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9《盾》調査報告

「麻耶ちゃん、菜々美ちゃん。私が調べた結果がこれです。」

 翌日の早朝、私は美紀の付き添いで麻耶さんと菜々美さんと会っていた。

 本来の約束は昨日の放課後であったのだが、先方の都合が合わず。

 その為、今日に変更になったのである。

「まずストーカーと疑っている人物の名前は仁藤ジェイク。鈴蘭台高校3年生です。」

「生徒だから、学校に配備されていた防人が侵入を止めなかったのね。」

「仁藤ジェイク??」

「同級生!?知らないわよ私。」

 三者三様の反応。

「副部長さんが知らないのは無理ないのかも。彼は特進科に入学するもすぐに休学、翌年に通信科へと編入していますから。理由は対人関係。元々人間不信だったそうです。」

 美紀は一枚のプリントを麻耶さん達に見せる。

 そこには仁藤ジェイクの個人情報が事細かに記載されていた。

「麻耶さんは以前SNSを利用していたそうですね。」

「はい、でも菜々美に言われてもう閉鎖していますけど・・・・・・。」

「炎上目的で近づいてくるかもしれないので。今は私が全て管理しています。」

「その中に仁藤ジェイクのアカウントがありました。」

「やっぱり!前から麻耶ちゃんを狙っていたのね!」

 非難の声を叫ぶその隣で「ああ~。」と納得顔で手を打つ麻耶さん。

「JN君ね!懐かしい~~。」

「知っているのですか?」

「うん、一番最初のフォローしてくれた人。チャット越しで何回かお話したことの。親切な人で落ち込んていた時、色々話を聞いてくれたり的確なアドバイスをしてくれたりしてくれて。でも菜々美ちゃんがSNSを閉鎖して以降、連絡が出来なくなったの。」

「となると、そこを逆恨みされて付け狙うようになったのかも。」

「う~~~ん、そんなことする人には見えなかったけど・・・。」

 私の考えはやんわり否定された。

「とにかくストーカーの正体は分かったわ。早速先生方にこの事を話して彼を退学に――――。」

「ちょっと菜々美先輩、ストップです。」

「何故止めるのですか美紀さん。彼が部室にカメラを仕掛けて、あまつさえロッカー荒らしをしたのですよ。捕まえてもらわないと。」

「彼がやった証拠はありません。まぁ、この脅迫状を贈ったのは彼だと思いますけど。」

「え!?その情報は初耳よ!美紀。」

「封筒の方に指紋が残っていたの。で、照合の結果がさっき出たの。」

 その話を聞いて躍起になる副部長を麻耶さんと二人で宥めつつ、話を聞くために私達一同は彼―――仁藤ジェイクが住んでいる家へ向かう。

 美紀からの情報によると仁藤ジェイクは実家で一人暮らし。

 両親は世界を股に掛けるシステムエンジニアで、現在海外出張中の事。

「応答、ないわね。」

 インターフォンを鳴らすが応答なし。

「留守な―――訳ないか。」

 美紀の言う通り、二階の自室らしき窓から人影が一瞬見えたので居留守の可能性が高い。

「居留守を使う、という事は疚しい事があるからよ。」

「菜々美ちゃん、決めつけは良くないよ。」

「麻耶さんの言う通りです。単に人と会いたくないだけかもしれないし。」

「資料による極度の人見知りみたい。人混みが苦手で以前、倒れて救急車に運ばれた事があるみたいだし。」

 と話していたらようやく、「どなたですか?」と反応が。

 弱々しい声音で警戒と恐れが伝わる。

 私は出来るだけ柔らかい声で話しかける。

「私、防人の国護穹と申します。」

 防人の単語に敏感な反応を見せる相手。

「少しお話しを聞きたいのですが?」

「え、あ、の・・・。」

 言葉に詰まる。

 困惑している事が十分に伝わる。

「仁藤さん、対面が苦手ならインターフォン越しでも大丈夫ですよ。」

「そ、それなら・・・。」

 了承を得たので質問を投げかける。

「単刀直入に聞きます、この脅迫状を送ったのは貴方ですね。」

「指紋が残っていたわ。封筒の方にね。」

「封筒??あ!」

 美紀が指摘したミスに気付いたようだ。

「やっぱり!!部室荒らしもアンタがやったのよ!」

「落ち着いて菜々美ちゃん。」

 後ろで騒ぐ副部長さんを見せないように身体で隠し、脅迫状を送った理由を尋ねる。

 防人に携り数年、私は様々な人などを見てきた。

 警護者に被害を向ける人達に共通するのは殺意。

 相手を蔑めようとする獰猛な殺意を仁藤からは一切感じない。

 彼から感じるのは不安と心配。

 その感情は私達の後ろにいる麻耶さんへと向けられていた。

「ねえ一つ聞いてもいい?」

 美紀が質問をぶつける。

「何故、あんな脅迫状を送ったの?『バレーを続けたければ今度の国際試合出場を見合わせろ。』だなんて。今度の大会だけ出ない欲しいみたいに受け止めるけど。」

「その、通り、です。」

 小さい声でだったがはっきり聞こえた。

「それはどういう事?」

「俺、聞いてしまったんです。」

 悩むこと数十秒、徐に彼は語り始めた。


 ポーランド人の母と日本人の父の間に生まれた仁藤ジェイクはその珍しい名前と瞳の色から小学校の時イジメに遭い、その影響で不登校となった。

 そんな彼は幼い事から森本麻耶を応援していたそうだ。

 その理由を聞くと、

「昔一緒にバレーボールを観に行ったり、一緒に練習をしたりしたから。」

「あ、もしかしてジー君?!」

「知り合いだったの!?」

「うん、幼稚園の時にね。そっかぁ、ジー君がJN君だったのね。久しぶり!元気にしてた?」

 私と美紀の間に割って入り込みインターフォンへと話しかける。

「ねえねえ、折角だし顔を合わせて話そうよ。」

「えっと・・・・・・、その・・・・・あの・・・・。」

「ならさ、連絡先交換しない。昔みたいにお話ししたいな。」

「あのごめんなさいね、麻耶ちゃん。それは後にしてほしいな~。」

 テンションが上がっている麻耶さんを端へ追いやるのを横目に話の続きを促す。

「麻耶がオリンピック代表に選ばれて、現地で応援した時の事です。」

 代表に選ばれた事が自分の事のように嬉しかった彼は一念発起、現地での応援を決める。

 しかし彼にとって現地観戦はかなりきつい環境だった。

 密集する程の人の多さと熱気に酔ってしまい途中退席。

 スタッフの手を話ずらせたくなかったので人目を忍んで、非常口で外の空気を吸いに行こうとした時だった。

「そこには先客がいて・・・。だから引き返そうとした時、会話を偶然耳にしてしまったんです。」

「鬱陶しい存在だな、あのマーヤ・モリモトは。」

 応援している彼女の名が耳に届き、足が止まる。

「ああ、おかげで俺達は大損だ。」

「損ぐらいならまだいい。問題は太客を怒らしてしまった事だ。」

「マーヤ・モリモトの活躍で日本の大躍進。そのせいで太客が大負けしてしまった。」

「あの人、かなりご立腹だぞ。」

「相当な金額を賭けていたからな。」

「どうするのだ、これ。」

 訛りがかなりひどいスペイン語での会話。

 周りに内容を知られない為であろうが、両親の教育で6か国語を習得していた彼は会話内容が理解できてしまった。

「安心しろ。今度アジア大会がある。その時に手を打つ。」

「どうする気だ。」

「今回の活躍で次のアジア大会は日本にベッドする客が多くなるだろう。太客には他の国を進める。そして大会直前でマーヤ・モリモトを襲撃する。」

「っ!」

 息を呑むジェイク。

 幸いにもその時僅かの音は二人の会話によって掻き消された。

「殺すのか?」

「いいや、膝を壊せばいい。二度と競技が出来ないようにな。」

「成程。悲劇のヒロインとして人気が出そうだな。」

 二人の下種な笑い声が耳から離れなかった。


「大損・・・・・・、賭け・・・・・。」

 独り言を呟く美紀は何かに気付き、慌てた表情で電話をかける。

「だ、だから俺、脅迫状を作成して、学校に送った。安全を考慮して辞退してくれれば、って。ダメでも麻耶に専属の防人が就いてくれれば守ってくれるかもって。」

「成程、ね。でもだからって、女子バレー部の部室に侵入にして荒らすのはやり過ぎだと思うわ。」

 この手の人間は強い口調や怒鳴ったりするとすぐに委縮して、以降口を聞いてくれない可能性がある。

 だから、出来るだけ優しく、諭す口調を心掛けた。

 だが、

「えっと・・・・。」

(あれ??これでも強く言い過ぎた。)

 動揺が走り戸惑いを見せたので慌てて弁明。

「私、怒っていないわよ。だから怖がらないで。」

「い、いえ、だ、だ大丈夫です。ごごごごめんなさい。」

 頭を下げているのが容易にわかる。

「あ、あ、あの、部室荒らしってどういうことですか?」

「え??」

「そんな事が遭ったのですか?何時?麻耶とかに怪我は?」

 その口調から芝居には見えなくて本心から心配しているのが十分に伝わる。

「本当に知らなかったの?」

「し、知りませんでした。」

 全力で首を横に振るのが眼に浮かぶ。

「お、俺はしてません。本当です。信じてください。」

「穹ちゃん、ちょっといい?」

 私の肩をポンポン叩く美紀。

 興奮を押さえつけた小声で私をインターフォンから引き離される。

「どうしたの?」

「大変だよ穹ちゃん!」

「どうしたのよ?そんなに声を荒げて。」

「イルベリアルだよ!」

「え?」

 私の思考が固まる。

 イルベリアルの単語が脳内で暴れる。

「あの3人、イルベリアルが送り込んだ殺し屋だよ。」

 美紀が私だけに聞こえるよう説明してくれるが、私の耳には届いていない。

 それぐらい衝撃的な単語が飛んできたのだ。

 イルベリアル。

 裏社会ではその名を知らぬ者はいない程の巨大犯罪組織。

 そして、私と美紀を葬る為に『狂喜の矛』――陸を送り込んできた因縁の相手。

「(もしかして、()はその事を知っているんじゃ―――。)っ!」

 胸元に仕舞っていた携帯が震える。

 祖父から着信だ。

 嫌な予感が過ぎり、震える指先で通話モードに。

「そ、穹か。た、大変じゃ!」

 祖父の慌てた声。

 急激に喉が渇き、掠れた声で何事かと尋ねる。

「どう、したのですお爺様?」

「り、陸が!!!」

「え!」

 祖父の言葉に私の思考は完全にフリーズ。

「穹ちゃん?何があったの?ねえ?ねえ!!」

 美紀の呼びかけに私は何も答えることが出来なかった。 


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