アヴェンジャー
初投稿です。
どうか彼らの戦いを見届けてください
残骸の荒野、人の形をした怒りがたたずんでいる。近づくものすべてを殺す亡霊だった。それはかつて英雄と呼ばれたものだった。
だが祖国を救えなかった、帝国に滅ぼされてしまった。友は戦場にて散り、忠誠を誓った我が王は言葉すら許されず焼かれた。ならば、ならば、私はもう英雄と呼ばれる資格はない。守るべきものはもういない。だが、我が足は残っている。剣をふるう腕は未だ繋がっている。そして何より、我が魂は朽ちていない、ならば、ならば!帝国の奴らを鏖殺することはできよう。
荒野の地平線、本を携えた剣士が亡霊に近づいている。彼はとある国家にて英雄と呼ばれる青年だった。彼は亡霊と相対する。
いいえ、いいえ、帝国はとうに滅びている。あなたの復讐はもう終わっている。この地に残っているのはあなたの魂だけだ。あなたの魂だけがこの地に縛られている。英雄と呼ばれたあなたを、亡霊となり果てたあなたを開放せんと数多の人間があなたに挑んだ。そして敗れ、死んでいったんだ。その中に私の父はいた。優しくて、尊敬していた父はあなたに殺された。だから、だからこれは復讐だ。これは
復讐者の戦いだ。
片方の復讐者が剣を構えた時、火蓋を落とす代わりに、狂った復讐者が飛びつくように剣を振り下ろし火花が飛び散る。剣のぶつかり合いによって二人は同時に後ろへのけぞる。
怒りのままに、しかして、確実な研鑽と経験をもって放たれる攻撃は、向かい来る剣士の命を脅かす。虚ろな瞳のまま振るわれる剣。一撃当たればかの剛腕をもって致命傷となるのは間違いなかった。
しかし、剣士はその死をもたらす斬撃を冷静に受け流す。剣士の目には怒りはない。ただ目の前の敵の動きを観察する。復讐に狂ってなお、その太刀筋に一切の隙はなかった。数十の斬撃の中、剣士は亡霊の隙を見つけ出し、一閃を繰り出す。亡霊はよけようとはしなかった。
(手ごたえがない)
確実に入った一撃はしかして亡霊には響かなかった。それもそうだろう、復讐者へと堕ちた彼は、一切なにも食していない、眠った姿さえも見せていない。それはつまり、
(文字通りの亡霊、もはや人ではない…!)
すでに攻防は100を越えていた。亡霊の剣は打ち合う度、苛烈さを増す。だが、剣士は亡霊の攻撃をすべていなす。だが、決定打は出せない。つかの間の拮抗。剣士は二度目の隙をつく。今度は剣をふるうのではなく、敵の一閃に合わせ体をひねり、蹴りを入れ、吹き飛ばす。亡霊は後方へと吹き飛ぶ。だが体制を崩さないまま着地し、大地を踏み上げ、敵対者の元へと向かう。しかし、
(十分!)
「剣よ、応えよ。我があり方は其方と同一、ただ敵を屠るのみ」
「戦場の墓標」
敵を殺すために現代で編み出された剣への付与魔法。研鑽を積んだ剣士のみが身につけることができる代物だった。剣士の元へと飛び込んだ亡霊はその剣を振り落とす瞬間に、先ほどまでとの違いに気づく。しかしそれでも亡霊は止まらない。
「遅い」
剣士の一閃は敵の攻撃より早く、腹部へと完璧な一撃が入る。亡霊は攻撃を当てることなく後ろへとのけぞる。確実な手ごたえ。だが亡霊は倒れることなくその場で停止する。剣士は、敵の間合いに入ることなく次の一手に備える。
一瞬の静寂。次の瞬間、虚ろな瞳が剣士の姿を映した。それと同時、剣士は大地を蹴り上げ敵の間合いに容赦なく入り、連撃を繰り出す。二度三度、敵に攻撃が命中する。攻防逆転、先ほどまでとは全くの真逆の戦闘が繰り広げられる。しかし、
(攻撃が、入らない…!?)
剣士の攻撃は繰り返される攻防の中で段々と入らなくなっていた。付与魔法によって速度と威力が上がったはずの攻撃は対応され始めている。剣士の一撃に焦りが含まれる。亡霊はその一撃を決して見逃さなかった。
亡霊の一閃が剣士の腹部へと放たれる。
(間に)
剣士は、防御をとる。
(合え!)
亡霊の一撃は、剣によって阻まれた。衝撃までは受けきれず剣士は後ろへと飛ばされる。剣士はどうにか体制立て直しどうにか構える。剣士は次の一撃を想定する。かの亡霊ならば攻めてくるだろうと。しかし、
(来ない…?)
剣士は亡霊を見やる。虚ろであったはずの目には、いつの間にか己が写っていた。剣士は確信する。ようやっと、自分は敵として認められたのだと。
(あぁ、これは光栄なことだろう)
それはかつての英雄に対等だと認められた証。いや、まだ対等ではないかもしれないが、それでも力を出すに値すると。かつて“最強“と称えられた英雄にそう認められたのだと。
剣士は一瞬、淡く微笑む。そして、剣士は時間を使って構え直す。亡霊もまた、鏡写しのように構えをとった。先ほどまでより美しく。
「来い」
(!!)
しわがれ、か細い声が亡霊より出される。虚ろな瞳は、狂気的な瞳へ。やはり亡霊の目には未だ剣士は帝国の者に見えているのは間違いなかった。それでも剣士は
「行きます」
尊敬と怒りをもって言葉を返す。それはかつて憧れた英雄に対して、そして父を殺した敵に対して。
言葉の響きが消えるとともに、剣士が先に大地を踏み込み蹴り上げた。轟音と共に渾身の一撃を上から振り下ろし、再開の合図を上げる。亡霊はその一撃を剣でもって向かえ、防ぐ。しかし、ダメージは確実に通っていた。剣士はそれを理解すると次の一手を繰り出さず、片手で剣を構える。それは一重にこの程度ではかの英雄は倒れないと知ったから。
剣士の予測通り、亡霊はダメージをものともせず、剣士のもとに一閃をもたらそうとした。しかし、
「燃えよ」
言葉と共に左手を敵に向ける。
「火炎」
(!?)
簡易魔法。亡霊の時代にはない一文による魔法。その魔法によって亡霊の攻撃はキャンセルされる。亡霊は見たことのない魔法によって攻撃が防がれたことに、一瞬フリーズした。剣士はそれを見逃さず、連撃を食らわせる。しかし、先ほどまでとは違い、簡易魔法『火炎』を織り交ぜながらの攻撃、亡霊の対処は明らかに遅れていた。
(やっぱり、今なら通じる!)
先ほどまでなら、亡霊にこの攻撃は通じなかった。なんせ、『火炎』の威力は低い。当てても意味がなかったのだ。それは亡霊が少しの理知を取り戻したデメリット。“過去”の英雄が知らない“現代”の戦い方。先ほどまでなら無視していた魔法を、理知を取り戻したがゆえに無視できなくなっていた。それに剣士は賭け、そして正しいと悟る。
一撃、もう一撃。都合9回。剣士は亡霊のもとに攻撃を届かせている。並の者であればもう数回は死んでいる。剣士は完全な優位をとれた、はずだった。
剣士の連撃は数度いなされ、亡霊はその度に鋭い反撃を剣士に向けた。もちろん、その程度は想定していた剣士のもとにその剣が届くことはなかった。しかし、
(また、対応され始めている)
攻撃を繰り出す度、剣士は手ごたえを感じなくなっていた。確かに、先ほどより対応は遅い。それでも対応される事実まで覆せない。だが、今度は一切の焦りは混じらなかった。
(対応しきられる前に、倒す!!)
魔法と剣による連撃を敵により苛烈に向ける。確実にダメージは入っている。倒しきれる確信があった。実際、その確信は正しかったのだろう。その一撃が見舞われるまでは。
剣士は攻撃する度に速くなる、そのうちの一撃がまた亡霊に向けられる。亡霊はその一撃に、己が剣を合わせいなす。このやり取りも数度目、剣士にとっては、問題ではなかった。だが亡霊の反撃、その一撃は先ほどまでとはけた違いの速度だった。
「っっ!!」
剣士は致命傷を負った。
(い、今のは一体!?)
辛うじて立っていられるほどの体力が残ったことに剣士は幸運を感じながら、困惑する。
「貴様、帝国の、者では、ないな?」
「!?」
亡霊がしわがれた声を出す。今度は確実な理性を伴って。
「貴様の、剣、帝国の、ものでは、ない」
英雄の目は確実に相手を見抜いていた。
「ならば、何故、俺を、殺さん、とする?」
それでも英雄の魂に残るのは怒りのみだと悟る。
「父が、あなたに殺されたが故」
「何、だと?貴様の、父は、帝国の者、か?」
「いいえ」
「!?そうか、それは、悪い、ことを、した。だが、俺も、未だ、朽ちれぬ、身なり」
「いいえ!あなたはもう…」
剣士は言葉を止める。かの復讐者に今、その言葉は届かないと。
「だが、俺も、貴様も、もう、次は、もう、耐えれ、まい。故に、次で、決めよう、強き剣士、さすれば、対等だろう」
「!…はい。ならば、決めましょう。どちらが強いか、どちらが復讐を終えるか」
「ああ、決め、よう」
二人の剣士は、構える。鏡合わせのように。
二人の復讐者は互いを見つめる。すべてをぶつけるために。
二人の英雄は言葉を紡ぎ始める。この時間を惜しむように。
青年は本を開く
「本よ、どうかわたしの言葉を聞いてほしい。剣よ、どうか我があり方を見届けてほしい」
それは青年の魔法。彼が持ちうる、彼だけの英雄の秘奥
「我は剣の担い手、しかし戦うことを全てとせず」
「我は知識の探究者、しかし失うことを恐れず」
「剣と知、それらをもってわたしは進もう、苦難を切り拓こう」
本より光の剣がもたらされる、それこそ彼の英雄の証。
「終わりは未だ遠く、物語は紡がれる!」
亡霊は己が剣を見つめる
「我、剣の、担い手なり、故に、戦いに、祖国を、託さん」
それは亡霊の魔法、彼を縛り付ける、彼だけの英雄の遺産
「友よ、どうか、我が、人生を、笑って、ほしい」
「王よ、どうか、貴方が、覇道を、進んで、ほしい」
「親愛なる者よ、其方ら、が、道を、俺が、切り、拓こう」
光が収束する、壊れたはずの剣に。それこそが彼が英雄だった証。
「剣は、誓い、我が祖国、こそ、栄光!」
二振りの剣は、二つの魔法は、
「叡智の車輪、剣の轍!」/「栄光こそ我が轍!」
終わりを告げる。
互いの魔法がぶつかり、片方はその道を明け渡した。故に、故に起こった両断。
その瞬間、現代の英雄は過去を打ち破った。
「天晴、なり、強き、剣、士、よ」
「あなたこそ、英雄」
「我が、復讐、は、でき、な、った。悔し、な。だが、生き、て…た、それに、ま、、る…し……。」
亡霊は沈黙する、満足そうに、何かを理解したかのように
「いいえ、いいえ。復讐は果たされている。それを貴方は自覚できなかっただけなのです。それに、英雄よ、そして我が祖先よ。あなたの守るべきものは生きていたのです。あなたの愛した家族の、血はこうして生きていると、伝えられたでしょうか」
現代の英雄は上を向いて微笑んだ。
「父さん、あなたの無念、晴らせたでしょうか。それならよいのですが。これからは私自身のために生きると、父さんの言いつけどおりにしますから、どうかこれからも見守ってください」
青年の瞳に、もう憂いはなかった。
この残骸の地に、復讐者はもう、いない。
見てくださった方ありがとうございます。
アヴェンジャーたちの戦い。どうだったでしょうか。面白いと持っていただければ幸いです。
コメント、誤字脱字の報告、質問等お待ちしております。
これからもしばらくは短編メインでちょくちょく投稿すると思います。ありがとうございました。