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朝日

「朝だよーーーーーっ!!!!」


澄んだ朝に、騒々しい声で目を覚ます。

目を開けると視界いっぱいにモスグリーンが広がった。

天井に映った、陽光に型どられた人影が揺れる。

声の主に対面するべく、テントから這い出た。

朝日がこの湖一帯を照らしている。俺は夜行性動物のように身を縮めた。

どうやら、夜と昼の間には決まって黄金の光が差し込むらしい。


「……おはようございます」


「眠そうな顔だね」


「よく寝れなかったものですから」


レム睡眠というやつだ。夢は見なかったが、微かに取りきれなかった疲労が頭に残っている。

明るいとは断じて言えない俺の態度に反して、キテラは何かを楽しみにするような笑顔を見せている。紫の髪が朝日を反射して輝いていた。

キテラはなんでこんなにテンションが高いんだ。


「泊まって良いって言ったのに。……まさか、女の子と寝ることに照れちゃったのかな?」


「別にそんなのじゃないですよ! あれは、あまりにも……」


感情的になって、出かかった言葉を飲み込んた。デリケートな話題はもっと慎重に話を進めるべきだ。

深呼吸をして、1番重要な問題を問いかける。


「昨日、小屋で何をしていたんです? あれは、普通ではないように見えました」


昨日のことを思い出すと気分が悪いが、努めて顔に出さないようにした。

彼女は俺から視線を逸らして、曖昧な笑みを浮かべた。


「あれ、ねー……。あれは魔法の実験をしてた……失敗しちゃったけど」


「……魔法」


「そう。言ったでしょ、魔女だって」




科学の支配する21世紀を生きる人間として、そう簡単に非科学的存在を認めるわけにはいかない。証拠を求める俺と、変に粘ろうとするキテラの押し問答が続いていた。


「なんで見せられないんですか。魔法、見せてくださいよ」


「だから、魔法は限られた者に授けられる神秘であって、ほいほいと人に見せるものじゃないの!」


「今の事態はほいほいって訳でもないでしょう? ちょっとぐらい見せたってバチは当たりませんよ」


「もう……頑固だなぁ、特別だよ?」


「どっちがだ」


キテラは呆れたように溜息を吐いて、「今から使うからそこで見てな」と言う。

そして目を閉じる。数秒経っても、じっと立ったまま動かない。

俺は懐疑半分、期待半分でその光景を見つめていた。

不意にキテラの姿が消えた。

けれど彼女がそこにいるということは分かった。

なぜなら、彼女の着ていた服だけが宙に浮いているからだ。


「おおっ!」


魔法というものを初めてお目にかかれて、興奮で笑みが漏れた。

彼女が本当にそこにいるのか確かめようと手を伸ばして


「触んな変態」


伸ばした手を叩かれた。

魔法を解いたのだろう、キテラが一瞬で現れる。


「どう? これで分かったでしょ、私は魔女なの」


「はい、身に染みて分かりました」


「ならばよし。……話がだいぶ逸れちゃったけど、君がウチに泊まるでも歩き始めるでもなく、中途半端な場所でテントを張ったものだから、どっちなんだろうと迷ってたんだよ」


「あのときは勝手に飛び出してしまってすみません。それで、森の出口へ歩き出すことはできないです。手持ちの食料も残り少ないですし。なので、少しの間だけ家を借りさせてもらって、森を脱出する準備をさせてくれませんか?」


これが妥当な選択だろう。万が一キテラに要求を断られることも考えたが、すんなりと受け入れてくれた。


「ここに住むからには、家事とかいろいろ手伝ってもらうからね」


「任せてください」


俺だって泊めさせてもらった家でダラダラするほど厚かましくはない。手伝えることは手伝うつもりだ。


「さっそくだけど、畑に朝食の材料を取りに行くよ。それとテントは畳んでバックパックに詰めておいて。後で滑車でまとめて引き上げるから」


その言葉で昨日はろくに食事ができていなかったことに気づく。胃が思い出したかのようにキュルル……と鳴った。




ツリーハウスのある巨木から池を4分の1周すると畑がある。

大きめの家庭菜園ぐらいの土地に多様な形の葉が並んでいた。

適当に食べ頃なのを選んで取ってきてと言われたが、野菜に詳しくない俺は、なるべく赤くなったトマトだけを選んで摘んだ。

トマトだけが詰められた木箱を見て「トマト好きなの?」と不思議そうに尋ねられたが、「トマトの食べ頃しか分からなかったので」と言うと「そう……後で教えるよ」と返された。




その後やってきたツリーハウスのある巨木の根元には、前回はなかった荷台が上の踊り場から下ろしてあった。

荷台に野菜の詰まった木箱と、パックパックを置いた。

それから巨木を登って、踊り場から滑車で荷台を引き上げる。


「はぁ、はぁ……。なんでこんな高いところに家を建てたんですか?」


荷台を引き上げて、ふと疑問に思ったことを質問した。

地上に建てれば、家に帰るだけでこんなに息を切らさなくていいのに。


「ここの地面は水捌けが悪いでしょ? だから木材が腐っちゃうんだよ」


「なるほど」


いかにも合理的な理由だ。

話しながら歩いていたらツリーハウスに到着した。

2回目の玄関を通り、2回目のカボチャの歓迎を受ける。


「荷物は適当なところに置いといて」


言われて、玄関の側に立て掛けた。

キテラはキッチンに立っている。これから朝食の準備をするのだろう。

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