03.重力サポート無双
俺たちは一旦、街へ戻った。
ギルド近くのベンチに腰を下ろしながら、リィナたちの事情を聞く。
「なるほど……お前たちは駆け出しの冒険者で、隣町に荷物を届ける依頼を受けてたわけか」
赤毛の剣士リィナが、こくんとうなずいた。
「うん。でも……魔物が出るなんて思わなかったんだよ」
「……ギルドの人も、あの辺りじゃ魔物は出ないって言ってたしね」
青髪の魔法使い、ノエルが小さくため息をついた。
状況は日々変わる。前に出なかったからって、今も安全とは限らない。
「どうしよう……依頼、受けちゃったから。未達成だと、違約金取られちゃうよ……」
依頼に失敗したときのペナルティ。それは駆け出しにとってはなかなか痛い。
リィナが不安げに唇をかむ。
……なんというか、こういうのを見ると放っておけないんだよな。
「届け先は、隣町だったな?」
「うん。……けど?」
「だったら、俺も一緒に行く。俺もそっちに用がある」
その言葉に、リィナの顔が一気に明るくなった。
「ほんと!? 助かるよっ!」
「……こちらとしてもありがたいです。あなたの重力魔法には興味がありますし、ぜひ同行を」
ノエルは目を輝かせながら言った。
この子は、俺の力に純粋な好奇心を抱いているようだ。
「よし、じゃあ三人で出発しよう」
「おー!」
「おーです!」
◇
荷車を引いて、再び街道を進む。
俺は【減重】で荷車全体の重量をゼロに近づけている。魔物の素材や食料がどっさり詰まっているはずだが、リィナでも楽に押せるはずだ。
「うわぁ! 軽い軽い軽〜い! ガイアさんって、マジで重力いじれるんだね〜!」
「まあ、いじれるというか……操作してるだけだ」
リィナはゲラゲラ笑いながら、ノエルは黙々とメモ帳に何かを書き込んでいた。
そんな道中で――
「……あの熊の魔物だ」
リィナが指差した先に、それはいた。
前回リィナたちが襲われた場所。その中央に、巨体を地に伏せたまま動かない熊型の魔物がいた。
「……嘘でしょ。まだ魔法が継続してる……?」
ノエルが目を見開く。
「魔法には射程と持続時間があるの。発動者が離れたら、効果は切れるはず……」
「まあ、正確には俺のは“魔法”じゃないからな」
「……え?」
「これは重力使いの“能力”。魔力じゃなく、重力そのものを操作してる」
「…………」
ノエルが言葉を失っている間に、俺はリィナに言う。
「リィナ。あいつはもう動けない。剣士のお前なら、倒せるはずだ」
「……でも、前はあんなのに歯が立たなかったんだよ?」
「だから俺がサポートする」
そう言って、俺はリィナの体に向けて右手をかざす。
「【減重】」
リィナの全身がふわりと軽くなった。
「うわっ!? ちょ、なにこれ!? 身体が、めっちゃ軽い!」
「体重も装備も、極限まで軽量化した。けど飛んでっちゃ困るから、ギリギリの数値に調整してある」
「へ、へぇ……? そんなこともできるんだ……?」
「リィナの筋力はそのまま。重さだけが消えてる」
「…………」
ノエルがまた絶句してるけど、今はスルーだ。
「さらにもう一つ」
俺はリィナの剣に軽く触れた。
「【加重】」
リィナの剣がほんの一瞬だけ光を帯びる。
「これは……?」
「攻撃をサポートする技さ。さあ、行け」
「い、行くよぉおおおおおお!!」
リィナが剣を握り、疾風のように走り出す。
その動きはまるで、空気の抵抗すら受けていないかのようだった。
「くらえっ! 裂破斬!!」
リィナの縦一文字の斬撃が、魔物の胴を正確に捉える。
――ズバアアアアァァァァァン!!
重力を帯びた剣が、抵抗を許さず魔物の肉体を引き裂いた。
「真っ二つ!? やったあああああああ!!」
リィナがぴょんぴょん跳ねながら駆け戻ってくる。
ノエルはその様子を見て、静かに言った。
「……おかしい。絶対おかしい」
「な、なにが?」
「駆け出し冒険者が、一撃であんな魔物を倒せるわけがない。リィナのスペックで、あの威力は説明できない」
「あ、あたしもそう思うー!」
「……ガイア。あなた、他に何をしたの?」
「剣の重さを、1000倍にしたんだよ」
「「1000倍ぃいいいいいい!?」」
ノエルが、信じられないといった顔でリィナの剣を持ち上げる。
「……普通の重さだよ?」
「だから言っただろ。攻撃が当たる、その瞬間だけ重くしてるんだって」
「な、なにそれ……そんな精密な魔法操作、できるわけない……!」
「魔法じゃないって言ってるだろ。これは“能力”なんだよ」
ノエルが、震えるように呟いた。
「……重力使いって、こんなチート職だったの……?」
リィナも大きくうなずく。
「すっごいよ、ガイアさん! マジでありがとっ!」
……なんというか、久しぶりに人から素直に感謝されたな。
少しだけ、胸がくすぐったくなった。
「さ、先を急ごう。街までは、もうすぐだ」




