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復旧

何かに意識が引っ張り上げられた。

目を開けると、木造りの天井が見える。

明るいので朝だ。

起きたよ。次は何をすればいい? 

俺を起こした何者かに問いかけたけれど、いくら待っても返事は帰ってこない。

返事を聞くのは諦めて、顔を横に向けてみた。

閉められた戸の隙間から光が漏れていた。光量の少ない、ぼんやりとした光だった。

同時に、別の()()も視界に入れた。

当然のように隣でキテラが寝ていた。身体を横たえ、口から涎を垂らして爆睡中だ。いつもキテラが先に起きていたから分からなかったけど、彼女は寝相が悪いらしい。

昨夜の暗い雰囲気が尾を引いていたのに、彼女のだらしない寝顔を見ていたら薄れてしまった。


ロフトを降りる。

ツリーハウスには静謐せいひつな空気が佇んでいた。

たまには俺が朝食を作ってやろう。

玄関から外に出て、小屋とツリーハウスの僅かな隙間にある直方体の箱を開けると、畑で採れた食材が入っている。保存の関係で、2人で2日分しか備蓄していない箱の中は、許容量の3分の1しか活用されていない。

これらの食材を使って、何か工夫を凝らした料理を作りたいところだが、食材の種類がサラダを作ること以外許さないのだ。

あぁ、肉が恋しい。全身が重厚なタンパク質を欲していた。

代わりにお茶にひと工夫を入れることにした。


赤っぽい茶色が甘味系で、緑っぽい茶色が苦味系の茶葉だ。

それらの分量を変えながら味の実験をしていると、上の方でトントンと物音がした。

寝惚け顔のキテラがロフトから降りてきた。


「おはようございます」


「おはぅ」


テーブルに並べられた皿を認めると、ふわふわした声を出す。


「お〜良いねぇ〜。使用人ができた気分だ」


「俺はいつも使用人のようにこき使われてますよ」


「嘘つけ。ただの居候いそうろうニートでしょ…………なんで嬉しそうなのさ」


「え、嬉しそうでした?」


口元に手を当てた。知らずのうちに口角が上がっていたらしい。

それは、昨夜のことが関係なしに、キテラと普段通りに会話できていることに安心した……んだと思う。

キテラは不思議そうにしつつも席に着いた。

気を取り直して、俺は2つのマグカップを持っていく。


「こちら、特製ブレンドです」


マグカップを置いた。キテラはカップを手に取って、ソムリエみたいな仕草で香りを嗜むと、一口飲んだ。


「ふむ。これは……良い茶葉を使っているね。こんなものを用意できる人は、さぞ聡明で寛大なお心を持ったお人なのだろう」


「はは、褒め上手なお方だ。残念ながら、主人は横暴で人使いが荒く、そのような素敵な人だとはとても……」


俺はとても残念そうな顔をした。


「……」


「いてっ」


後頭部を硬い何かで叩かれた。振り返ると、分厚い本が宙を漂っていて、やがて背もたれ付き椅子の上に落ちた。


「僕はもうちょい甘い方が好きかな」


キテラは今まで何事もなかったかのようにお茶の感想を口にした。

今回のお茶は俺の好みで苦めにつくっていた。


「なるほど、相容れませんね」


そんなこんなで雑談しつつ朝食を食べ終えた。




食後の片付けなどはキテラに任せて、俺は洗濯のために地上に降りた。分業をした方が効率がいいからだ。特にツリーハウスと地上を往復する回数は最低限にしておきたい。


俺は桶の他に籠を複数用意して、ベルトコンベアのような流れ作業で洗濯をしていく。

手洗いのコツは丁寧に洗わないことだ。洗いすぎは時間がかかるし、服に余計なダメージを与えてしまう。そして何より面倒くさい。とキテラに教わった。

池でちゃぷちゃぷと音が立つ。

石鹸の混じらない純水の泡は、姿を現してはすぐに消えてしまう。まるで隠れんぼの名人だ。

次の衣類を掴む。それを見て一瞬躊躇ったけど、すぐに洗濯を再開した。

分業は良いが、自分の下着まで洗わせるのは、キテラの心境的には大丈夫なのだろうか。

俺が逆の立場だったら……別に許容できるな。こんな暮らしをしているのだから仕方ないだろうという思いが強い。

ということは、キテラも同じような心境なのだろう。

別に他意はないが、このときキテラが案外着痩せするタイプだということが分かった。


洗濯物を干した後、灰色の空が気になった。

日光は霧と雲の二段構えに遮られて、いつにも増して薄暗い。

雨が降らないと良いけれど。

天気予報が使えない以上、天気がどうなるかは、祈るしかない。


地上に降りたついでに畑で野菜を採って、荷台に乗せる。

彼女の名前を大声で叫べば、上空の踊り場からキテラがひょっこり顔を出した。

俺と、荷台の荷物を確認するや否や顔を引っ込めて、姿が見えなくなる。

やがて踊り場からロープが引っ張られる。弛んだロープがピーンと張って、荷台が上がっていく。

朝の仕事を終えて、俺は荷台と競争するように巨木を上っていった。

すぐに追い越されたけれど。


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