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時待つ花

明くる日は眩しかった。


テント前の靴を履こうとしたら、地面に薄く水が張っているのに気づいた。

池が大きくなっている。雨で水量が増えたせいだ。

地面の僅かな高低差に沿いながら、触手のように四方に水を広げている。

俺のいるテントは、その触手の先端に触れていた。

他にも昨日と変わったことがあった。

池の縁をゆるく飾るようにして、数十の白い花たちが咲いていた。

水没した花も多く、水の中から咲いているかのよう。

波一つない水面は蒼色だ。

鏡のように空と、巨木を反映する。


金色は太陽の見え隠れする境目に現れる。だから、景色の鮮明な今は、夜明けから時間の経った遅めの朝だ。

テントの前に立つ。

水深は靴に水が浸透しないギリギリの高さだった。靴を履いたことで揺れた水面は、テント内部に少量の水が入ることを許した。

もっと雨が降っていたら、寝ながら水没していたかもしれない。

運が良かったと薄く笑う。

池を望み、深呼吸する。

気分が良い。

景色のせいでもあり、よく寝れたせいでもある。


昨日は緑の草しかなかったのに。

一夜で一斉に咲き出した不思議な花だ。

この花には何か意味があるのだろうか。

不思議と言えば、今までも散々不思議な体験を味わってきた。

日常のように享受していたけれど、幻影的で、どこか現実感のない日々だった。見上げるツリーハウスのように。

もう十分休憩はしただろう?

だから、


この花は、旅立ちの花だ。




出発にあたって、テントの片付けをした。

シートの泥をコップに汲んだ池の水で流す。ばたばたと仰いで水気を飛ばし、残った水分をタオルで軽く拭き取った。

テント用具を纏めて袋に詰めて、バックパックに仕舞おうとして懐かしいものを見つける。

底の方にある、側面を糸で縫った跡。くすんだ緑の生地に明るい黄色の糸が目立つ。これは、木材を運んだ時に空いた穴をキテラが塞いでくれた跡。彼女の優しさの欠片だ。

こんな終わり方で、不仲のままで良いのか。

うっすらと浮かんだ思考は、しかし消えることはなく、心の隅にモヤを残していった。


バックパックはテントを仕舞った途端に重くなった。

意外とお腹が空いていなかったので、朝食にカ⬜︎リーメイト一箱の半分の量を食べた。

行くあてはなく、手持ちに僅かな携行食しかない。

実は、キテラに会う前の状況とさほど変わっていない。

ただ湧き水の場所は覚えているし、森に食べれる雑草があることも知っている。


水筒を飲んでいて、残量が少ないことに気づいた。

まずは湧き水で水を汲んで行こう。

最後にもう一度ツリーハウスへ視線を投げかける。

今は霧が晴れているけれど、いつ濃くなるかも分からない。森の中へ足を運べば、二度と戻ることはできないと思っていい。

それでも歩き出した。ツリーハウスはどんどん遠くなっていき、やがて他の巨木に隠される。

ツリーハウスを完全に見失った。

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