ずっと雨音
扉を後ろ手で閉める。
玄関から外に出た瞬間に、雨音の圧力が強まった気がした。
「まいったな……」
ため息混じりの声を吐く。
ツリーハウスに置いていた荷物はバックパックに詰め込んで、今はそれを背負っている。
小雨とは言えないくらいには雨量のある雨が、柵の向こうで降り続けている。けれど見下ろした廊下は、葉の隙間を縫って落ちてきた水滴が染みを作っている程度で、ほとんど濡れていなかった。
滑車でバックパックを先に降ろしてから、自分も巨木の根本に降り立つ。ドロドロした地面を踏んで、葉々が雨を防いでくれる境目まで歩いた。
状況が俺をここまで連れてきた。折り畳み傘だってある。
あと一歩、雨中の森へ。
そう思うだけで、森は、薄暗いだけで見慣れたはずの森は、ひどく恐ろしい場所に見えた。
バックパックのサイドポケットからスマホを取り出して、時刻を確認する。
もうすぐ16時になろうとしていた。
今から歩き始めても、すぐに暗くなって野宿することになる。雨が止んでから歩き出した方が、体力的にも都合が良いだろう。理由ばかりが思いついた。
「結局ここか」
テントを立てたのは、以前にテントを立てた場所と同じだった。つまり、ツリーハウスからは巨木で死角になっている場所だ。
泥との設置面がなるべく少なくなるように、バックパックを巨木に立て掛けていたのだが、僅かな接地面に付いた泥を片手で軽く払う。バックパックをテントの中に置き、手の泥を落とすために傘を持って池に近寄った。
雨に打たれて円の複雑な重ね合わせとなった水面に、手を突っ込んで洗った。
そこを中心として一際大きな波紋が生じた。
テントに入れば、当分はそこが俺の安全地帯だ。狭い室内で足を完全に伸ばせないまま横になる。
一つ深呼吸して疲れた身体を労うと、ゆっくり思想に耽っていく。
俺はキテラに嫌われてしまった。多少の誤解はあるけれど、俺の過失には違いない。俺が悪い。
こういうとき、仲直りする方法を考えるのが正しい選択なのだと思う。だけど一体誰がそれを望んでいるのだろう。
彼女はハッキリと言ったのだ。ツリーハウスに俺の居場所はないと。
だったら俺は出ていくしかない。
不健全な理由だけど、それが森を進む覚悟になる気さえしていた。
たまに上から水滴がテントに落ちてきて弾ける。
ボトッという意外と大きな音がして、最初は少しだけ驚いたがすぐに慣れた。
横になっていたら、脳の奥底から眠気が湧いてくるのを感じた。
今日はもう寝てもいいだろう。やることも無いし。




