01.地味職、追放される
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こちらの連載版です。
「ガイア! おまえを、このパーティから追放する!」
その言葉が出た瞬間、宿屋の一室がしん……と静まり返った。
ここは、王都メルヴァール近郊。Sランク冒険者パーティ【黄昏の竜】が遠征から戻り、勝利の酒盛りをしていたはずの場所だ。
その中心にいたのは、パーティのリーダー、オクレール=ウォートル。筋骨隆々の大剣使いで、勝気な性格の男だ。
そして、その彼が真っ赤な顔で酒をあおりながら、俺に指を突きつけていた。
「……え?」
一瞬、言葉の意味がわからなかった。
俺――ガイア・グラヴィスは、Sランクパーティ【黄昏の竜】の一員として、今日まで任務に参加していた。
特に今回は、危険等級Sの地岩竜を討伐したばかりだったのだ。
「おまえ、もういらねえんだよ」
「……冗談だろ、オクレール」
「本気だ。おまえはもう、用済みだ」
あまりに唐突な追放宣言に、俺は思わず立ち上がる。周囲には、他のメンバー――メスガッキとイエスマが座っていて、それぞれ嘲笑気味の顔をしていた。
「そーよガイア。あんた、戦闘じゃまっっったく役に立ってないしぃ~?」
「でゅふふ、後ろから付いてきて荷物持ってるだけの存在ですからな!」
二人の言葉に、胸の奥がじわじわと熱くなる。
……こいつら、本気で言ってるのか?
──この世界では、生まれながらにして“職業”と呼ばれる力を授かる。
それは神より与えられる“生きるための才能”であり、冒険者という職業においては、戦闘能力を左右する最重要の要素だった。
剣士、魔法使い、僧侶、盗賊――そういった戦闘系のジョブは、前線で敵と戦い、仲間を守り、パーティの力となる。
……そんな中で、俺に与えられた職業は【重力使い】だった。
初めてそのジョブ名を聞いた時、俺自身も困惑した。
重力を使う……?
意味がわからなかった。攻撃力は無いし、回復もできない。火や氷のような魔法を操るわけでもない。
ただ、物の“重さ”を変えることができるだけの、地味な職業。
その能力で、俺は“ポーター”――荷物持ちとして、このパーティで役割を得ていた。
アイテムや素材の持ち運びを補助し、魔法使いや盗賊の身軽さをサポートし、誰よりも地味に、裏方として貢献していた。
……それが、今日。
討伐の帰り道、ある魔道具を手に入れたのだ。
「こいつを見ろ、ガイア。これが何かわかるか?」
オクレールが見せつけるように、小さな革袋を持ち上げる。
深い藍色の装飾がほどこされた、それは明らかに高級品だ。
「それ……【無限収納の魔法袋】か」
「そうだよ。容量無制限、重量無視。素材でもポーションでも、ガンガン詰め込める。これさえあれば……」
にやりと笑うオクレールの顔が、まるで悪戯をたくらむ子供のようだった。
「おまえ、いらねぇんだよ」
──ああ、そういうことか。
俺が今まで評価されていたのは、“荷物を軽くする”能力が便利だったから。
でも、この魔法袋があれば、もう重さなんて関係ない。荷物も素材も、誰かが持つ必要なんて無い。
なら、ポーターは用済み。
「おまえのジョブ、【重力使い】だっけ? 名前からして地味だし、何ができんだよって話だよなぁ?」
「ま、攻撃魔法もねーし、剣も振れねーし、せいぜい荷物軽くするだけって……それ、ジョブって言えるの?w」
メスガッキとイエスマの追い打ちに、ぐっと唇を噛む。
言いたいことは山ほどあった。
たとえば、オクレールが使ってる【竜殺し】の大剣は、もともと重すぎて扱いきれない代物だった。
それを俺が重力操作で軽くし、振れるようにした。
たとえば、メスガッキが敵陣に潜入する時、俺が彼女の身体の重さを極限まで軽くし、無音で動けるようにした。
たとえば、イエスマの土魔法も、岩弾を軽くすることで、より遠くまで撃ち出せるようにしていた。
……全部、言ってやろうかとも思った。
でも、彼らは最初から、俺が“ただの荷物持ち”であることにしたかったのだ。
俺の能力がチームに不可欠だと認めてしまえば、自分たちの見方が間違っていたことになる。
だから、気づかないフリをした。都合のいい道具として扱って、それが壊れたら捨てるだけ。
そんな扱いを、ずっと、されていたんだ。
「じゃ、そういうことで。ガイア、おまえは今日で追放だ」
「もう、あたしたちの前に顔出さないでね~。気分悪くなるしぃ」
メスガッキが、オクレールの腕にしなだれかかりながら、にやりと笑う。
その光景を、俺はただ黙って見つめた。
何も言い返さず、何も主張せず。
荷物も持たず、扉に手をかける。
「……わかった。じゃあ、元気でな」
扉を閉める瞬間、背中越しに最後の声が届いた。
「二度と戻ってくんなよ、雑魚が!」
外に出た。
街の灯りが、やけに遠く感じた。
……全部、無駄だったのか?
影のように支えてきた日々。誰よりも仲間のために尽くしてきたつもりだった。
けれど、重さは目に見えない。
どれほど価値あるものでも、“なかったこと”にされるからな……。
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