斃れ、芽吹く
「ここら辺に目印があるはず…………あった」
崖沿いの道から、また森の中へ入っていく。
そこから、ものの数分で目的地である倒木にたどり着いた。
巨木は根元から折れていた。そこでは大地が隆起し、朽ちるまで日の目を浴びるはずの無かった根が、折れ曲がりながら地表に引っ張り出されている。まるで力任せに倒されたよう。折れた部分には、木の繊維によってギザギザしている、薄橙の内面が見えていた。
一方で、幹の頂上部は別の巨木の根元付近に転がっていた。そこらには折れた小枝が散らかっている。
その中で特に目を引いたのが、倒木の周囲や倒木そのものに植物が茂っていたことだ。蔦が部分的に幹を覆い、上には草花が咲いている。
到着したら、約束通りお昼にすることになった。キテラは適当なところに場所を取ろうとしていたが、それでは勿体無く思った。
「せっかくだから幹の上、登りましょう!」
「なぜ高いところへ行く」
「良い眺めが見られるかもしれません!」
俺の強い推薦で、お昼は幹の上でひらくことになった。
二つのバックパックが倒木に立て掛けてある。
10メートルはある幹を、幹の溝に足をかけてロッククライミングの要領で登る(ロッククライミングやったことないけど)。登ってみると結構高い。それだけでテンションが上がった。
幹の上に立って、高所から辺りを見回した。
すると幹のちょうど中腹に、三輪の花が身を寄せ合うように咲いているのを見つける。蒼い、空を搾って色を付けたような花だ。
俺たちはその近くに腰掛けることにした。
持ってきた布巾着の紐を緩める。香ばしい匂いが広がった。出来立てという訳ではない。芋の香草焼きである。
その抗い難い匂いに負けて、皮付きのまま齧りつく。皮がパリッと割れて、中は柔らかくほんのり甘い。
布巾着には芋の他にも色々なナッツが入っている。左手に芋を持って、たまに右手でナッツを口に放り込む。
少し寒い空より低く、けれど大きな幹の上で。光と花に囲まれて芋を頬張る。風に木の葉が、草花が、その影が揺れる。
絶好のお喋り日和だと思った。だからキテラに話しかける。
「どうしてこの木は倒れたんですかね?」
「大いなる命の仕業だよ」
「大いなる命?」
なんだろう、その仰々しい名前は。
思わず聞き返した。
「この森の主。僕よりずっと古くから森に住み、森の守護者でもある」
「人……ですか?」
「分からない。僕も一度も見たことがない。でも、たまに感じるんだ。何かとてつもなく大きな存在から見られてるって」
抽象的だなぁ。魔法を感じ取れる人間の言うことは翻訳が難しい。
でもまぁ、そういうことで納得しておいた。
こんな呑気な日に、難しいことなんか考えられないから。
13部と14部の誤字を直しました




