5.今のうちに出来る事をしよう-各隊員のアフターケアである-
全44話予定です
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アルカテイルとの通信を終わらせたカズは、今のうちに出来る事をしようと考えた。
エルミダスに通信を送ろうとも考えたが、それは付き添いの人間にまかせた。現エルミダス基地司令というのは元の副司令である。その性格からして皆からあまり好かれてはいない。もちろん、カズもその一人だ。
それにおおかた情報を入手したカズには、現在通過点にすぎないエルミダス基地への通信より、それ以上にやらないといけない事が待っている。
それは各隊員のアフターケアである。
確かにこの、皆がカズの事をしたっていたり、隷属していたり命令に逆らえない状態に置かれているという、ある意味ハーレム状態を作ったのはカズその人である。だが、それはよこしまな考えがあってそうしたわけではない。あくまでも部隊運営をスムーズにするための処置なのである。
だからと言って釣った魚に餌をやらない、というのはそもそもがハーレムの維持が難しくなる。
ちゃんとそういう自覚があるからこそ各隊員のアフターケアを、という訳なのだろう。
揚陸艦からタグボートを出して、まずはトリシャのところへ向かう。
あらかじめ乗船の意志は伝えてあるので、スムーズに引き上げてもらえた。
トリシャにはレイドライバーの格納デッキで待つように言ってある。
そして、
「やぁ、トリシャ。お疲れ様」
その姿を見たトリシャは、
「あぁ、来てくれたのね、ありがとう。それより、時計ありがとう。もしだったらこの時計、これからも着けさせてくれない?」
トリシャはそうカズに言ったのだ。
――私は貴方の事が、好きよ、カズ。
それはカズにも伝わったようで、
「気に入ってくれたかい、それは良かった。まぁ、本当に贈り物にしようと考えてはいたんだけれど。その時計の元となる時計もちゃんとあるんだよ。ちょっとお値段が高めな、ね」
カズが言うにはその時計を作っているところに依頼して無線機が入るスペースを作って無理言って付けてもらったそうだ。
「どちらがいい?」
ちょっと意地悪な質問。その問いに、
「今、私がしている時計がいいわ。出撃の時にはパイロットスーツを着るから一度外してもらわないといけないけど、それが手間でなければ」
そんなトリシャは、カズか今まで見た事のないような、はにかんだ笑顔で迷うことなくそう答えたのだ。
「その意味、ちゃんと分かっているみたいだね」
――ええ、貴方が望むなら地獄にだって落ちるわ。
カズがそう言うと、トリシャはおもむろにひざまずき、カズの手を両手で添えるように取って、
「どんな事も、します、ご主人様。だから、私の事、捨てないでね」
言い終わるとカズの手にキスをして返す。
一連の行動を茶化す事なくちゃんと見届けたあと、トリシャが立ち上がるのをその手でアシストしながら立ち上がったところでそのままハグをする。
そして自分の唇でトリシャの唇を塞ぐ。それを合図にトリシャは目を瞑ってカズをギュッと抱きしめる。カズも負けてはいない。その要求に応えるようにギュッと抱きしめたのだ。
どのくらいそうしていただろう、それも永遠には続かないのはお互い理解しているので、どちらとなく手を放し、手に持っていたインカムをお互いの耳に付ける。
そして、
「という訳だ、ゼロツー」
レイドライバーは、基本的に出撃できるようにデッキには立ち膝の状態で収納されている。そしてトリシャと抱き合ったのはレイドライバーの真ん前だ。それはゼロツーに[見られている]し[聞かれている]という事を示している。
「あーしに躰があれば、あーしも抱きしめてほしいです、マスター」
腕時計からそんな声がする。
カズはトリシャから離れるとレイドライバーに近づいていく。そしてコックピットのあたりをギュッとして、
「きみも[こちら側]の人間だ。オレは躰がある、ない、で差別はしないよ」
と言ったのだ。
「ありがとうございます、マスター」
そう言ったゼロツーの声は少しだけ震えていたように聞こえた。
「報告にあった。まぁ、兵器だから人を殺すのが主目的なんだけどさ、二人ともよく頑張ったね。お陰で作戦は達せられたよ」
二人にねぎらいの言葉をかける。
「そう言って貰えると嬉しいわ」
「あーしも嬉しいっす」
どうやらこの二人は大丈夫なようである。
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