花よ。声よ。
ツリーハウスの玄関前まで来て、扉を叩いた。
反応はない。
だとすると小屋か。
「何か用?」
愛想の無い声が響いた。
1日と空いていないのに、その声を懐かしく感じたのは何故だろう。
ちょうど小屋の扉を閉めたキテラが、冷たく俺を見据えていた。
絶妙な間隔を空けて二人は対峙する。
玄関の前、絵の具のパレットみたいな花が、二人の間を飾った。
「仲直りするために来ました。本当にごめんなさい!」
開口一番、本心からの謝罪をする。
「……謝らなくていいよ。許すつもりはないし」
キテラは冷たく突き放した。
それでも声を揺らす。対話の可能性にかけて。
「日記を見つけたのは本当にたまたまで、気になって開いてしまったんです。無遠慮だったと思います。話をしましょう。それで俺がキテラを害する気がないことを分かってほしいです」
「いつからそんなお節介になったんだ?」
「……変わらなきゃと思ったんです。いつも逃げてばかりだったから、今度はちゃんと向き合おうって」
「だったらどうして戻ってきた!? どうせ森を歩くのが怖くなったんだ。だから逃げ帰ってきた。この場所は食料に困らないから。僕に寄生したいだけなんだろ!?」
「違うッ! ……本当に……仲良くなりたいだけなんです。森で迷っていたとき、手を差し伸べてくれて。そのときは疑心暗鬼だったけど、徐々に張り詰めた心が緩んでいきました。ずっと……優しかったから」
珍しく怒る彼女の熱に乗せられていた。
冷静さを忘れて、本心のままに叫んでいた。
「このままさよならなんて嫌です。キテラのこと、まだ全然わかってない」
決然として言い放つ。
「仲直り、できませんか?」
「しつこい…………ッ!」
キテラは俯いて、喋らなくなってしまった。
二人は声を失う。
花は揺れていた。風が駆けていた。
穏やかな日が降り注ぎ、少女に木の葉の陰をつけた。
『僕も、変わるべきだって言うのか』
微かに、キテラはそう呟いたが、相手が汲み取れるほどの形を持っていなかった。
玄関の花に視線を落としていたキテラは、顔を上げる。
「あの……こっち来て」
最初は言いにくそうに視線を彷徨わせていたが、しかと俺を見据えて言った。
言われた俺は、意図がよく分からないがキテラに近づく。
俺とキテラとの距離は1.5メートルぐらい。話をするには少し遠すぎたのかもしれない。
距離を半分まで短くした。
「もっと」
一歩前に進んだ。
間隔は50センチぐらい。正面で話し合うには近すぎると思うのだけど。
思惑を遮ってキテラがずいと距離を詰めた。俺が怯んで後退する前に
「ふっ!」
「いてっ」
キテラは俺の頭に思いっきりチョップした。痛いけど、手が柔らかかったのでそこまでダメージはない。
「これで許してあげる」
からかうのでもなく、無表情に言った。
「……よ、よかったぁ〜! 許してもらえないのかとめちゃめちゃ不安だったんですよ」
何はともあれ、仲直りできたらしい。
緊張からか、いつの間にか浅くなっていた息を深く深く吐く。
キテラはさっさと玄関の扉を開けている。
「あの……手、痛くないんですか」
明らかに向こうの方がダメージが大きそうである。
キテラはこちらを振り返りもせず「痛かった」とだけ言って、ツリーハウスに入っていく。玄関前に取り残された俺は、判断に遅れつつも慌ててその後をついて行くのだった。
足下のカボチャの置物が笑っていた。




