第5話:仲間はまだ、1.5人。
「俺、ラップとか全然わかんねーけどさ。
でも、お前の言葉はなんか――残った。」
タケルはそう言って、音楽室の椅子にドカっと座った。
制服のシャツは開きっぱなし、髪は寝癖。
いかにも“やんちゃ系”ってやつ。
「お前、ラップ好きなのか?」
「いや、全然。ビートも韻も意味不明。
でもさ、昔ちょっとケンカで言い返せなくてな。
今思えば、口で勝つって、案外大事だなって思ってたとこだった。」
「……それで?」
「だから、練習付き合ってやるよ。よくわかんねぇけど、おもろそうだし。」
めちゃくちゃで雑で、でも――ありがたかった。
放課後の音楽室。
3人で、奇妙な練習が始まった。
ミオがスマホでビート流して、
俺がリリックを読んで、
タケルが「もっと強めにな」とか「今のカッコよかった」とか適当なアドバイスを言ってくる。
何もわかってないくせに、
その言葉が地味に嬉しい自分がいた。
「なあ、ミオ。お前はなんでそんなに協力的なんだよ。」
ふと聞いてみた。
ミオは少しだけ考えて、いつもの調子で笑った。
「んー、なんとなく? でもさ、あたし、応援したい人見つけたら全力出すタイプなの。」
「お前、意外と……」
「真面目? え、惚れた?」
「いや、怖い。」
「ははっ、だよね〜」
教室の窓から差し込む夕陽が、
笑うミオの顔と、気だるそうなタケルの姿を照らしていた。
なんか――いいかもしれない、こういうの。
「てかジョシュア、文化祭でやるならさ、もうちょっと“ネタ”増やしとけよな。」
「ネタ?」
「お前の過去とか、ムカついたこととか、逆に嬉しかったこととか。
そういうの、書けよ。そっちの方が“刺さる”だろ。」
「……お前、ほんとにラップ知らないのか?」
「いや、知らねえよ。
けど、“本音”ってやつは、どこでも強ぇんだよ。」
仲間はまだ、1.5人。
ミオとタケル。
どっちも頼りないけど、
俺にとって、世界で初めての“聴いてくれる人”だった。
次回:
「はじめて、誰かのために書いたラップ」
この回のタイトル「仲間はまだ、1.5人。」について、
実はちょっとだけ悩んだことがありました。
自分(山田)をその“1人”に含めるかどうか。
でも、今回は“含めない”ことにしました。
というのも、
ジョシュアはまだ自分のことを「仲間」って思えるほど、自信があるわけじゃないんですよね。
誰かの輪に入ること。
誰かと並んで歩くこと。
「仲間」って呼ぶことすら、ちょっと怖い。
だからこの「1.5人」は、
自分の言葉に耳を傾けてくれた他人たちへの“まだちょっと不確かな信頼”の数字です。
ミオはちゃんと“聴いてくれた”から「1」。
タケルはまだちょっとフラついてるから「0.5」。
仲間が“増えていくこと”がテーマの物語なので、
この数字がいつか「3」とか「5」になる日が来るかもしれません。
そんな成長も、一緒に見てもらえたらうれしいです。