あるいは寓話のような
だらだらと駄弁りながら情報交換をし、昼は焼き芋を食べ、ちょっと遠くの湧き水を汲んでツリーハウスに運んだ。
電気も水道もガスもない生活とは、現代人には想像しづらいものだ。俺はこれから課せられる重労働に悲観的だった。しかし実際は、思ったよりは楽だった。それどころか暇な時間の方が多かった。
戦国時代の百姓たちが厳しい生活を強いられていたのは、畑仕事ではなく、重い年貢のせいだったのだろう。
情報交換のおかげで分かったことがあるので、整理しておこうと思う。
キテラは魔女だ。それは朝の一件で確認できた。
そして、彼女は見た目よりもだいぶ歳をとっているらしい。なんでも魔法で成長速度をだいぶゆっくりにしているのだとか。友達の友達と2人きりになってしまったときに、会話に窮して季節の話を持ち出す唐突さで、そう白状した。
年下に見える彼女になぜ敬語を使っていたのか今更ながら疑問に思ったが、彼女がオバサマであるなら口調を直す必要もないだろう。
また、彼女は日常的に魔法を使う。というのも、焼き芋を食べようってなったときに、枯れ枝に一瞬で火をつけたのだ。あの瞬間をしっかり見ておかなかったのが惜しい。もう一度やってくれと頼んでみたが断られた。
ただ、彼女の過去に関してはよく分かっていない。彼女はその話題を避けているようだったし、自分でも無理に聞く話でもないなと思っていた。
「君……ちょっと臭うね」
水汲みの帰り道のことだ。ツリーハウス前の池沿いを歩いていた。
体臭については俺自身も気にしていた。服の中で汗が蒸れているにも関わらず、丸一日以上風呂に入れていないのだから。
「できれば、どこかで身体を洗いたいんですけどね」
男は清潔感が大事である。女性から見た第一印象に最も寄与するのがそれだと、何かの記事に書いてあった。
「丁度いい。僕も洗いたかったし、水浴びしていくか」
その言葉で、俺の思考は急速に回転を始めた。
水浴びはこの池でするのだろう。水質も綺麗そうだ。
しかし気になることがある。
僕『も』って言うのは、一緒に入るということなのか?
さすがに妄想しすぎか……?
でも、浮世離れした彼女の価値観ならあり得る……
急に立ち止まった俺を、キテラは不思議そうに見る。
彼女の方が少し背が低いので、俺を見上げる形だ。
毒々しい髪。その長い前髪から覗く素顔が、かなりの美少女であることに気づいた。
「ここの水は綺麗だから安心していいよ」
キテラは見当外れなことを言う。
そうじゃない! 問題なのは、例えるなら健全小説がR18認定されてしまうような状況のことだ。
刑法が……! 刑法に殺される……!!
でも、ここが日本かは分からないし、そもそもただの水浴びだし。
……ありか?
加速した思考を現実の速度に戻した。俺は俯いて、顎に手を当てて考え込んでいた。
顔を上げる。
キテラはといえば……ニヤニヤと口端を吊り上げてこちらを見ていた。
「エロオヤジ」
「なっ……!?」
一度にいろんな感情が湧き起こった。安堵と、悔しさと、ちょっとガッカリした。
そして、からかわれているとは分かっていつつも叫んだ。
「俺はまだ30代だ!」
水浴びは健全なまま終わった。
投稿が遅くなってしまいました。反省です。