35.元パーティメンバーから、戻ってこいと言われ、拒絶する
……魔人であることを、ノエルにばれてしまった。
俺の師匠、星の賢者テラステラによれば、「魔人は呼吸を必要とせず生きることができる」らしい。
ノエルは俺が気を失っている間、看病をしてくれていた。だから――俺が寝ている間に呼吸していなかったことに、気付いたのだ。
……さて。
進路に悩む俺の前に現れたのは、元パーティのリーダー、オクレール・ウォートルだった。
「……オクレール。一体、何の用だよ」
あいつは俺を不要と追い出したはずだ。
どうしてここに……いや、どうして俺のところに来たんだ?
まさか文句でも言いに来たのか?
「ガイア。喜べ。オレらのパーティに、もう一度入れてやる」
「……………………はぁ?」
なんだって……?
「ああぁん、ガイアさまぁん~♡」
すすす、と小柄な女が俺に近付いてきた。
……え? め、メスガッキ……?
なんだこいつ……急に気色の悪い声を出して……。
「ガイア様ぁ♡ 会いたかったですぅ~♡」
「は、はぁ……? どうして?」
「それはもう、ガイア様のことがぁ……きゃっ♡ 好きだからですぅ~♡」
……はぁ。
俺が好き? そんなそぶり、一度も見せてなかっただろ……。
俺のあきれ顔を見て、メスガッキが手を組み、顔を近づけてくる。
「ガイア様ぁんがパーティを出て行ってぇ、あたし気付いたんですぅ~。本当の気持ち……貴方様のことが好きって気持ちを!」
「…………」
正直に言おう。全然、心は揺れなかった。
さすがに俺でもわかる。これが嘘だってことぐらい。
問題は――なぜこいつは、俺が好きなんていう嘘をついているのか……?
「デュフ、ガイアどの。拙者は、認めておったですぞぉ。おぬしのサポートは実に……! 素晴らしいと」
「……はぁ」
イエスマのやつまで、なんだか気色が悪い。
いつも俺を見下すようなことばかり言っていたはずだろうに……?
それに俺のサポートを認めていた?
そんなこと、一言だって言ってなかっただろう。
メスガッキ、そしてイエスマ。
こいつらの言葉は……ペラッペラだった。
減重でもかけられたのかってくらい、軽い。
「まあオレはよぉ、優しいからよ。おまえのようなやつを、誰もパーティには入れてくれないだろうって思ってさ。だから……こうしておまえを再スカウトに来てやったんだよ」
「…………?」
誰もパーティに入れてくれない……?
こいつら、俺の現状を知らないのか……?
「さ、返事を聞かせろ。まあもっとも、答えは一つしかないだろうけどよ?」
スッ……とオクレールが手を差し出してくる。……はぁ?
なんだこいつ。答えは一つ?
つまり俺が、本気で戻ってくると――そう思ってるのか?
「んだよガイア、その顔は……?」
「ああ……いや。すまん。答えはNOだ」
「そうだろう! いやぁ、そうだと思ったぜ。うんうん………………って、なっ!? なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
はぁ……?
なんでこいつ、こんなに驚いてるんだ……?
「き、聞き間違えだよなぁ!? ガイア。な? 戻ってくるって言ったんだよな?」
「違う。俺は、戻らないって言ったんだ」
「はぁああああああああああああああああああああ!?」
本気で驚いてる様子からして、どうやら本当に、俺が喜んで戻ると信じていたらしい。
「なんでだよ!?」
「あんたらが、俺を大事にしてくれなかったからだよ」
商人キャラバットさんの言葉を思い出す。
自分を大事にしてくれない人だけを、大切にしなさいと。
「新しいパーティに入って、俺は気付いたんだ。あんたたちは、俺のことを全く大事にしてなかったって」
「そ、そんなことありませんわ~ん、ガイア様ぁん……!」
焦ったメスガッキが俺にしがみつこうとする。
俺は加重を発動。
「ぐぇえ……!」
重力場に押し潰されるように、メスガッキがその場に崩れ落ちた。……もちろん攻撃ではない。傷つけない。ただ、重くしただけだ。
「ガ、ガイアどの! 仲間を傷つけるとは、なんと酷いことを!」
「……傷つけたのは、貴方たちでしょう!?」
……誰よりも大きな声で、ノエルが怒ってくれた。
俺の気持ちを、代弁してくれたのだ。
「……ガイアをぞんざいに扱って、頑張りを全無視して! ガイアの心を傷つけたのは、あなたたちじゃない!」
ノエルたちには、俺の境遇をある程度話してある。
オクレールたちが俺をどう扱ったのか――彼女らは知っている。
「な、なんだてめえ……?」
「……わたしは、今のガイアの、パーティメンバー」
「は……? はぁああああああ!? ぱ、パーティメンバー!? 嘘だろ!?」
「……本当。わたしと、もう一人と、ガイア。三人でパーティを結成した」
愕然とした表情を浮かべるオクレール。
「そ、そんな……嘘だ。おまえが使えないって噂は、ギルド中に広まっていた。おまえを仲間にするようなSランカーはいないはず……!」
「……そう。わたしも、もう一人も、Sランカーじゃないわ。駆け出しの冒険者よ」
「なんだとぉ!?」
……駆け出しとパーティを組んだことに、心底驚いているらしい。
「うそだ……なんで……そんな……オレらのほうがいいだろうに……」
いや、違う。
駆け出しパーティを優先されたことに、驚いているのだ。
「あ、わ、わかった! ガイア様ぁ……そいつに色目を使われたんですねぇ!」
メスガッキはノエルを見て、ぷすす、と笑った。
「たしかに顔はまぁ? ほんのすこーし整ってるようですけどぉ? あたしのほうが胸大きいしぃ……!」
「……胸の大きさがなんだっていうの?」
「はぁん? 知らないのぉ? 胸の大きさは女の価値なのよぉ? 胸が小さい女に人権なんて――」
と、そのとき。
「ガイアさーん。何してるのー?」
「ガイア君。一緒に水浴びでも……って、おまえは……?」
リィナ、そしてギンコさんが入ってきた。
外で肉体労働をしていたのか、二人とも胸当てを外している。
リィナもギンコさんも、明らかにメスガッキより胸が大きかった。
「……胸が、なんだって?」
ノエルが鼻で笑い、メスガッキを見下す。
「って、えええ!? ぎ、銀の剣の、ギンコ・シルバじゃねえかぁ……!?」
……さすがのオクレールも、同じSランカーのギンコさんは知っていたらしい。
「おや……君はガイア君を追い出した、間抜けな男……オクレールではないか」
「な、なにぃい!?」
ギンコさんは冷たい視線を向ける。
「間抜けだと!?」
「ああ。君は気付いてなかったようだけど、ガイア君は有能サポーターとして、我らハイランカーの間では噂になっていたんだよ」
「な、なんだってぇ……!?」
本気で知らなかったようだ(まあ俺も気付いてなかったけど)。
「君らくらいだよ、ガイア君の価値を知らないSランカーなんて。他はみんな知ってるさ。ガイア君のサポート力のすさまじさを」
「グッ……」
俺が言っても説得力はなかっただろう。
第三者――ギンコさんが言うからこそ、その言葉に重みがある。
「大方、君たちも気付いたんだろう? ガイア君のサポートのおかげで、今までうまくいっていたと」
「……居なくなって困っているから、ガイアを連れ戻しに来たんでしょ?」
オクレールは黙り込む。図星だ。
「そ、そうですわぁ! ガイア様ぁ、お願いします! あたしたち……ううん、あたしのもとへ戻ってきてください! 貴方様がいなくなってぇ、今パーティはボロボロなんですぅ~!」
メスガッキが泣き顔でしゃがみ込む。……“あたしのもと”? なんだそれ。
「てめぇ! メスガッキこの野郎! 一人だけ抜け駆けすんな! が、ガイア……帰ってこいよ! なぁ? 新人のおもりなんてやめてよぉ!」
ノエルとリィナが、うつむく。
「なぁ? そいつら、お前に何してくれるよ? Sランクのお前に、一体何を返してくれたよ? どうせ全部支えてるだけで、こいつらは何も与えてくれないだろ?」
「「…………」」
ノエルもリィナも反論しない。……なんでだよ。
まるで、オクレールの言葉が正しいみたいな顔、やめてくれ。
「オレらの元へ帰ってこい。そうすりゃ、おまえはSランクパーティとしての地位と名誉が手に入るぜぇ……!」
……地位と名誉。
確かに、この世界でSランク冒険者パーティは希少だ。だが――だからこそ。
「オクレール……ありがとな。お前のおかげで……大切なことに気付けたよ」
「! ガイアぁ……! それじゃあ……」
「ああ。……俺は、お前らの元には、絶対に帰らない……!」
俺ははっきり答えた。
オクレールたちも、リィナたちさえも、ぽかんとした顔をしていた。
「な、なんでだよ……どうして!? 地位や名誉、欲しくないのかよ!?」
「ああ、要らない。パーティを出て、おまえにそう言われて……俺、気付いたんだ。地位も名誉も要らないって」
再び手に入ると言われても、心は揺れなかった。
だが――ノエルたちのパーティを失うとなったとき、心はちぎれそうだった。
欲しいものが何か、俺ははっきり理解した。
「俺が欲しかったのは、俺を受け入れ、大切にしてくれる仲間だ」
「ノエル。悪い。もう結論出た」
「……! ガイア、それじゃ……」
「ああ。あとでちゃんとお前たちに言うよ」
「……うんっ。約束ね」
「ああ、約束だ」
リィナは「ほえー、どういうことー?」と理解してない様子。
ギンコさんは、少し寂しそうにしていた。
「ち、ちくしょう……ガイアぁ……! 戻って来いよ!」
「嫌だ」
「戻れぇ……!」
「断る」
「なんでだよぉ……!? 戻れ、戻れよぉ!」
「嫌だ。第一、俺を追い出したのは、あんたのほうだろ」
俺が自分の都合で出て行ったわけじゃない。
「ガ、ガイア様ぁ……! じゃああたしだけでも! 貴方様のパーティに入れてぇ!」
「それもお断りだ」
「なんでぇ!? あたしだって顔、可愛いでしょ!? ハーレムパーティ完成ですよぉ!?」
「別に、俺はノエルとリィナの顔がいいから入れたわけじゃない」
「!?」
「それに……おまえはノエルたちと比べたら可愛くない。自分でもわかってるだろ?」
「うぐぅ……!」
メスガッキも、内心ではノエルたちに容姿で劣ると感じていたのだろう。
「でゅ、でゅふ……ガイアどの……た、頼む……! 拙者たち、今、追い詰められてるでござるよぉ!」
「追い詰められてる?」
「でゅふ! そう……依頼未達成で違約金が発生しかけてるでござる! このままじゃ、多額の借金を背負うでござる!? かわいそうだとは思わないでござるかぁ!?」
「思わん」
「な!? なぜぇ!?」
「その依頼、俺が出て行った後に受けたもんだろ?」
「!? そ、それはぁ~……」
「俺が居たときに受けた依頼ならともかく、出て行った後の依頼をどうして俺が助けなきゃならねえんだ。借金を背負うことになっても、それはお前らの責任だ」
「………………」
オクレールたちは黙り込んだ。
「オクレール。俺はもう欲しいものを手に入れた。黄昏の竜には戻らない。お前たちは……もう要らないんだ……!」
「「「そ、そんなぁ~……」」」
三人が、がっくりと肩を落とした。
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