第2話:うるせぇギャルと、俺のノート。
「ラップ、やってよ。」
その一言で、俺の平穏な放課後が崩れた。
「……は?」
「いや、文化祭。うちのクラス、出し物まだ決まってないじゃん? これやれば、マジ話題になるって。」
「無理。絶対やらない。」
「え~、でもあのノートのやつ、めっちゃ良かったよ?」
「勝手に読んだんかい……」
ミオは、クラスのギャル。
ネイル、髪色、態度。どこをとっても真逆のタイプ。
俺のリリックなんて、絶対バカにされると思ってた。
でも——
「“俺を呼ぶ名は 黒人山田/でも中身は案外 シャイなパンダ”……って、ウケるし、なんかちょっとジーンときた。」
「それ、本気で書いたやつ……。」
「うん。だから良かったんだって。」
俺は言葉を失った。
今まで“笑いもの”にされるのが怖くて、誰にも見せなかったリリック。
それをこのギャルは、笑い飛ばすでもなく、「良かった」って言った。
「てかさ、アンタ……もったいないよ。」
「なにが?」
「そんなに言葉、持ってんのに。ずっと黙ってるなんて、もったいない。」
「……。」
「本気のやつ、聞かせてよ。
“黒人山田”って呼ばれてるけどさ、あたしは“山田ジョシュア”の声、もっと聞きたいんだけど。」
思わず顔を背ける。
なんでこんなにまっすぐ言えるんだ、こいつ。
「……考えとく。」
俺はそう言って、ノートをカバンにしまった。
心の中では、もうずっと——
言葉がうずいていた。