魔法基礎概論
翌朝。池の側の開けた大地にて。俺はキテラに魔法適正を調べてもらうことになった。
「物理法則から逸脱した事象を起こせる力。それを魔力と呼ぶ。そして魔力によって起こされた事象、起こすこと自体を魔法と呼ぶ」
「はい、師匠」
「師匠……? まぁいい。魔法は物理に干渉しないから、使用者の意識だけで行使することができる。今から君には、最も簡単に行使できると言われている魔法、加力の魔法を使ってもらう。これが使えなければ、魔法を使える素質無しということだ」
「意識で魔法が使えるとは、どういう……」
「それも教える。両手を出して」
腰の高さあたりで掌を上にして広げた。
その手に、キテラは自分の手を重ねる。
「目を閉じて。…………そのまま、頭を空っぽにする」
(僕の声、聞こえる?)
脳内に直接声が響く。驚いて身体が跳ねた。
その拍子に目を開けてしまったら、目を瞑って俯くキテラの頭頂部が見えた。
キテラはゆっくりと目を開けると、真剣な目で言う。
「驚かない。無心を貫く」
そうは言っても、自分の意識に他人が入ってくるのは、脳みその奥を触られるむず痒さがあるのだ。
しかし彼女の真剣な目に反論は出来ないので、耐えるほかない。
(そう……僕の言葉だけを意識して……余計なことは考えないで。……ゆっくりと目を開けよう。地面に刺さった木の棒が見えるでしょ? ……今からあれを倒すよ。……木の棒の上側に力を加えよう……君から伸びる見えない手が、あれを押すんだ。想像して……)
バチッ、と脳を電流が通った感覚があった。これに驚かないのは無理だった。身体が再度跳ねて、同時に木の棒がコテンと倒れた。
「どう、感じた?」
「はい。電流のようなものが頭に流れました」
「脳内で今の感覚を完璧に再現すること。そうすれば加力の魔法が使える。それが意識で魔法を使うと言うことだ」
木の棒の上側、見えない手で押す、すると電流が流れる……。想像してみるが、全く魔法を使えそうな実感がない。想像力が足りないのだろうか。模範解答が見たい。
「もう一度さっきのやってください」
「えー、君の好奇心にちょっと付き合ってあげただけで、面倒臭いからやりたくなんだけど」
「師匠!」
「まったく、これっきりだよ」
どうやら、師匠という言葉に弱いらしい。
その後もキテラに付き合ってもらいながら、完璧な再現を試みるけれど、細い棒は地面に縫い付けられているかのようにびくともしない。
奮闘し続ける俺を見てキテラは言う。
「素人がそんなすぐに魔法を使える訳はない。魔法は慣れだよ」
「僕は先に戻るから、適当なところで切り上げなよ」と言い残してツリーハウスに戻っていった。
それからも粘り続けたけど、30分後に見かねたキテラに上から声をかけられるまで、ついぞ魔法を使えたことはなかった。




