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第4話:ビートに乗れない俺に、乗せてくれたやつ

「文化祭、やってくれるってマジ?」


その日の放課後、ミオが満面の笑みで近づいてきた。

俺はというと、教室の隅でイヤホンつけたまま座ってた。


「……まあ、やるとは言ったけど。」


「おおっしゃー! じゃあ練習しよ! 今から!」


「今から!?」


「何事もノリと勢いよ。ラップもビートに乗れなきゃ意味ないし!」


テンションが高い。高すぎる。

ついていけるわけがない、と思いながらも、なぜか断れなかった。


向かった先は音楽室。

誰もいない、静かな空間にピアノと机と、俺たち。


ミオはスマホを取り出して、簡単なビートを再生した。

スピーカーから流れるのは、ドン、ドン、タッ、という単調なループ。

でも、そのリズムが心に何かを呼び起こす。


「はい、じゃあいってみよー。最初のやつ、読んで!」


「……無理。」


「声、出さなきゃ意味ないって。書いたんでしょ? 自分で。

だったら、自分の言葉に責任持たなきゃ。」


「責任って……そんな大げさな。」


「じゃあ、あたし読むよ?」


「やめてくれ!」


思わず声が出た。


ミオがにやっと笑った。


「ほら、声出るじゃん。」


深呼吸をひとつ。

スマホを持って、ビートを耳に入れる。

ゆっくりと、口を開いた。


「俺を呼ぶ名は 黒人山田

でも中身は案外 シャイなパンダ」


声が震える。

でも、口に出したことで何かが変わった気がした。


「……なにこれ、思ったより恥ずかしい。」


「でも、すっごい良かったよ。ちゃんと“お前の声”だった。」


「……マジかよ。」


そのとき、背後からもう一つの声がした。


「今の、アンタが書いたの?」


振り向くと、音楽室の扉に背を預ける男子がいた。

見覚えはある。同じ学年、でも話したことはない。


「……そうだけど?」


「へえ。

じゃあ続き、ちょっと聞かせてくれよ。“黒人山田”。」


口元に、ほんの少しの笑み。

からかいじゃない、純粋な興味。


「……いいけど。名前、教えてくれよ。」


「タケル。2年B組。」


こうして、俺のラップを最初に“認めた”やつが、ひとり増えた。


次回:

「仲間はまだ、1.5人」

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