12.ギルドマスターへの報告
岩蜥蜴の変異体を討伐した俺たちは、銀の剣のみなさんとともに街へ帰還した。
向かった先は、冒険者ギルド。
「見ろ、銀の剣だ!」「わぁ、ほんとだ!」「ギンコ様、素敵〜!」
銀の剣はSランクの実力に加え、見栄えも良く、リーダーをはじめ人格者揃い。
そりゃあ冒険者の間で人気にもなる。
「ギンコ様……! お帰りなさいませ!」
受付嬢が駆け寄る。ギンコさんはいま、リィナの肩を借りて立っている状態だ。
「お怪我を? 一体どうして……?」
「すまないが、この件で報告がある。ギルドマスターに取り次いでほしい」
受付嬢は異変を察したのか、こくりとうなずく。
「ああ、そうだ。報告には彼も同席させてくれ」
ギンコさんが俺の肩を軽く叩く。
「お荷物サポーターを……ですか?」
……悪い噂や陰口ってのは、どうしてこう広まりやすいのか。
追放された直後の俺なら、ため息のひとつもついていたかもしれない。
俺がリィナたちを見ると、二人は露骨に怒っていた。
俺を貶めた受付嬢に対して本気で。――だからだろう、今回は不思議と気にならなかった。
「何をしている?」
受付前でもめていると、上階から初老の男性の声。
受付嬢が「ギルマス!」と叫ぶ。ここのギルドマスターだ。
彼は降りてくるなり――
ごちんっ! と受付嬢の頭を小突いた。
「いっつぅ……!」
「ばか者。ギルド職員が冒険者を貶めるなど言語道断!」
「い、いやでもこの人は、黄昏の竜に寄生して、大した実力もないのにSランクに――」
ノエルが小さくため息。
「だからガイア、一部から嫌われてる」
「ずるしてSランクになれるなら、もっと量産されてるっての! そんなのバカなあたしにも分かるわ! 分からない人が世の中こんなにいるなんて、お馬鹿さん多すぎ~」
リィナの一言に、受付嬢は「ぐっ……」と歯噛みする。
「受付嬢。私はきちんとした謝罪を要求する。でなければ、今後このギルドからの依頼は一切受けない」
ギンコさんの瞳の奥に、怒りの火。
リィナたちだけじゃない。――俺を認め、怒ってくれる人がいる。
……ギンコさん。
「も、申し訳ございませんでした!!!!!!!」
受付嬢がその場で土下座。
ここまで騒ぎになれば、周囲の冒険者にも伝わる。
さっきまで蔑む目を向けてきた連中は、気まずそうに視線を逸らす。
別に、謝罪も好意もいらない。ただ――侮らなければそれでいい。
「私からも謝罪する、ガイア。うちのバカ受付嬢が無礼を働いた。即刻クビに――」
「俺はもういいですよ。謝罪は受け取りました。首にする必要はありません」
ギンコさんは満足げにうなずく。
「彼が許すなら、私も撤回しよう」
「うわぁぁぁん! ありがとうございますぅうう! ガイアさまぁぁ!」
大泣きで俺の足にしがみつく受付嬢。
仕事を失うのが怖かったのだろう。ここで問題を起こして解雇になれば、他所のギルドでの就職は難しい。Sランカーを怒らせた、なんて噂がつけばなおさらだ。
「もういいから……早く報告に移ろう」
「そうだな。上で話そう」
俺はうなずき、リィナたちへ声をかける。
「報告、行ってくる。二人は魔鉱石を提出して、報酬を受け取っておいてくれ」
「「はーい!」」
俺、ギンコさん、ギルマスの三人は、二階奥の部屋へ通された。
窓際の大きな机には「ギルドマスター」のプレート。ここがギルマスの執務室だ。
ソファに腰を下ろし、鉱山での出来事を報告する。
「なるほど……謎の力を使う人形の魔物に、岩蜥蜴の亜種か」
“バフを受けた岩蜥蜴”は、亜種として扱われたようだ。
「人形の魔物……一体何者だ? ギルマス、心当たりは?」
「……極秘だが、最近、その“謎の力”を使うヒトガタの魔物による被害が多発している」
「!? 頻発だと!」
ギンコさんががた、と立ち上がる。
「座りたまえ」
「なぜ公表しない!?」
「混乱を招くから、ですよね」
俺が言うと、ギルマスはうなずく。
「ああ。人型の魔物の存在を公表すれば、互いに疑い合い、魔女狩りになる」
重い口調。つまり――そういうことだ。
「人型の魔物……正体は?」
「……魔人、だ」
「魔人? なんだ、それは」
ギンコさんは知らないらしい。ギルマスは知っている様子だ。
「よく知っているな、ガイア。魔人の存在は太古から確認されているが、秘匿されてきたはずだ」
「……師から教わりました。魔人という名も、その脅威も」
俺は、よく知っている。誰よりも。
「魔人を知る師となれば数は限られる……が、詮索はよそう。君たちに嫌われるのは得策じゃない」
ギルマスは追及より実利を取った。
「ギルマス、そしてガイア君。魔人とは?」
「……この世界の人間には理解できない“大いなる力”を振るう、人のことです」
つまり――。
「ギンコたちが見たのも、おそらく魔人。何の魔人かは不明だが」
「“何の”魔人とは?」
「魔人は個体ごとに異能を持つ」
「魔人“たち”……? 複数いるのか!」
ギンコさんが驚く。俺は驚かない。知っているからだ。
「そうだ。数も全貌も不明だが、我らを凌駕し敵対する超人――魔人は存在する」
「……そうか。あれが、魔人」
彼女は呆然とつぶやいた。実際に対峙した者の重みだ。
「国は何を? 危険なら、即時に排除を」
「ああ。だが公表はできん。水面下で作戦は進行中だ。いずれギンコ、そしてガイア。強力なハイランカー諸君にも依頼がいくだろう。そのときは力を貸してほしい」
「もちろんだ。この力は、そのためにある」
魔人と相まみえてなお、戦う覚悟。――心の強い人だ。俺とは、違う。
「ガイア、君は?」
「……すみません。俺は“力には”なれません」
「ばかな!」
がたたっ、とギンコさんが再び立ち上がる。
「君の力があれば、あの魔人にも勝機が――」
「……でも、俺自身は弱い。サポートはできます。けど――」
目を閉じる。砕ける骨の音。上がる悲鳴。
「……できる限り協力はします。でも、魔人とは戦えません。討伐部隊には参加できない」
「ガイア君……わかった。“戦いたくない”のではなく、“直接は戦えない”理由があるんだね」
――!?
どうして、それを。
「そんなに驚く? 君が人助けを無視できない、勇敢で優しい子なのは分かってる。魔人を放っておくはずがない。それでも戦わないと言うのは、事情があるから。違うかい?」
「……さすがSランカー。お見通しですね」
俺には、人に言えない秘密がある。だから――皆と並んで魔人とは戦えない。
「まあ、今すぐ戦うわけじゃない。ギンコが見た魔人もどこかへ消えた。急ぎの用はない。そんな深刻な顔をするな」
こうして、その日のところは解散となった。魔人は姿を消し、確かな追加情報もない。動けないのも、仕方がない。
部屋を出ようとしたとき――。
「さて、ガイア君。皆のもとへ戻る前に、ひとつお願いがある」
「お願い、ですか?」
何だろう。まさか“戦わない”ことへのペナルティか?
「そんなに構えなくていい。些細な願いだ」
「は、はあ……どんな?」
「その――私と、このあと、食事しないかい?」
…………はい?
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