、逆行させる。ガイア君はそれを応用し、限定的な時間遡行を実現したんだ」
「! 時間の逆行……! あぁ~♡」
なんてことだ……おれのガイア♡ は、そんなすごいことまで……!
「ああ……ガイア♡ なんて素晴らしいんだぁ♡ ああガイア♡ ガイア♡ ガイアぁ♡」
「やれやれ、すっかり気に入ったね」
「ああ! なぁソル! 兄弟たちを集め、全員でガイアを回収に行こう!」
ガイアは強い。だが魔人が複数で挑めば、屈服させておれたちの元へ連れてこれるはず!
「冷静になりなさい、マルス君。そんなことをすれば、星の賢者テラステラが出てくる」
……テラステラ。魔人研究の第一人者にして、おれたち魔人兄弟の敵。
以前ソルを半殺しにしたこともある。今のソルはその傷で、このかりそめの肉体を保っている状態だ。
「テラステラはめざとい。私たちが集まって動けば、駆けつけて……皆殺しにされるだろう」
「むぅ……じゃあどうすりゃいい?」
「今は静観だ。幸い、我らの【計画】にはまだ気づいていない」
ソルは計画を立てていた。魔人が各地で暴れ、テラステラの注意を逸らす。その裏で進めるために。
「ガイア君にも、しばらくは接触しないことだね」
「えー!? なんでだよ、ソル!」
「君が執着してることは、もう知られてる。すぐ現れると思われているだろう。だから今は、彼女がガイア君のそばにいると考えるべきだ」
「チッ……ストーカーかよ。気色悪い」
「ははは。ほんとだね」
ソルは目を閉じ、微笑んだ。
「強かったねぇ……新たなる、星の子は」
星の子──星が生み出した存在。それがおれたち魔人だ。
「ああ、ガイアぁ♡ 最高に強かった。あの力があれば、人間なんて一瞬で皆殺しだ!」
「仕方ない。皆が星の声を聞けるわけじゃないからね」
……おれたち魔人(の一部)は、生まれたとき女の声を聞く。
──『星の未来を守って』
それが星の子の使命。害虫の駆除。おれも、サトゥルヌスも、ソルも、他の兄妹たちも。星のために戦っている。
「何事も、焦っちゃいけないよ」
「でも……ああ♡ ガイアぁ……♡ 早くまた、殺し合いたいよぉ♡」
「大丈夫。すぐ機会は訪れるさ」
キラキラ……ソルの黄金の髪が光り、粒子が舞う。その瞳は太陽のように輝いていた。
我らが長兄──【闇の魔人ソル】は微笑む。
「だってもうすぐ、人類は滅亡するのだからね」
まるで「明日は雨かもね」とでも言うように、軽やかに。
「そっかー……人類が死んだら残るのは星の子の兄妹だけ! そしたらガイアも生き残るし、みんなで楽しく暮らせるなぁ!」
「そういうことさ」
……ああ、ガイア。おれは機会を待つよ。
ガイアぁ……♡ 愛してるぞぉ~……♡




