33.柵を作る
荷車に重力を付与したあたりで……ガキンッ、どごぉん! と、戦闘音が開拓村の近くから響いてきた。
おそらくギンコさんたちが魔物と戦っているのだろう。
事前に打ち合わせをしてあり、俺たちは開拓を、銀の剣は戦闘を担当するという役割分担になっている。
「ずいぶん近くで魔物との戦闘が起きるんですね」
「まあな」
コーヤリダさんが肩をすくめる。
「しょうがねえ、ここは荒野だ。見通しがいいからな。敵からは、この餌場がよーく見えてるんだろうよ」
「なるほど……」
魔物からすれば、ここには脆弱な人間がいる上にうまい餌がたっぷりある、まさに良い狩り場なのだ。荒野ゆえに他にエサが取れそうな場所もなく、近隣だけでなく遠方からも魔物がやってくるのだろう。
「ちょっとついてきな」
コーヤリダさんに案内され、俺たちは村の入口まで行く。
「な? 貧相な柵だろ……?」
「ええ、まあ……」
村を囲うのは腰の高さほどの木製の柵だ。これでは魔物を防げないだろう。
「これでよく村が無事だったな?」
「そうですね」
リィナが率直な感想を口にする。まあ、その通りだ。
「キャラバットさんから武器の支援を受けてましてな。それで追い払ってるんだが……」
「そっちに人員を割かれると?」
「その通りだ。夜は見張りを立て、日中も数人が魔物の侵入を警戒しないといけねえ」
開拓に集中したくても、魔物の存在が邪魔をするのだ。キャラバットさんは剣だけでなく、帝国で流行っている魔法銃まで持ってきてくれている。
「せめて魔物よけの柵を、もうちょっと立派にできればなとは思ってるんだ。だが、それをしようにも魔物が……くそっ、また来やがった!」
地を這うように近付く巨大なトカゲ。尻尾の先に炎を宿している。
「火蜥蜴だ」
「ああ、くそっ、めんどくせえ……!」
コーヤリダさんが魔法銃を構え、発砲する。バンッ、と魔力の弾丸が火蜥蜴の足に命中した。火を吹いてきたが、ノエルが「氷針」を詠唱して氷を放ち、炎と氷がぶつかって敵の攻撃は無効化される。
「てーりゃっ!」
リィナが不壊の刀で火蜥蜴の身体を斬りつける。
「ふぅ〜、そこまで強くなかったね」
「助かったぜ嬢ちゃんたち。確かにそんなに強くはない。ただ、こいつが昼夜問わずちょっかい出してくるのが問題なんだ」
周囲を見渡すと、開拓村の周辺を複数の魔物がうろついている。火蜥蜴だけではない。目に見えて強敵はいないが、それでも放置はできない。
「魔物よけの外壁を作るべきですね。早急に」
「だな。手ぇ貸してくれるか?」
「もちろんです」
というわけで、魔物よけの柵を作ることになった。
「木材はキャラバットさんに運んでもらってる。それは温存しておこう。家が壊れたときの補修用にな」
「なるほど」
キャラバンが何度も来られるわけではない。周囲に木が乏しいこの荒野では木材は貴重だ。取っておいた方がいい。
「でも、じゃあどうやって外壁を作るんだ」
俺は辺りを見回す。荒野にはいくつもの岩が点在している。
「あれを使いましょう」
「岩を……?」
「はい」
村の近くにある高さ三メートルほどの巨岩へと移動する。
「リィナ」
「あいあいさー!」
俺が言わずとも、彼女は意図を汲んだ。地味に嬉しい。意思疎通が取れているのは心地いい。
俺は巨岩に手を置く。
「減重」
「そして……どりゃぁ!」
リィナが巨岩を軽々と持ち上げる。
「わっはー! かる〜い! 見てみてガイアさーん! ノエル〜!」
岩を掲げたままリィナが腰をくねらせている。なんだそのポーズは。
「リィナ、ふざけないの」
「わかってるよー」
ふざけながらも、リィナは岩を抱えて村へ戻る。
「どっせい!」
岩を村の前に置く。あとはこれを繰り返すだけだ。
「重力を戻すぞ」
ぐっ、ぐっ、と押しても岩はびくともしない。
「なるほど、天然の柵を作るわけだな。岩なんてそこらじゅうに転がってるし」
「そういうことです。適した大きさの岩を、ノエルに探してもらってます」
「魔法使いの嬢ちゃんに?」
ノエルは目を閉じて耳を澄ませる。
「……あっちと、こっちに良い感じのがある」
「そんなのわかるんか?」
コーヤリダさんが問うと、ノエルはうなずく。
「風を周囲に飛ばして跳ね返ってくる音を拾えば分かります」
要はコウモリのソナーのようなものだ。
「なるほど。ノエル嬢ちゃんが岩を見つけ、ガイア坊主が岩を軽くし、リィナ嬢ちゃんが運ぶ……良いパーティだな、あんたら!」
「ええ……」
コーヤリダさんが俺を見て目を丸くする。
「なにか?」
「いや……坊主も笑うんだなって思ってよ」
「…………」
俺は笑っていたのか。仲間を褒められて嬉しかったのだろう。
「んへ〜♡ ぬへへへ〜♡ 良い夫婦だって〜♡」
リィナがとろけるような笑みを浮かべる。
「夫婦なんて言ってないだろっ!」
「だ、だからそういうのまだですって……からかわないでくださいよ」
俺とノエルは思わず声を張る。
「モテモテだねー。うらやましいぜ。こんな美少女二人を嫁にしてよぉ」
「やめてください、からかわないでください」
「ははっ、すまねえ。んじゃ、手分けして防壁作るか。若い衆を呼んでくる」
「お願いします」
「おう!」
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