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12《矛》カジノ

「レイズorコール」

「コールだ。」

 髭を生やした金持ちの男性が自慢げに5枚のトランプをみせる。

「ストレートだ。」

「ストレートフラッシュでございます。」

「ナニ!」

 ディーラーの手札に観客達が沸く。

「凄い!最終戦で捲ったぞ!!」

「見応えがあった!」

 絶賛のアーチを自慢げに歩いていると先輩ディーラーから声をかけられた。

「魅せるねアラン。大盛り上がりじゃないか。」

「たまたまですよ。」

「謙遜するなよ。」

 先輩からの軽い肘突きを素直に受ける。

「それでは先輩、俺はアガリなので。」

「ああ、お疲れさん。」



ふ〜。

 監視の目がない一人暮らしの我が家に到着。

 ドアの鍵をかけて大きく息をつく。

 その瞬間、俺は僕へと変わる。

 銀髪のウィッグと藍色のカラーコンタクトを外して、泣きぼくろを取る。

 鏡にはいつもの国護陸の顔が。

 僕は変装が得意だ。

 人工皮膚を用いた特殊メイクによる変装ではなく、幾つかのポイントに手を加えたお手軽な変装。

 僕は今、腕利きディーラーのアランとしてイルベリアル日本拠点である夢咲島のカジノに潜入している。

 夢咲島は日本本土から数キロ離れた位置に存在する人工島。

 数年前に制定されたカジノ法案により海外の人のみが入れるカジノテーマパークである。

 だが、実際には政治家達や経済界の大御所達が闊歩する巣窟。

 日夜、この場所で賄賂など不透明な大金が行き来しているのである。

 僕がアランと名を偽りこのカジノに潜入して1ヶ月が経とうとしている。

 ディーラーとして真面目に勤務している傍ら建物の構造や内部を密かに調べていた。

 軽く腹ごしらえした後、隠していた大きな紙を取り出す。

 これはアジトであるカジノの見取り図。

 僕が正確に測って作成した物である。

 机上に広げ、今日調べた事を書き加える。

「第一倉庫はバイト達のサボり場。この通路には防犯カメラがあって。そして赤外線センサーが。うん、かなり厳重だな。」

 一面を見渡し、思わずため息。

 ここには描かれていないが、カジノが雇っている防人もかなりおり、24時間体制で警備。

 守っているのはもちろん不正金だ。

「不正金――イルベリアルの資金はオーナー室に厳重に保管されていてその周囲の警備が一番厳重、と。無関係な人がいるのが厄介だな。」

 働いている人の大半はイルベリアルに無関係の一般人。

 このカジノが裏組織を繋がっているを知らない。

「さて、部外者に一切被害を出さずにするにはどうするべきか?」

 中々の難題。

 不安や心配は一切ない。

 楽しみで仕方ないのだ。

 難攻不落の砦を崩し、相手が驚愕する顔を想像するだけで心は小躍り。

「ふふ、ふふふ。」

 抑えきれない笑い声は部屋内を駆け回る。

 作戦決行日は二週間後。

「決行当日が楽しみだな〜。」


 僕がその日に設定した理由。

 それはオーナーが来店するから。

 イルベリアルの幹部であるオーナーは殆ど居らず、運営は部下に任せっきりであるが月に一度 の資金回収の際は必ず姿を見せる。

 その日がちょうど二週間後なのだ。

 今は決行日に向けての下準備。

 当日、事がスムーズに進むように細工を行っている。

 が、一つ問題が。

 それはVIP室。

 ここはこのカジノ内で唯一監視カメラが置かれていない部屋で資金回収が行われている場所。

 普段は閉じられており、滅多な事がない限り入室することが許されていないその場所に未だ一度も足を踏み入れた事がないのだ。

 決行日までに一度は忍び込み何かしら手を施したいのだが、特殊な鍵と厳重なセキュリティーで入り込むことが出来ず、現在に至っている。

「何かいい手はないかな?」

と悩んでいたある日、

「アラン、お前さんに指名が入った。」

 通常はギャラリーがいる中、ディーラーと複数の客でゲームを行うのだが、1対1の対戦を望む者がいる。

 そのような場合、指名を頂けることがあるのだ。

「俺にですか?」

「ああ、かなりの太客らしい。頑張れよ。」

 若い支配人から渡されたのはあのVIP室の鍵。

 思わぬチャンスにほくそ笑む頬を引き締め、無表情で受け取る。

(よし、後は客の隙を見て間取りや細工を施せば・・・。)

 企みを胸の奥底に秘め、いざVIP室へ。

 鍵はすでに開いている。

 どうやら俺を指名した客は先に部屋の中へいるらしい。

 控えめなノック音を二つ鳴らし、礼儀よく且つ丁寧な口調を心掛けながら中へ入る。

「いらっしゃいませお客様。指名頂いたアラン、と申します。本日はよろしく――――。」

「久しぶりね、りっくん。」

「!」

 そう俺の前の前には見覚えのある二人の女性が。

 上品且つ上質なドレスを纏い、華やかな化粧を施した美紀と髪を丁寧に纏め、清潔感溢れるタキシードを着こなす従姉さん。

 普段見られない二人の姿に一瞬動揺。

 だが表には出さずに演じる。

「申し訳ございませんがお客様。私はアランと申しまして。」

「へぇ~~、人工皮膚を用いらずに、ウィッグやカラーコンタクトだけでこんなにも別人に成りすませるんだね。」

 美紀は俺の言葉には耳を貸さずに間近で観察。

 美紀が来ているドレスはオフショルダー。

 しかも胸の谷間を強調させるセクシー寄りのドレス。

 普段可愛い服装を好む美紀だが、今日はいつもより大人っぽく見える。

「ちょっと美紀!近寄り過ぎ。」

 あまりにも接触し過ぎだと、仲介に入る従姉さん。

 引き離し際、「ヘンタイ。」と非難の視線を向けられるが、全くの冤罪。(凝視なんてしていないのに・・・。)

「お客様、今日はどのような遊戯をご希望なされますか?」

「他人行儀だねりっくん。ここは私達しかいないのだから、いつもみたいに話してもいいのだよ。」

 その返答には答えず、もう一度同じセリフを口にする。

「しかたがないわね、じゃあポーカーで。」

「畏まりました。」

 一礼し、美紀をテーブル席へと案内。

「お連れ様もご一緒になされますか?」

「わ、私は―――。」

「ほら、穹ちゃんも。私の隣に座って。」

 断るが美紀にしつこく促されて仕方なく席へ。

 歩みや席に座り方、立ち振る舞いが格好良く、正しく『麗人』という言葉がよく似合う。

「本当に心配したんだよりっくん。いきなりいなくなって。」

 トランプをシャッフルしている横でずっと話続けてくる美紀。

 彼女の中では完全にアラン=国護陸という構図が出来上がっているようだ。

「ここに入るのに苦労したんだよ。本来ここの入店は満20歳以上の成人。だから身分を誤魔化す必要があってそれで時間が掛かったの。」

 聞きもしていない事は話してくる美紀を無視しながら、カードを配る。

 今回、採用しているのはテキサスホールデム。

 各プレイヤーにカードを2枚ずつ裏返しに配り、その後、中央に表示された5枚のカードを用いて役を作るというルールだ。

「ちょっとこれどうやるの?」

 困惑する従姉さん。

 なので最初はルールを説明しながら行う事に。

 テキサスホールデムは4ラウンド1ゲーム。

 まず手札に配られた2枚のカードを見て、降りる(フォールド)か勝負を続けるかを決める。

 第2ラウンドで中央に3枚のカードを表示。ここで勝負を続けるか降りるかを決める。

 第3グランドで中央にカードを1枚表示。

 中央に5枚のカードが表示されて最終勝負が決まる内容だ。

「成程ね・・・。」

 大まかな説明と実践である程度理解した所で、本格的に勝負。

「で、賭け金はいくらで?」

「一千万。」

 躊躇なく一千万分のチップをテーブルに置く美紀。

「これが無くなったら私達の負け。」

「わかりました。」

 表情を出していないが一千万もの大金を用意してきた美紀に内心では大慌て。

 そして同情する。

 なぜなら彼女達は絶対に勝てないから。

 不慣れであることも理由だが、それ以上にディーラーである俺がカードを操作しているからに他ならない。

 繊細な手の動きでカードを操っているのだ。

 良く言えばテクニック、悪く言えばイカサマ。

「やった!フラッシュだ。」

「え?これ私の勝ちなの?」

 最初は相手をワザと勝たせる。

 ビギナーズラックだと思わせて、勝負を続けさせる。

 そして、徐々に負け続けさせて最終的には持ち金ゼロにさせるのが俺のやり方だ。

「勝負!」

「私もレイズするわ。」

「わかりました、ではお受けしましょう。フルハウスでございます。」

 二人の2ペアをフルハウスで撃退。

 彼女達の持ち金は残り僅かとなる。

(さてそろそろかな。)

 ここで勝負を終わらせようと考えた時、勝負に集中していた美紀がある提案を持ち掛ける。

「ねえ、せっかくだし最後は今持っている金額全部掛け合うのはどう?」

「残念ですがお客様。お二方が持っている金額では私の持ち金を全て奪う事は――――。」

「最後は穹ちゃんとの一対一タイマンで勝負だよ。」

 二人合わせても足りないのだけど・・・・。

「足りない分は担保で。勿論好きにしてもいいわよ、穹ちゃんの事を。」

「ちょっと美紀!何勝手に私を売るのよ!」

りっくんが勝ったら、穹ちゃんのカラダ、好き放題に使って。」

「美紀!!」

「申し訳ございませんがお客様。当店ではそのような賭けは行っておりません。」

「しらばくれちゃって。裏では行っているくせに。」

「・・・・・・。」

 何も答えられない。

 そう、親元であるイルベリアルは人身売買や麻薬などの取引も平気で行っているのだ。

「どう?」

「・・・・・・、わかりました。最後の勝負と致しましょう。」

「な!」

 驚く従姉さん。

 俺がそう答えない限り、先に進まないから頷いただけ。

 だからそこまで恥ずかしそうに睨まないでほしい。

「言質取ったわよ。」

「ではラストゲームを行いましょう。」

「その前に!」

 カードを配ろうとするとストップが入る。

「その代わり私達が勝ったら、一つ言う事を聞いてもらうからそのつもりでね。」

「ええいいですよ。」

 俺が勝つ事には変わりはない。

「それでは始めます。」

 カード配りを再開する手が突然止まられる。

「なんでしょう?」

「何でって最後の勝負をするのよ。こんなイカサマする相手に私達が勝てるわけないでしょう。」

「イカサマ?一体どういう事でしょう?」

「惚けなくてもいいよ。りっくんは手先が器用な事、知っているのだから。それに最後の勝負はタイマン、って言ったよね?」

「ええですから、勝負のため――――っ。」

 そこで俺―――僕は失態に気付く。

 従姉さんとのタイマン。

 それは文字通り―――。

「さぁ、やるわよ。」

 拳と拳がぶつかり合う、決闘の事だった。


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