19.大量の敵を余裕で足止め
休憩を終え、俺たちは街を目指す。
ぴくりとノエルが表情を変えた。
「……ガイア。敵よ。数が多いわ」
「ほえ……? ノエル、なんでわかるの?」
「……風魔法で周囲の情報を拾っていたからよ」
「あ、そうなんだっ。ずっと目をつむってるから寝てるのかと思った。疲れてるのかなーって」
「……そんなわけないでしょ。ガイアの指示よ」
ノエルは風と氷の魔法が得意だ。
風は攻撃だけじゃなく、音や匂いを拾って周囲を探ることもできる。
今回は銀の剣という強いパーティが一緒だ。火力は十分。
だからノエルには、索敵に専念してもらっていた。
「敵にいち早く気づけるなんてっ。さっすがノエル~! そしてそれを指示したガイアさんもすごい!」
「「真面目にやれ」」
「はーい!」
御者に馬車を止めるよう指示が飛ぶ。
御者はうなずき、小さな石に声を吹き込んだ。あれは魔道具。同じ石を持つ相手に声を届けるレア品だ。
キャラバン隊が、前から順々に止まっていく。
ギンコさんたちが馬車を降り、こちらへやってきた。
「敵襲だね?」
“敵か?”とは聞いてこない。事前にノエルの索敵と連動させると伝えてあるからだ。
「はい。ノエル、詳細を」
ノエルが風魔法で得た情報を伝える。
「……多分、巨大鼠。ランクはD。銀の剣からすれば大した敵じゃない。でも……」
「数、か?」
俺が言うと、ノエルがうなずいた。
「ほえ、かず……? Dの魔物なら、Sのガイアさんやギンコさんたちがいれば余裕じゃん?」
「……数が、200もいるのよ」
「に、にひゃくぅ~~~~!?」
Dランク魔物はゴブリン程度。Sランカーなら寝ぼけていても倒せる。
だがそれが200もまとまれば話は別。しかも俺たちは馬車を守らねばならない。
「異常だ……」
「……同意」
ギンコさんもノエルも、異常事態と理解していた。もちろん俺もだ。
だが――考えるのは後だ。まずは切り抜けねば。
「敵の数が多いし、護衛対象も多い。ガイア君、君の意見を聞きたい」
ギンコさんが俺を見た。その目に不安はなく、信頼があった。
頑張らねば、と思う。
「大丈夫です。ギンコさんたちは各個撃破してください。敵は俺が足止めします」
ギンコさんが力強くうなずき、ばしっと背を叩いてくる。
「頼りにしてるよ」
「はいっ!」
俺はリィナとノエルと共に、馬車から少し離れた場所へ移動。
「ガイア、何するの? っていっても、重力でどーのこーのするんでしょ?」
「その通り。ここら一帯にトラップを仕掛ける」
「トラップ……あ! わかった! 前のクマモンスターのときと同じだね! 重力場で足止め!」
「……でもガイア。重力操作は対象に触れる必要があるんでしょう? 広範囲に罠を張るなら時間がかかる……」
ノエルが不安げに辺りを見回す。敵はもう近いのだろう。
「ああ。だから……ノエル。君が欲しい」
「!」
ノエルが目を大きく見開く。
「……え? や……そんな……」
「あー! ノエルずるい! いいなーいいなー!」
……何を言ってるんだ?
「……ん」
ノエルが目を閉じて、真っ赤になりながら俺を見上げてきた。何をしてるんだこの子……?
「ノエル、氷針をここら一帯の地面に突き刺してくれ」
「…………え?」
「~~~~っ!」
ノエルがさらに顔を赤くする。
「体調でも悪いのか?」
「……違う、はぁ……わたしのばか……何期待してたのよ……」
顔を手で覆うノエル。わからん……。
「ノエルぅ~。早とちりですなぁ~。あいたっ」
リィナがつつかれ、ノエルは杖を振り上げた。
「……いくわ」
「うん、頼む」
俺はノエルの肩に手を置く。
「……ガイア?」
「そのまま魔法撃って」
「……了解。氷針!」
氷の針が上空に出現し、次々と地面へ突き刺さる。
馬車を中心に円形を描くように、等間隔で。
「……これでいい?」
「ああ、バッチリだ」
そのときリィナが叫ぶ。
「来たよ! でっかいネズミの群れ! わ、すご……津波みたい……」
遠方から灰色の波が押し寄せてくる。
あれに呑まれれば重傷どころか死ぬだろう。リィナが震えるのも当然だ。
「大丈夫。俺が……みんなを死なせない。加重!」
ノエルの氷針を媒介に、重力場を展開。
巨大鼠たちが突き抜けようとした瞬間――ズンッ!
「!? 動かなくなった!? ガイアが触れてないのに!?」
「……私の魔法に、ガイアが触れたのね。氷針に重力を仕込んでおいて、あとから発動させたんだ」
さすがノエル。理解が早い。
「なんかよくわかんないけど! ガイアさんのおかげで敵が動かないってことだね!」
「ああ。リィナ、存分に暴れてこい。ギンコさんたちと一緒に」
「おっけー! いっくぞぉおー!」
リィナが刀を振る。加重をかけた一撃は、巨大鼠の首を軽々と吹き飛ばした。
「よっしゃ! サクサク倒してくよー!」
駆け出しのリィナですら一撃。
銀の剣の実力なら、なおさら手こずるわけがない。
200の敵が、瞬く間に減っていく。だが――。
「……やっぱり、変ね」
「そうだな……」
「……魔物がこんな数、平原に現れるなんておかしい」
その通りだ。巨大鼠は洞穴や森に巣を作る生き物。
こんな場所に200も現れるのは異常だ。
「……ガイアの意見は?」
「…………何かから逃げてきた、かな」
前にも似たことがあった。岩鳥のときだ。
本来ここにいないはずの魔物だった。
「……強大な力を持った何かから?」
「…………………………そう、だな」
俺は知っている。魔人だ。
おそらく、この辺に魔人がいる。それを恐れて魔物たちは逃げてきた。
どんな魔人かはわからない。だが――俺のように力をセーブしてはいないだろう。
「…………」
今まで運よく同胞に遭遇したことはなかった。
これが初めての、魔人との邂逅になるかもしれない。
そのとき――俺はどうするだろうか。
どんな選択をするのか……会ってみないと、わからない。




