4.それで今彼は何処に?-ギリギリまで残る、と伝えてきた-
全44話予定です
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「それで今彼は何処に?」
との問いに、
「まだ潜入している。ギリギリまで残る、と伝えてきた。下手をすると彼に銃口を向けなければならない事態になる可能性もある」
――それは中々に忠誠心のある人間を人選したようで、ってもしかしかて。
「[彼]ですか?」
と問うた。その答えはイエス、というものだ。
「なるほど、彼ならほぼ間違いないでしょう。新型兵器、というのが引っ掛かりますね、って誰でもそう思うのですが。正規兵は出せない、死人が出ても良いから金で釣って集める。そして新型兵器のテストをする、それも負けること前提で。うーんそれはもしかして」
とまで出たカズの言葉を、
「我々は人型のプロトタイプの可能性も否定できない、と考えている」
――これは、いよいよ帝国だけじゃあなくて共和国にも目を遣らないといけない?
と考えてしまうのだが、それは少し違う。
三国は現在、何処とも休戦協定を結んでいない。それは三者が三者とも戦闘態勢を取っているという事を意味しているのだから。共和国は今まであえて静観の立場をとっていただけに過ぎないのだ。
それは、もしかしたら帝国と同盟連合が潰しあうのを待つ間に、レイドライバー技術を開発していた、ともとれる。
「大尉がこちらに到着するのは?」
と問われるので、
「現在急いではいますが、どんなに早くてももう一か月はかかるか、と。ご存じのとおりパイロットスーツで出て来てますので、早く脱ぎたいとは思いますよ」
事実、帰り際にひと戦闘あったのだ。それも急遽決まった戦闘が。
「自分的にはこれ以上のお使いはもうないと思ってはいますが、いかんせん物理的な距離はいかんともしがたいですね、スミマセン」
素直にここは謝っておく。だが、
「きみが謝るものではない。いざ、戦闘になったら彼女たちに助けてもらうよ。それよりも最新鋭機の存在だ。それはどうなっている?」
最新鋭機は一刻も早く返さないといけない存在だ。なので、
「行きと同様、増槽を目一杯付けて途中で給油に立ち寄りながらそちらに向かっています。多分、明日か明後日にはアルカテイルに到着するか、と」
旧マレーシア戦が終息して空母を置いて来た時に、
「急いでアルカテイルに戻ってくれ」
という指令が出ていたのだ。なので先ほどの話ではないが、武装の代わりに増槽を目一杯つけて、まさに[飛んで]帰っている最中なのだ。
「おぉ、という事は二機はこちらに返って来る、という事なのだな?」
という確認。
その言葉に、
「それで間違いありません。それから増産の件ですが」
現在、最新鋭機を三機作るべく本国に増産を願い出ていて、それは近々配備されるであろう事、次々世代機とよばれる機体が最大二機追加で作れる予定であり、それも近々同様に配備されるであろう事を説明した。
「ただ次々世代機、具体的には三五Fの改良型である三八FIですが……」
「ちょっと待て! 今三八FIと聞こえたのは聞き間違いか?」
――おっ、気が付かれましたね。
いつもになく基地司令は興奮している。それはそれだけ戦力の増強が急務であるという事を示しているのと同時にカズという存在を、研究所所長という存在を信頼している為、ともいえる。
今までカズは楽観論で進言した事は無い。
出来るものは出来る、逆に出来ないものはハッキリと[出来ない]と言ってきたのだ。そのカズが最新鋭機を三機手配している、というそれだけでもありがたい事なのに、次々世代機まで出てくるとは考えていなかったのだろう。
そして司令は型番に耳がいった。それはそれだけカズの言葉を一つ一つちゃんと聞いているという証拠になる。
「いえ司令、間違いではありません。三八FIで合っています。繰り返しますが次々世代機の型式は三八FIです、決して三八FDIではありません」
どういう事か。
戦闘機はその型番と後ろに続く文字でその装備状態を表している。基地司令が気にしていたそれは三八FDIではない、という事実だ。この例で行くと三八Fという型番の機体にD、つまり複座に改装し、I、つまり改良型であるという機体である事を意味している。
基地司令が指摘しているし、カズが言っているD、つまり複座ではないという事なのだ。
では誰がパイロットをするのか。
暫くの沈黙が支配する。
最初に口を開いたのは、
「まさか、自立式のコンピューター搭載型を作っている、というのか!」
驚くのも無理はない。まだ部外秘だったからだ。
「ええ、仰る通りです。これには政府の意向が強く滲んでいまして」
そう言うとカズは司令に、政府の掲げる[無人機]構想を話した。そしてそれは近いうちに実現するだろという事も。
「その為の研究所でもあるのです。我々は他の国に負ける訳にはいかない。この構想もいずれは他国も帰結すると考えられます。ですが、その前に[絵空事]から[現実の事]にしなければならない。私は研究を辞める訳にはいかないんですよ」
最後は少しだけため息が混じった。と言っても相手には恐らく伝わらないだろう。それだけ悪い通信環境、という事なのだ。
――無人機になったそのあとは? オレは一体いつまで持つだろうか。
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