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五里霧中

たまにだけど僕は本を読む。それは研究の役に立つ魔導書だったり、楽しむだけの物語本だったりする。そのいずれもがここにいる長い時間の内に読み終わっていた。今手にしている冒険物語はかなり分厚いが、内容をほぼ暗唱できるほどだ。

各国が海路の開拓に力を入れる時代。田舎育ちの少年は一攫千金を目指して、広い海を、新大陸を目指して旅した。

出航の折、彼は幼馴染の少女の静止を振り切って、必ず故郷に帰ることを約束した。寂しさと大きな期待が入り混じる、お気に入りのシーンだ。


『たまには顔見せてよねーーーっ!』


思い出したのは赤髪で人懐っこい彼女。僕と同時期に魔女になった子。主人公を見送る少女の姿が、過去の記憶に重なったせいだ。

僕が街を去るとき、彼女がそんな言葉を言った。あれから一度も街に戻っていない。あの子は今何をしているだろう? かなりの時間が経った。50年とも100年とも分からない。たくさんのものが変わっているはずだ。だから今戻っても僕に忌避の視線を向けてくる者はいないだろう。それは良いな。きっと新大陸だ。僕の知らない世界。帰ったところで、僕に居場所は

まあ、彼女のことも故郷のことも、『不老不死』という大望の前には些細なことだ。別れなど、これから永遠と経験する予定なのだから。

暗くなった気分を切り替える。

そう、研究だ。今研究をしたい意欲がありありと湧いてきている。

中途半端に手をつけたままの実験テーマがあったはずだが……そういえば在庫を切らしているんだったな。早速、助手になったばかりの彼におつかいを頼もう。

本を閉じた。





キテラにおつかいを頼まれた。

くすんだピンクの葉をつけた、ミニチュアの枯れ木みたいな植物。棚の隅っこに一つだけ転がっていたものを見せてもらった。

決まった群生地はないらしい。……ので、森に植生しているものを運良くみつけるしかない。キテラはそこら辺を歩いていればすぐに見つかると言っていたが、彼女は割と適当なところがあるので半信半疑である。

霧が濃い。俺が手ぶらで歩けば3分で迷子になるだろう。ただ、今回はなんと魔道具を持ってきている。

他ならぬキテラに貸してもらった。


丸いガラス球に入った小さな石ころ。ガラス球を十字に囲む革に紐が通されていて、ストラップみたいになっている。この石は魔力の高い方向に引き寄せられる性質がある。これを用いれば、方位磁石のごとく魔力の高い場所、つまりツリーハウスの方向を示してくれるらしい。キテラ曰く「石が動かないときは軽く振ってね」とのこと。どうでもいいけど、謎の仕様に納得がいかなかった。


まずはツリーハウスの周辺を見て回る。それから徐々に捜索範囲を拡大していく。似たような植物は何個か見つけた。しかし、どれもピンクの葉をつけていない。

思えばツリーハウスの周辺で採れるものは、キテラがすでに刈り尽くしていてもおかしくない。もっと離れたところを探すべきか。

そうして歩いていると、霧の向こうに何かの影を見つけた。植物にしては大きすぎる。

予想外すぎて理解が遅れたが、それは小さな人影だった。

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