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11《盾》情報屋、雅比呂

 従弟が居なくなって早3日が経った。

 祖父はあらゆる手を使い、彼の捜索を行ってるが足取りは全く掴めずお手上げ状態。

 使用人や草薙さん含めた門下生達は彼が消えた事に公にはしていないが、歓喜している模様。

 そんな中、私はまたしても後悔の十字架を背負っていた。

 なんで見舞いに行かなかったのか?と。

 先方の都合が悪くなり、時間が空いていたのに私は見舞いに行くことをしなかった。

 もしあの時、見舞いに行っていれば・・・・。

りっくんは行方を眩ますことはなかったかもね。」

 美紀の容赦ない言葉。

「まさか病院からいなくなるなんて・・・。」

「常に最悪の想定を考えておく。そう教わってきたのではないの。」

 ぐうの音も出ない。

「しっかりしてよ穹ちゃん。これから私を守ってもらわないといけないのだから。」

「・・・わかっているわ。」

バチン!

 両頬を叩いて切り替える。

 私と美紀は今、人気がない埠頭へと来ていた。

 なぜこんな所にいるか?

 それは呼び出されたから。

 数時間前、美紀の携帯にあて先不明のメールが届いたのだ。

 本来なら無視すべきなのだが、件名に『鈴蘭台高校女子バレー部の盗撮の犯人と国護陸の居場所教えます』と書かれていた為、私達二人は無視できず指定されたこの場所に来たのである。

「さて、一体誰が私達をここに呼び押せたのかしら?」

「お待ちしておりました、武庫川美紀さん。そして、国護穹さん。」

 物陰から姿を現したのは40代前半ぐらいの若干中年太りがみえる男性。

 千鳥格子柄のハンチング帽を被り、茶色のロングコート。

 ハードボイルド風を意識しているみたいな風貌だ。

「約束通り二人だけで来たわよ。」

「ええ拝見させていただきました。普段は使わないタクシーでお越しになりましたね。」

「貴方は誰?」

 美紀を身体で隠しつつ尋ねる。

「安住雅比呂。表向きは私立探偵を名乗っているけど、裏社会では情報屋としてかなり有名な人物だよ。」

「あっしの事をよくご存知で。さすが、世界経済の中軸の一角を担う武庫川グループ次期総帥。」

「数ヶ月前から私や穹ちゃんの素性を探っている人が誰か気になったからね。」

 美紀と雅比呂の視線が激しくぶつかること数十秒、先に口を開いたのは美紀だった。

「で、貴方が得た情報、て何?」

「こちらでございます。」

ピロン!

 美紀の携帯が鳴る。

 内容は盗撮犯のバレー部コーチの情報が事細かに記載されていた。

「なるほどね、そういう事だったのね。」

「これぐらいの情報ならば貴方達もいずれたどり着いていた事でしょう。」

「そうかもしれないわね。で、情報はこれだけじゃないわよね。」

「わかっていますよ。貴方達が最も知りたいのは国護陸の居場所。」

「どうして貴方がりっくんの居場所を―――。」

「それはあの方から直接聞いているからですよ。」

「直接?りっくんと面識があるなんてそんな情報―――。」

美紀様(貴女様)が不思議がるのは無理もない。武庫川グループの情報を持ってしても調べ上げることができなかったのですから。」

 情報屋の発言に奥歯を噛み締める美紀。

「でもそれは仕方ない事です。あの方の個人情報は厳重な管理下に置かれているのですから。」

「それってどういう事??厳重な管理下にあるなんてそんなの――――。」

「美紀、落ち着いて。」

 慌てて間に入り込み、遮る。

「雅比呂さん、と名乗りましたね。彼は・・・・・、陸はどこにいるの?」

「その問いに答える前に国護穹さん。」

「な、なによ。」

「貴女は国護陸――旦那をどう思っておられるのですか?」

 心臓がドクンと大きく打つ。

 口内の水分はなくなり、掠れた声で答える。

「分かり、ません。」

「分からない?」

 雅比呂の表情が険しくなる。

 思わず後退りしたくなる程。

 だけどそれに負けじと足に力を込め、張り裂ける喉から声を絞り出す。

「だって見ず知らずの命のやりとりをした相手がいきなり家族になったのよ。戸惑うに決まっているじゃない。年上かもしれない異性から姉さん、姉さんて呼ばれて。辛い癖にいつも笑顔で切り抜けようとして。大丈夫じゃないのに大丈夫だと言って、無理して。怪我ばかりして。」

「そ、穹ちゃん。愚痴ぽくなっているよ。」

 美紀に言われて、はっと我に返る。

「と、とにかく家族のようになんて接する事なんてできません。」

「そう、ですか・・・。」

「だからと言って彼を道具扱いすることはしない。対等な関係で、同じ人として接っしてきたつもりです。そしてこれからも。」

「そうには見えませんでしたが?」

「確かに私の態度は不明確で不十分でした。それは否定しません。私自身の気持ちの整理が出来てなかった、という言い訳もしません。でも!」

 目を逸らせば負ける、

 涙を押し殺し、決意を込める。

「だけど陸に死んでほしい、と思った事なんて一度もない!私は陸を従弟ではなく、一人の人して、同じ防人として接します。」

 木霊する私の決意。

「成程。国護穹さん、あなたの決意、しかと受け取りました。」

「それはどういう意味―――。」

「お願いします!」

 突然の土下座。

 びっくりする私達に雅比呂は願いを口にする。

「どうか旦那を助けてください。」

「ちょっと頭を上げてください。」と懇願するが雅比呂は頭を上げない。

「なぜ、あなたがそこまでするのですか?それに助けて、って言われても・・・。」

「旦那は死ぬ気です。イルベリアルを葬れるのなら自分の命を捨てる覚悟なのです。」

「それはイルベリアルに殺戮マシーンとして利用されていたから?」

「はい。旦那は密かに狙っていたのです。イルベリアルに付け入る隙を。ずっと私に調べるよう頼んでいたのですから。」

「ねえ、雅比呂さん。」

「なんでしょうか?武庫川美紀さん。」

「貴方とりっくんとはいつから知り合ったの?」

 私もそれが知りたかった。

「私は旦那が()()()()()()()()()()()()()()。」

「「なんですって!!」」

 それじゃあ、陸は自分の過去をすでに知っている?

「いいえ、旦那は過去の事を何一つ知りません。あっしは何一つ話していませんので。」

「どうして教えないの?」

 聞いている感じ何度か会っている様子。

 なのに何故それを伝えないのか不思議で仕方ない。

「彼の過去を知っているのでしょう?なら彼に全て話せば万事解決なのでは。」

「言えません。」

「何故?」

「約束だからです。いかなる場合でもどんな事があっても旦那の過去について一切話せてはならないと。」

「彼自身の事よ。なのに教えないなんて。」

「そんな約束、一体誰としたの?」

 私の反論をかぶせるように美紀が質問を続ける。

「旦那の父親です。」

「「!!」」

「あっしは旦那の父親(あの御方)を通じて旦那と知り合いました。その時に旦那の出生について聞き及んでおります。」

「ちょっと質問、りっくんがこんな状況に陥っているのに父親が全く姿を見せないのはもしかして・・・。」

「旦那の父親はすでに亡くなっています。」

 言葉が行き場を失う。

「旦那には身寄りはいません。孤独なのです。お願いです。旦那を暗くて冷たい場所から連れ出してください。あっしでは無理なんです。」

 何度も頼み続ける雅比呂。

 年下である私達に頭を下げるその姿に対し美紀は何も言わない。

 私に判断を任せているからだ。

「雅比呂さん。陸の居場所を教えてください。」

 自分でも驚くぐらい落ち着き払った口調。

 彼の話を聞いたから私の想いがわかるわけでない。

 ただ、私はもう一度彼と会わないといけない。

「お願いします。」

「分かりました。」

 雅比呂は懐から1通の封筒を私達に手渡す。

「そこに旦那が今回、計画している事が全て載っています。」

 封筒から抜き取り中身を確認。

 美紀は私の後ろから覗き込む。

「え?」

「嘘!」

 第一文を見て私達は目を見開く。

 そこにはこう書かれていたから。

『イルベルアル日本支部、爆破計画』と。

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