6.さて次、次っと-貴方様がいてくださるだけでわたくしは良いんですの-
全44話予定です
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「さて次、次っと」
タグボートで今度はマリアーナのところへ向かう。こちらもあらかじめ乗船する事は伝えてあるのですんなりと事が進んだ。
トリシャと同じくレイドライバーの格納デッキで待つように言ってある。
カズが格納デッキに降りていくと、そわそわしたマリアーナが見えた。
「お疲れ様、大丈夫かい?」
カズはそう声をかけた。その瞬間のマリアーナの顔はとても印象に残るものだ。それはカズをしても[印象的]と思えるほどの。
「マスター!」
――貴方様がいてくださるだけでわたくしは良いんですの。
その顔はまるで恋人に会ったかのような、そんな笑顔なのだ。
だが、カズなら分かるはず。
これは[作られた]笑顔なのだ、と。カズの事をマスターと呼び、その命令には絶対従う。孤児院でそう[調律]を受けてきて育って来たのだ。しかも、レイリアたち第一期生より、より厳密に[調律]は施されている。
だからだろう、語弊を恐れず言うならカズの事を[恋人以上のある種の絶対神]のように思えてしまうのだ。それは成長途中だった彼女たちの深層心理に深く焼き付いている。
マリアーナはまだ十八歳だが[調律]はその成長過程で重要な十歳から十六歳まで続けられた。毎日毎日繰り返し[調律]を行う。効きが悪い時などはごく少量ではあるが[クスリ]も併用される。
そうやって毎日毎日少しずつ[刷り込んで]いくのだ。そうして育った孤児院の出身者は第二期生以降にはより厳格に[調律]が施されるようになった。
だが、そこで問題が浮上した。
厳密に[調律]を行えば行うほどその個体の自立性が失われていくのだ。
人間というのは良く出来ていて、自己防衛が働くのである。
具体的には、何に対しても鈍化という症状が現れる。例えば、ムチをふるえばそのうちに痛みに慣れ、精神的に攻めれば自分を守るために殻に閉じこもる。場合によっては部分的にそれを受け入れて共存していく。
つまり全部がおかしくなる前に意図的に[壊れる]のだ。
もちろん、生理的なものは慣れない事もある。クリスの例がそれにあたる。彼女はいつまで経っても男性には慣れなかったし、今でも慣れないのだ。
この、鈍化作用はそれらは全て[自己を守る]という、どの生命体もが持っている自然の法則なのだが、こちらに都合いいように[調律]しようとすればするほど、これが非常に高い壁になる。
ではどうするか。
そこで前述の脳科学である。
第二期生以降には記憶操作が行われていた。この時代の、特に第一期生を育てていた途中からの同盟連合の脳科学はかなり発展している。その発展にカズたちの実験が大きく寄与しているのは間違いない。
それはカズの[人員整理]も関係しているだろう。何と言っても予定調和的な研究の進展が一気に伸びたのだから。
一例をあげるなら、意識を持ったままでの生体コンピューターを搭載する、いわゆる[自我を持ったサブプロセッサー]は、これだけ完全なものは同盟連合しか実現していない。全世界の約半分の領土をもつ帝国ですらいまだに実現していないのである。それをゼロゼロが誕生する段階で既に確立していたのだから。
しかしながらこの脳科学、特に操作系の分野には難点がある。
脳に対しての記憶操作や人格操作は、成長途中の脳でないと効果が薄い。というか、ほとんど効果が期待できないのだ。
つまり、成人には効果がない、といえる。
しかしながら逆に言うと、成長途中の脳には目的の施術をほとんど苦も無く施す事が出来るのである。
その一端が、ゼロツーに施された特定の記憶を消す事であり、更にはゼロスリーに施された多重人格を作り出す事なのである。
そして、それはゼロフォーやマリアーナにも言える事なのである。
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