8.ゼロフォー、起きてる?-きみと組ませたのは正解だったよ-
全44話予定です
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しばらくしてそれも落ち着き、
「もういいかな?」
そう言われて手を放す。マリアーナも涙を拭いて、
「すみませんマスター、取り乱しましたの」
――ありがとうございますの。
そう言って改まる。
「聞いたよ、人に撃つのに抵抗があるのは分かってる。そんな簡単に克服できるものでない事も。だったら、誰かのせいにしてしまえばいいんじゃあないかな?」
カズは微笑む。
「そ、れは?」
「今きみは[わたくしは罰せられなければならない]と言ったね。じゃあその十字架にオレがなってあげるよ。辛い事があったらオレの事を思い出せばいい。そしてオレは、きみがどんな非道な事をしても[許すという罰]を与えてあげる」
その言葉に反応したのだろう、
「マス、ター? いいんですの? わたくしを導いてくださいますの?」
恐る恐るそう尋ねるマリアーナに、
「はじめっからそのつもりでいるよ。レイリアやトリシャ、それにクリス、そしてきみ。そんな事を言えばゼロツーだってゼロスリーだってゼロフォーだって、もっと言えば基地で帰りを待ってくれている娘たちみんなの枷であり、十字架なんだ。辛ければ[マスターに命令されたから]という口実で逃げていいんだ」
カズは静かにそう告げた。
――あぁ、この人は達観しているんですのね。
マリアーナは少し上気していた。それはカズという存在に傾倒、心酔し始めた証拠かもしれない。もちろん[調律]でマスターの命令は絶対、と叩き込まれているし、あらがう事が出来ないでいる。
しかし[カズは他のマスターとは違う]とマリアーナは思う。それは他のマスターたちは自分で手を汚そうとはしないから。カズだけが唯一、自分たちの[苦しみ]を体験、理解してくれる。そんな彼女は間違いなくカズに傾倒を始めていた。
――本当のマスターはあなただけですの。
もちろん、だからと言って他のマスターたちに抵抗するつもりはない、し出来ない。だが、カズを特別視し始めているのは事実なのだ。
カズはインカムを自分のとマリアーナの分を用意していた。先ほどのトリシャの時に使っていたものである。そしてボタンを操作してそっと彼女の耳にそれを付け、
「ゼロフォー、起きてる?」
と尋ねた。
インカムからは直ぐに、
「はいマスター、すべて聞いておりました。私は何をすればよろしいでしょうか?」
きわめて抑揚のない声でそう返って来るので、
「聞いてのとおりだ。もしマリアーナの心が折れそうになったらオレの言った事を復唱するんだ。コントロールを切り替えるのは、それでもダメな時だけにしなさい。いいね?」
「私には拒否権はありませんし、マスターの言った事がすべてです。復唱します、マリアーナ准尉が精神的に不安定になった際、マスターの言葉を耳元で復唱します。それでコントロールを回復するように試みます。よろしいでしょうか?」
やはりゼロフォーの声には抑揚が無い。
だが、
「きみと組ませたのは正解だったよ。それでいい、オレがいない時のマリアーナのサポート、よろしくね」
と返す。
「はいマスター」
その声に迷いは一つも見られない。
「よし、それでこの話はいいかな?」
マリアーナとゼロフォーが[はいマスター]と声をそろえたのを確認してから、
「ゼロフォー、実はきみにも話があるんだ」
と言ったあと、
「一対十二で被弾もせずに渡り合えたんだろ? コントロールもしたと聞いている。そこで、だ」
カズは[アップデート]の話をして、
「きみの情報を活用しようと思う。それから、三五Fの操縦は出来るね?」
と聞く。
「はいマスター、一通りの操作は出来ますが」
「一人、オレに協力したいと言ってくれている人間がいるんだ。その人と一緒に自我のあるサブプロセッサーに操縦を、その攻撃方法や回避方法といった運用法を教えてもらいたいんだ。もちろん、アルカテイルに帰って状況がどんななのか確認が取れて、席を外せるようなら、という条件付きだけどね」
カズはそこまで言って、
「あ、そうそう。その二人羽織をした彼にも協力してもらおう。確か……」
とまで出た言葉に、
「カレルヴォ・レイノという方でした。バンクを参照するに現在は少尉、かと」
直ぐに答えが返って来る。
「そうそうカレルヴォ少尉」
そう言ったあと、
「ゼロフォーには階級が無いから関係ない話かもしれないけど、今回の成果でちょっと政府と掛け合おうと思う。別に無理に昇進がしたい訳じゃあない。けど大佐や准将がいるところに大尉や少尉っていうのもね。もちろんマリアーナの准尉についてもだ」
カズを取り巻く環境は一秒だって待ってはくれないのだから。
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