なにか
扉の奥は暗く、狭い部屋を薄青い光が満たしていた。
あちこちに正方形の謎の木箱が無造作に積まれている。
その中央に、魔女がいた。
後ろ姿で座り込んだ魔女は、扉が開いた音に反応して振り返った。
扉から差し込んだ光が魔女の姿を晒した。
両手が、なにかの青い液体に濡れていた。それは衣服にも飛び散って染みを作っている。
彼女の奥に、青い液体を撒き散らし表面が緑色のブヨブヨした、肉片のようなものが覗き見えた。
俺はその奇怪で嫌悪感のある光景から目を離せずにいた。
魔女は何も話さず、身動きもせず、じっと俺を見返している。
「あっ……いや………」
どうにかこの場を取り繕わなければと思った。しかし想定外の事態に思考は止まって動かないままだ。
沈黙。
何一つ動かない部屋で、肉片がピクンと動いた。うじ虫に身体中を這い巡られる感覚があった。
「……すみません!」
ガタンッ!! 乱暴に扉を閉めた。
俺は恐怖に駆られ、脊髄の命令するままに逃げた。
梯子を踏み外しそうになりながら焦って降りて、息を切らして地面に着く。
何分かかったかは覚えていない。
周りには散々見た巨木と霧が広がっていた。その恨めしいほど変わらない景色が俺を落ち着かせた。
深呼吸をして、浅くなった息を整える。
すると巨木の根本にバックパックを見つけた。
そういえば、元々これを取りに行こうとしてたんだった。バックパックからスマホを取り出す。17:04と表示された。
少し日が陰れば、暗くなるのは一瞬だ。既に足元の地面も見辛くなっていた。
途方に暮れていた。
あれは関わってはいけないものだ。あのツリーハウスは見放すべきだろうか?
だけど見放してしまったら、自分はこの暗い森を1人で彷徨わなければならない。
思考は同じ場所をぐるぐると回って、無意味に時間だけが過ぎた。
結局は夜になったので、ツリーハウスの置かれた巨木の隣にある巨木の近くに、魔女から死角になるようしてテントを設営した。
バックパックに詰め込める小ささのテントは簡素なもので、隙間から冷気が入ってくるため外と気温が変わらない。寝っ転がると土の柔らかさを感じたが、心地よさとは無縁のものだった。
仰向けのまま、冷えた頭で「何やってんだろうなぁ」と呟やいた。