最悪の最悪の最悪
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「貴族が簡単に顔に出すもんじゃないぜ? まあ、気が付いただけでも及第点か。言ってみな。何、外しても何も言わねえよ」
「……もしかして、隣国に攻める意思があるのか?」
「正解だ。と言っても、隣接する2国の内の1方面だけだがな。最近、砦の近くを何やら入念に監視していたからな。攻める算段でも付けているんだろうと探っていた訳だ。それを報告したのが去年だな。で、今回派閥会議があるってのは、戦争に関しての話が1つだ。まあ、後は面倒な争いごとをしやがってって感じだろうな。リッテル王国に隣接している辺境伯の事を知っているか?」
「いや、辺境伯の事については殆ど知らない」
「そうか。まあ、俺の所とは別に2家も隣接している。それがエスタルド公爵派閥とミズレイア公爵派閥になるんだが、その派閥は知っているか?」
「一応概略くらいは」
確かエスタルド公爵派閥が、ジーデンス子爵家が所属していた派閥で、黒色人種排除主義の派閥だったよな? それでミズレイア公爵派閥は商業主義の派閥であり、シリエント公爵派閥とは同盟とまではいかなくても、それくらいは仲が良かったはずだ。
「それなら話が早い。この国には第1王子と第2王子が居るんだがな? どっちもそこまで優秀って訳でもねえんだ。第3王子はそもそも王位に興味なし、第4王子は優秀なんだが、妾の子供なんだ。第5王子はまだソウルメイトも持ってない子供だ。そんな感じになっている。で、ジェンティル公爵派閥の奴らが言い出しやがった。各王子に戦争の指揮を執らせようってな。ジェンティル公爵派閥は第2王子推しなんだよ。今回の戦争では各派閥がどの王子を推しているのかで勝負をつけようって話をしているらしい。戦線は3つの辺境伯家なんだが、4つの派閥が仕切る事になる。ついでにエスタルド公爵派閥は第1王子を、ミズレイア公爵派閥は第5王子を、俺たちシリエント公爵派閥は第4王子を推している。後は解るな?」
「王子そっちのけで戦争で次の王を決めようと。正直馬鹿なんじゃないのか? 戦争の強い弱いで王を決めてどうするんだよ。内政が出来るかどうかで決めろよ。戦争なんてそもそも不毛な事が得意でもあまり意味がないというのに……」
「まあ、基本は召喚獣のごり押しだからな。戦争ったって何も考えずに召喚獣を突撃させるだけでも戦線の維持は可能だ。特に今回は防衛戦争。抜かれたら終わりの状況で、誰が優秀かなんて決められるわけがないだろうよ。抜かれたらそもそも国が終わりかけるんだ。何を馬鹿な事をと思うのも解らんでもない。だがな、これはチャンスでもある。実はな、王もそこまで優秀な奴じゃねえんだ。だから第1王子をそのまま王にしようって腹積もりで居たらしい。それが嫌でジェンティル公爵派閥がちょっかいをかけたと。なら、俺たちは第4王子をねじ込んでやろうぜって話になっている訳よ。第4王子が王になった方がまだマシだからな。内政の何たるかを解っているのは第4王子が1番だ」
頭を抱えたくなる。派閥会議でそんな事が決まろうとしていたなんて思わんだろうが。内乱が起きたら面倒だぞと思っていたら、外圧がやって来るわ、外圧を利用して策略を通そうとする馬鹿が出てきて、更にはそれに乗っかってしまおうという訳かよ。……ちょっとどころの話じゃない。マジで国家的に大丈夫なのかって話じゃないか。
「まあ、頭を抱えたくなるのも解る。普通は利害関係なく防衛をするのが一番だ。それがそうも言ってられない状況になってしまったと。ならこっちも便乗しようぜって話だ。そもそもだ。勝てば悪い方向には転げることはない。全員が勝てば、資格は全員にあるだろうと言い切れるしな。勝手に負けられたら困るが。それをやられると、色々と計画が台無しになる。まあ、俺たちは第4王子を担ぎ上げて、あわよくば反転攻勢に出られたら良いな程度の考えだ。戦争が起きるのは殆ど確定だ。どう足掻こうが向こうが攻めてきた時点で戦争になる。俺たちは俺たちの出来ることをやればいいんだ」
「非常に申し訳ないが、叫びたい気持ちでいっぱいだ。何故に無駄な事をやりたがるのか。しかも、俺たちの勝利条件は、シリエント公爵派閥の勝利条件は、反転攻勢して、それが成功しなければならないっていうかなり厳しい状況だ。単純に防衛だけしても駄目だな。勝とうと思ったら攻めなければならなくなっている」
「おっ! 先がちゃんと見えているじゃないか。そうだ。守れればいいで終わっていたのであれば、実質俺たちの負けだ。そこをちゃんと気が付いている様で何よりだ」
「勝ち筋がかなり厳しい。……やってやれなくはないが、準備期間が欲しいな。最低でも現地での作業に3か月程度の時間が欲しい。それでなんとかなるかと言う所になるだろうか」
「……お前はこの戦争に勝ち筋を見たのか?」
「やろうと思えば防衛だけなら簡単だ。それこそ召喚獣を使い潰す勢いで突撃させればいい。冒険者は参戦義務はないから、召喚獣をありったけ買い込めば出来ない事ではないはずだ。そこに勝利を足せばいい。鍵となる召喚獣は既に持っているしな。出来るだけ防衛には労力を使いたくはないが、念のために神殿だけは建てておきたいか」
「見込みがあるじゃねえか。この状況で既に勝ち筋が見えているか。碌に情報も無いってのに、よくも見えるな。何か決め手はあったのか?」
「決め手は自分の手札だけだな。大抵の状況ならなんとかできるだけの戦力を集めていたところなんだ。……元々は内乱の兆しがあると踏んで準備をしていたからな」
「ほう! 手札が揃っているのか。……見た感じそっちのソウルメイトに面白そうな奴は見えないけどな」
「ソウルメイトを充実させているのは近衛の方だ。俺自身はダンジョン特化型の編成をしているし、そもそも法衣貴族たちはジーデンス子爵家から引き継いでいるからな。余り戦力にはならない」
「近衛ねえ。戦える奴が来てくれたことは有難く思っておいた方がいいだろうな。厳しい戦いになるだろうが、出来ない訳じゃない。その勝ち筋を手繰り寄せてみろ。手繰り寄せることに成功したら、俺の方から飛び地を用意してやるよ。まあ、占領地次第ではあるがな。管理は出来るだろう? お前の移動手段があれば、飛び地なんてそこまでの苦労をしないだろうしな」
「出来る限りの事はやるつもりだ。出来る範囲でな。勝ち筋が残っている状態で諦めるというのもなんだ。出来る限り足掻いてやるつもりだ」
「そうじゃなきゃ面白くねえな! 有意義な話だったぜ。期待はした方が良さそうだな。お前の目には絶望が感じられなかった。しかもそっちのソウルメイトが面倒くさそうな顔をしたからな。出来ない事を言っているって感じじゃなかった。忙しくなるから面倒そうにしたんだろう。良いじゃないか。やってみせろ。俺もできうることはやってやるからよ」
戦争を仕掛けられるうえに、戦争に勝たなければならないという条件がついて、攻めに転じなければならないという難題を用意された。出来なくはない。非常に面倒なだけで。幸子が面倒そうな顔をしたのは解った。まあ、面倒この上ないだろうからな。勝つだけでも面倒なのに、攻めなければならなくなったんだ。しかも、俺の苦手な多対多の状況で、になる。俺が得意としているのは、貧乏神を用いたジャイアントキリングスタイル。物量戦は苦手としているのだ。だからスタンピードでも苦戦していた。その規模が大きくなるんだ。面倒だと思っても仕方がない。まあ、なんとかするけどな。




