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光と音色

今日やるべきことは片付いた。

この午後は暇な時間だ。

キテラは魔法研究をすると言って小屋に篭ったきりである。内容に興味はあったけれど、不用意に研究の邪魔をしてくれるなと釘を刺されてしまった。


よって一人だが、ここはネットが繋がっていないし、時間を潰す手段に乏しい。

テーブルに腰掛けてスマホの写真を眺めていた。

日付順に並んだ写真欄を片手でスワイプしていく。直近のは観光のもので、同僚と飲み会したときのもの、仕事の資料の写し、と古くなっていく。

写真を見ながら、それが撮られた当時の情景を思い出す。

画面の中に蝋燭の灯ったホールケーキを見つけた。久しぶりに実家に帰って、父の誕生日を母と弟と祝ってやったんだ。盛大にデカいケーキを買ったのはいいけど、俺も両親もそんなに食べないから弟が半分ほど平らげたんだったな。

懐かしい。

そう思うと同時に心に湿ったものが宿った。

俺は早く元の場所へ帰るべきだ。ここは自分の居場所ではない。なのに、いつまでもここで足踏みしていていいのかという自責の念であった。心地よい停滞を手放す覚悟、森の孤独に耐えうる勇気が持てないでいた。

ここをいつ出発しよう……。

きっと今日も、結論は出ない。


スマホの電源を消した。

窓から緩い風が吹く。新しい空気が送り込まれ、湿った空気が押し流される。この風を全身で浴びようと思って外に出た。ついでにラジオを拝借する。

玄関の脇に花瓶の乗った小さな丸テーブルがあったので、適当にダイヤルを回した後でラジオを置く。

玄関正面の廊下の柵にもたれた。


高いけど、よく見た景色。

霧の濃度でいうと池の奥側の木々がかろうじて輪郭を留めている。

ラジオのスピーカーは音楽を流していく。

ヴァイオリンがメインの、ゆったりとしていて明るいメロディーに耳を傾ける。

ずっとそうしている。


無心で森を眺めていた俺は、落ち着いた音に混じる、断続的な高音によく気づいた。

ラジオとは別の場所、巨木に遮られた遠方から、微かに鳥の鳴き声が聞こえた気がした。耳を澄ませる。時々、風の音に混じって複数の鳥の鳴き声が交互に聞こえてくるのを捉えた。


「なんだ、お前いたのかよ」


自然と笑みが溢れた。今までいないふりをして、実は俺を見下ろしていたのかもしれない。生意気なやつだ。

暫くは、メロディーに彩られた景色をぼーっと眺めていた。

ラジオも案外悪くないなと思った。




辺りは既に暗くなって、部屋を飽和したランプの光が外に漏れ出ている。

今は皆がツリーハウスに集まっている。

俺がテーブル席、キテラが背もたれ付きの椅子。それがここ数日で確立された法則だった。


俺はスマホの日記帳を開き、入力する文字に頭を悩ませる。

すると、先程よりランプの光が弱々しいことに気づいた。

この光量では部屋の隅に闇が生まれてしまっている。


「なんか……ランプの光が弱くなってませんか?」


本を持って椅子に深く腰掛けたキテラは、顔だけ上に向けると呟く。


「あー、じゃあそろそろかな」


呟いた直後、弱々しくも保っていたランプの光が消えた。

窓の近くだけは月光の照明があるので、その付近に座っていた俺はスマホの光を懐中電灯代わりにする。

キテラの方へ向けると、彼女は眩しそうに腕で光を遮った。咄嗟に光を地面に向けて、間接的に部屋を照らす。


「エネルギー切れだ。こうなったら補充しないと」


特に焦った様子もなく、キテラはロフトは登って、ランプから何かを抜いた。こういった事態はよく起こるのだろう。


「それは……手回し発電機ですか」


四角い箱に回転できる取っ手が付いているから、バッテリー付きの手回し発電機だと当たりをつける。


「これを回転させると何故かエネルギーが蓄えられるので、またランプが点くようになります。平等に100回交代で回していこう。まずは君から頼んだ」


交代で取っ手を回していく。

一人500回は回しただろう。シャトルランみたいな感じで前半は勢いづくけど、後半は腕がヘトヘトだった。俺の番が終わったところで、キテラが「もう良いでしょう」と言って充電を終えた。


「えーと、俺から始めて俺で終わったんだから……俺の方が多く回してません?」


「良い着眼点だね。嫌いじゃないよ」


さすが魔女。平等とか言っておいて平気で狡い手を使ってきやがる。まぁ、見た目少女でも中身はオバサマだからな。騙されてはいけない。


「はぁ……」


彼女を冷えた目で見て、わざとらしくため息をした。


「君が何を考えてるのか知らないけど、侮辱されてるのは分かってるぞ」


キテラは軽く睨みを利かせたが、それ以上言及してくることはなかった。

バッテリーをランプに差し直す。

再び部屋が明るく照らされた。


「ありがとね。ところでなんだけど……」


そう前置きして、何かを聞いてこようとする。


「君はいつここを出ていくのかな?」


俺の逃げ続けてきた質問を口にした。

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