未設定のサブタイトル
「君はいつここを出ていくのかな?」
本を持って椅子に座るキテラは問いかけた。森の寝静まった夜だった。充電したばかりのランプは、接触が悪いのかチカチカと点滅を繰り返していた。
やがてランプが正しい光り方を思い出した頃、
「もうすぐ……出ていきます」
何にも答えが思い浮かばなくて、誤魔化すように、そう口にした。
「ふーん」
キテラの薄紫の瞳は俺を真っ直ぐに捉えて、その本心を暴かんとしているかのよう。俺には数分に感じられた数秒の黙考の後で、キテラは俺から視線を外し、中空に言葉を吐いた。
「その選択がどちらであれ、結論はちゃんと出しなよ。曖昧なままにしておくのが一番タチが悪い」
あくまでも結論を俺に委ねてくれる。それは初めてここに来たときから変わらない。
それから寝食を共にしてきて、彼女の表面だけでも、俺は理解したつもりでいる。普段は素気ない彼女の、内にある優しさを。
「どうして……俺に優しくしてくれるんですか?」
「別に優しくはないよ」
本に視線を落としたままで、至極どうでも良いことのように言った。
「じゃあ、見ず知らずの人を助けて……あまつさえ家に置いてくれたのはどうして!?」
俺は助けられた、彼女に。
その事実をどうして謙遜するのか。理由があるならば、俺の為でなくたって良いから、教えてほしかった。
「知らない」
一言、拒絶された。これ以上の話し合いはしないと。
「夜も遅い。先に寝ててよ……僕は小屋で用事を済ませてから寝るからさ」
キテラは椅子に本を置いて立ち上がって、返事も聞かずに外に出ていった。
この問答に、意味は在ったか。
俺は何も決められないでいる。何も知らないでいる。それは、ここに来てから何も成長していないということだ。
靴を脱いで、ロフトに登った。
電気の消えた暗い部屋。窓から冷たい月光が差している。
ひと一人分のスペースを空けて、毛布の下で仰向けになった。
眠ったら明日がくる。
何も得られないままに、時間だけを置き去りにして。
俺はずっと、その意味を探している。




