ある男の一生
ある男の人生を見てみませんか?どこにでもありそうな人生ですが、ここにしかない人生です。
気づいたらある男は、竹林の中を母と歩いていた。歳は4歳でこの頃の記憶からはっきり覚えている。近くの店までお菓子を買いに行く途中である。笹の香りを感じながらそよ風を感じながら歩いている。この頃が人生の中で一番幸せだったかもしれない。幼稚園でいうと年少の歳であるが、今年引っ越すということもあり幼稚園には通っていない。毎日が自由で遊びたい時に遊び、眠りたい時に眠っていた。同じ歳の友達で幼稚園に通っていた子もいた。羨ましさはなくただただその姿を見て不安を感じていた。
気づいたらある男は、三匹の子ぶたの紙芝居を見ていた。ここは幼稚園である。体験入学の真っ最中。不安でしかなかった。知っている人は一人もいずにただただ沈黙を続けていた。その後、幼稚園に入学しバスで通園をしていたが、必ず一番後ろの席に座った。道順を覚えるためである。園についたら即帰宅るためである。ただ道順を覚えることができず帰ることもできなかった。幼稚園では好きなことは一つもなく嫌いなことしかなかった。人生で一番つらかったかもしれない。特に給食は一番嫌いであった。嫌いな食べ物が多くいつも最後まで残っていた。食べた子から友達と遊べたが遊ぶ友達もいなかったので、その点はよかった。
気づいたらある男は、春の緑の芽吹きを感じながら、校歌を歌っていた。小学1年生になっていた。幼稚園を卒業して小学校に入学したのである。とても緊張しており、その後の人生では、春の芽吹きを感じると校歌を思い出し妙に緊張するようになった。
気づいたらある男は、毎日のように叱られていた。小学4年生になっていた。ギャングエイジとよばれる頃である。ギャングエイジとは低学年の頃とは少し違った態度を取るようになり、親や先生に反抗する時期である。学校の生活にも慣れ緊張感がなくなりふざけるようになっていた。卒業式の練習の時に友達とふざけていたり、クラスメートが嫌な気持ちになるあだ名をつけたりした。人生の中で叱られた経験の90%がこの時期である。
気づいたらある男は、体育大会でリレーのアンカーを走っていた。中学1年生になっていた。第二次性徴期を迎え、落ち着きを取り戻し、勉強やスポーツで活躍していた。授業後には廊下で複数の女子が待っていてくれたりした。人生の中で一番モテていて輝いていた時期かもしれない。
気づいたらある男は、ダンスの練習をしていた。高校2年生になっていた。体育祭で発表するためである。ダンスは得意ではないのでとても苦労をしていた。受験をして高校に入学したので、同じような生徒が集まっており、勉強やスポーツで目立った活躍をすることもなく、地味な高校生活を送っていた。
気づいたらある男は、教員採用試験を受験していた。大学4年生になっていた。教員志望で教員養成の大学に入学していた。一次試験は筆記で二次試験は面接である。一次試験の筆記はできがよく通過したが、面接は緊張してしまい不合格であった。来年も受験することを決めた。次の年は面接の対策をしっかりして受験に臨んだ。しかし不合格であった。
気づいたらある男は、教壇に立っていた。30歳になっていた。臨時教員をしていた。臨時教員とは欠員補充や産休育休の代わりの教員である。毎年のように面接で落ち続けていた。この時期にある女性と出会った。結婚をすることになった。しかしその直前に彼女に重い病気が見つかった。それでも結婚をしようとしたが彼女に断られた。お互いの幸せを考えてのことだった。ある男にとって人生の中で一番悲しく切ないできことだった。
気づいたらある男は、子どもと遊んでいた。40歳になっていた。自分の子どもではない。独身である。この歳から転職をして学童保育で働いていた。大学4年生から毎年受け続けて落ち続けていた教員採用試験も39歳で終えた。悔しさもあるが、肩の力もぬけて、晴れやかな気持ちになっていた。
気づいたらある男は、小説を書いていた。50歳になっていた。働きながら小説を書いていた。男には誰にも言っていない夢があった。それは売れっ子タレントになってテレビで活躍することである。昔からテレビが好きで華やかな世界に飛び込んでみたかった。自分が書いた小説が売れれば、それがきっかけでテレビで活躍できると考えた。
気づいたらある男は、クイズ番組に出場していた。60歳になっていた。60歳に書いた小説がようやくベストセラーとなり、テレビのバラエティー番組に引っ張りだこになっていた。夢がかなった瞬間である。毎日忙しく過ごしていた。
気づいたらある男は、息を引き取る瞬間であった。70歳になっていた。思ったより短い人生であったが、充実していた。最期に後悔があるとしたら「生涯独身であったこと」だとつぶやき一粒の涙を流した。そして静かに息を引き取った。
あっという間に過ぎていった一生だが、この世の中に一つしかない一生である。
今までの自分自身の人生を振り返り、これからの自分自身の人生を考えるきっかけとなればよいです。