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メイドの神様  作者: 湊真水
0章
3/3

epi.3

目が覚めると見覚えのない天井と目が合う。

少なくとも私の知っている木の天井でもなければ、ヒステリックな声もない。

「あー頭痛い」

内側から叩きつけれられるような痛みに不快感を覚えながらも体を起こし、なんとなく周りを見る。

小さな話声が大部屋の入り口から室内に入り込んできている、如何やら起床時間を過ぎていたみたい。

少しぼーっとした後、力なく布団に倒れこんで仰向けになると、首に敷いていたパイプ枕に顔をうずめて足をジタバタと交互に上げ下げを繰り返す。

夢じゃない。私、やっぱりあの場所から、家から逃げ出せたんだ。

念願の夢がかなった実感は湧かないが、それでも心が高鳴っているのはわかる。


あの後の就寝前の記憶は鮮明には覚えていない。

ただおぼつかない足取りで何とか寝床に辿り着いた後、布団に寝転がったのだけは覚えている。

蓄積した過労と、極度のストレスのせいで泥のように眠った。

風呂も何も入ってない所為か、妙に肌にべたつきがある、流石に風呂ぐらいは入るべきだったかな。

昨日は死ぬほど疲れてたし、今日入ってチャラにしよう。

鉛のような頭をあげ、枕元にあるはずのスマホを探す。

ウロウロと手が迷いつつもなんとかスマホを掴め、そのまま電源を入れると、六時一九分の文字が浮かび上がる。

そろそろ目的地に着くはず、その前にお風呂とご飯だけでも済ませたいな。


私は髪をまとめた後、立ち上がって部屋を後にする。

速足で廊下を抜けて食堂に初めて入る。食堂では所謂バイキング式でそこまで豪勢ではないものの決して質素ではない食べ物や飲料水がテーブル上の皿にきれいに盛り付けられている。

普段は食べないようなバランスを度外視したオリジナル献立を作り上げると、食事を済ませる。

昨日の夜は何も食べていなかったからか、一度口にすれば自然と食欲が湧き出て、息つく間もなく皿を平らげた。

少し休憩した後、今度は部屋に戻って最小限の化粧品等を持って大浴場に向かい、体を流す。

ぎとぎとの髪をシャンプーで丁寧に洗い、タオルで水を吸い取ると、備え付けのリンスを毛先に塗り、また洗い流す。

ボディーソープで汗ばんで汚れている体中を軽く擦って垢を落とし、綺麗にする。

忘れずに洗顔もして清潔になり風呂から出て脱衣所で長い長いドライヤーの時間を過ごし、スキンケアをしてようやく大浴場を出た頃には既に七時を過ぎていた。


火照った体のまま部屋に戻り、髪を手で梳かしながら身支度を整えていると、アナウンスが船内中に響き渡った。

『お客様にご案内いたします。まもなく本船は大阪南港に入港いたします。それにより~』

やわらかい声で入港を伝えた後、そのまま下船準備を促す内容も流れ始める。

いよいよ大阪にたどり着いた。


気分が高揚しつつ少ない荷物をまとめて下船口へと移動すると、忙しなく大量のスマホを確認しているスタッフがいる。

私も周りの真似をするように列に並び、画面上に表示されたQRコードを提示する。


確認作業が終わった後は指示された通路を通り、ターミナルへ移動する。

大阪のターミナルというだけで、なんだか新鮮味がある。

ターミナルを出て周りを見回す。

「ここが大阪」

第一の気持ちとして、感動とか喜びとかの感情より、とにかく

「広いなあ・・・」

驚く程の規模感、何より山がない。

山の代わりに何棟もの高層ビルが立ち並び、絶え間ないエンジン音や生活音でにぎわっている。

もしかしたらあまりにも高いビル群の裏に隠れているのかもしれないが、それだけこの場所が発展しているのかが一目で理解できる。

大阪の主要港の一つでもあるし、この大都市ぶりにもうなずける。

「それよりどうしよ」

そう、ここである問題が浮上する。

とりあえずの勢いで逃げ出したから、逃亡に成功した後の計画をあまり立てていなかった。

この先どうしようかなんて全く考えていない。

一応所持金には余裕はあるから、最初に適当な宿でも取るか。


何はともあれ私が港でできる事なんて限られてるし、まずは大阪の中心まで行こう。


近場の駅に何とかたどり着き、切符を買って改札を通過し、これまた広い駅ホームで電車を待つ。

大阪までは一本で行けるらしい、なんとも便利で助かる。


暇なのでスマホを弄っていると、誰かからメールが届いている通知に気づく。

可愛らしいデザインのSNSアプリに軽く触れて開いてみる。

三件ほど同じ人物から不快な内容が届いているのが確認できた。

「『今どこ』、『帰ってこい』、『戻ったら話ある』、ね」

私の心配をするどころか、責める事しか能のない母親に心底あきれてしまう。

こんなのが親だなんて、本当に情けないし恥ずかしいし、それを上回るだけの悲しさもある。


勿論未読無視するしかない、こんなのに返信してたら何のためにここまで来たのか分からなくなる。

鬱陶しいメールを無視してアプリを閉じ、スマホをパーカーのポケットにしまう。

朝から憂鬱な気分で気が落ちていると、意外と早く電車がやってくる。

素早く電車が停止すると自動ドアが左右へと開き、中からおびただしい量の人が波を作って押し寄せてきた。

私は驚きつつも何あんなに人が下車したというのに、いまだ座席は満席で仕方なく立つことにした。

それから途中で停車するたびに乗り込む乗客に押しつぶされながらも、ようやく大阪の中心地、梅田に到着する。


ここで私は悪夢を見ることになる。

丁度通勤時間だったこともあり、駅ホーム内は人でごった返し、まったく身動きができなくなっている。

幸いにも人の流れに乗ってなんとか改札口を抜けることができたが、駅の外にも見たことないレベルの人間であふれている。

スーツケースを引く団体の観光客にしっかりした服装の会社員、おしゃれなブレザーに身を包む学生まで色とりどりの人々が行き交う。


なんだか私の地元じゃ見ない光景で、不思議な気持ちになる。


駅で苦労して梅田まで来た甲斐もあり、なんとか比較的格安な宿を見つけることができた。

そう、その名も漫画喫茶こと満喫である。


本当は他の宿か、野宿かのどちらかだったが運よくこの満喫を見つけれた。

中も見た目の割には狭くない上に個室のお陰でまだプライバシーは守れている。


これで宿問題は解決した、があらたな問題も浮上した。

「あかん、お金が足りひん」

いくら満喫が安上がりで済むにしても、無収入であることには変わりない、そのうえ所持金も限られている。

これじゃ下手すれば三日後ぐらいには野宿生活が始まってしまう、何か稼ぎ手段を考えなければ。

「こんなところでどうしよ言うねん」

愚痴りつつも目の前のデスクトップPCを起動し、ネット上に無造作に上がっている求人を探し始める。

肉体労働系の日雇いは私には到底こなせないのでこれは除外、それから大阪以外の地域も漏れなく除いて、そんな作業を淡々とを繰り返す。

マウスのクリック音が何度も個室内でなり続ける。

だがこんな世捨て人同然の身分で稼げる仕事なんてあるだろうか。

「あーもう」

案の定、ろくな仕事が残らない。

よくわからない内容からブラックなもの、確実に闇バイトとかそっち系の危なげな仕事までまともそうなのがない。

希望のものが見つからない、というか何がいいかもわからないのだが。

ただ惰性に画面をスクロールしていると、ある仕事が目に留まる

「ホールスタッフ?」

どうやらお店で注文を聞いたり、実際に料理を配膳したりする仕事らしい。

これなら私にも合ってるかも。

「まあ試すだけならただよね?」

ご愛読ありがとうございます。

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