「伴死」の外見描写
「死を思い、死を拒み、死を呪え。迫る死の前には、死そのもの自体も例外でなく……」
裁断士の「伴死」が、全裸で頭にタオルを被せて、脱衣所へと出ていった。
左目を隠す前髪には、ピンク色のビームが、簡略化した3本の鎖紋様で浮き出ている。
広い入浴場は、たちまちのうちに凍りつき、扉でさえ閉じなくなる。
伴死は鏡の前でタオルをとり、自らの美貌に自惚れた。
「「伴死」は迫る死、伴う死。わたくしは裁断のタリアトーレ」
胸まで伸ばした長い髪は、色のない透き通った、なだらかな形の毛髪。
まつ毛も透き通り、たっぷりとしており、長く尖った耳と共に、人間ではない美しさを演出している。
瞳は太陽のようにキラめくピンク色、眠そうな目つき。鼻は小ぶりで先が丸い。口は小さく、唇は薄く、顎の輪郭は頼りなさげな子供の形。
「あらゆるものを切り離す術を修行していて、ビーム形成の武器で射程圏を伸ばす」
前髪は顔の左側を殆ど隠し、横髪は頭頂から頬までを包むようにカーブしている。
そして、右の側頭部には、赤く染まった無形の仮面。その形は簡素でサイズも小さいが、馬の頭蓋を模している。
「ならば、何も刀だけに拘る必要はないのではないか。最近そう思った、26さい絶世の美女」
目隠れの前髪にはピンク色の薄いビームが紋様を作り、先に述べた通り今は鎖の形をしている。
鎖は後頭部まで伸びており、その端は馬骨の仮面に繋がっている。
「身長175前後。体重0.2トン超」
言葉とは裏腹に伴死は軽やかな動きで洗面台から離れ、丸く豊かな胸が小さく揺れる。
彼女はカゴから下着をつまんで、すぐに袖無しのシャツブラウスと、赤茶のタイツまで身につけた。
「好きなものは女王さま♡ 誕生日は後でわかる」
ボタンが閉じきれずブラジャーの黒レースをチラ見せたまま、真っ赤なスカートのチャックを閉める。
手首の具合を確かめて、両手の親指根もと辺りから、長く細っこい指先までを、葡萄酒色のビームで包む。
「えーっと、後は……趣味とかかな。髪の長い綺麗な人がタイプです」
カゴから最後の衣服、ヒダヒダの片羽織を引き出し、バサッと肩にかけて、わきに紐を通して結ぶ。
脱衣所の扉を開けて、アンクルブーツに足を通す。それでようやく、伴死の外見描写は完了。
「肩出しも好きで、足が長くて胸がデカくて、爪が赤かったり黒かったりするのも好き」
長い廊下を歩きながら、伴死はブツブツと何かを言い続ける。
彼女が歩みを進める度に、メカクレ髪のビーム鎖が、激しい明滅を繰り返す。
「目が灰色で、髪の色が複雑で、背が高いところが好き。座高は、わたくしが勝つけども」
ついにエントランスまでやって来た伴死は、玄関口に刺しておいた、ビーム形成の太刀をズカッ、と引き抜いた。
広い屋敷が、ごうんと揺れて、チリや埃がパラパラと落ちる。
「彼女の全部が好き。優しいところ、聡いとこ。悪どいところ、真面目なところ」
伴死は左手を開いて、閉じた右目の前にかざす。
ビーム鎖が明滅の間隔を激しく早め、やがてバッ、と咲くように形を変えた。
「……"雷"のビーム型、迅雷やじり。死ね」
突然、伴死は冷酷な目で吐き捨てる。
そして、恐ろしく揺れ始めた屋敷玄関で、太刀を周囲に薙ぎつけた。
「バッガァアアア~ッ! メキメキメキィッ、うぐわわわわ~っ!」
轟音を立てて、真っ二つに割れる、濁り透明色の屋敷。
唸り雄叫びをあげる木造サンドイッチの隙間から、雷の勢いで「伴死」が飛び出し、枯れ葉の敷場に着地した。
「ぶはっ……! ゼイ、ゼイ、ゼイ……や、やっと動けるようになったか」
「わたくしは嫉妬深くてね。彼女の大切な母親を、いつか殺そうと思ってる」
「くそったれ……! ヒトの、いや病魔の体内でブツブツと気持ち悪りーんだよ! 人間は黙ってオレに食い殺されやがれ!」
いきり立ち、怒りに絶叫する病魔、屋敷化け物。化け物屋敷ではなく、屋敷自体が化け物だ。
屋敷は木板のキバを剥き出して、主塔の時計眼球を赤くギラつかせた。
「彼女の敵は当然殺すし、味方する者は嫉妬で殺す。先代の女王は最後に殺す相手で、よくて4体1だろうが真正面から必ず殺す」
「黙れ~! せっかく人間を誘き寄せるために調えた、オレの快適空間を満喫しやがって! ブッ殺してやる!」
屋敷が尖り屋根を伸ばして、伴死を狙って殺到する。
もはや家の体も失い、化け物は呪いの叫びを轟かせた。
伴死は、その場から一歩も動かず、
「ねえ。なんで、この話お前にしたと思う?」
「アア!?」
くるりと反転し、背中を向けた。抜き身の太刀は構えたままで、前髪の上でアーチ状連太鼓の紋様が、稲妻のように激しく瞬く。
そして、伴死は振り向きざまに殺到する尖り屋根へと、
「お風呂、ありがとうね。"空間諸共"斬り。11と22の馬」
「何!? あっ──」
さらにその先、屋敷へ向けて、ビームの太刀をフルスイングした。
バカッ、と音を立てて、空間ごと真っ二つにされる屋敷病魔。しかし巻き添えの木々は瞬時に元に戻り、屋敷のみが爆炎を噴き上げた。
「ぐわあっ。ぐわっ! うぐわあ! ぐわ~……っ!」
「ということでね、修行に戻るか。敵は生死のあらゆる世界。壁は数多く遥か高く、休んでるヒマなんてない!」
病滅爆炎から目を逸らし、逃げるように振り向く裁断士「伴死」。
ここは焼けの森、入らずの森。病魔を失って、この地はしばらくの安寧を得る。
「永遠が~、失うことの特権と~。どうして残酷、言えましょう~♪」
彼女の修行が終わる日など、永遠に来ることはない。