変わる景色
巨木の真下。ツリーハウスへと続く階段の一段目に腰掛けて、荷物を確認している。
「ランタンは?」「持ちました!」
「ロープは?」 「持ちました!」
「お昼は?」 「持ちました!」
「あとなんかあったっけ……?」「ありません!」
キテラは階段から飛び降りた。そして先の見えない霧の彼方を指し示す。
「よ〜し。何人も逃れ得ぬ霧の奥地、目指すは大いなる命の足元にて。いざ、しゅっぱ〜つ!」
それっぽい口上に乗せられて、俺たちは歩き出した。
5分後。
「それにしても、何もありませんねー。“歩きがい”がないというか……」
描写するのも何度目か。あるのは似たような木々ばかり。遠くの景色を霧が隠してしまっている。非日常を漂わせる巨大な森の中にいながら、俺はこの光景に辟易していた。
「何にも無いことはないよぉ! そこらに生えてる植物はみんな違う種類だし、目を凝らせば小さな虫だって見つけられる。……あ、いた!」
突然キテラは前方の巨木の根元に駆け寄って、しゃがんで何かを手で掴んだ。
歩いてきた俺が追いつくと、掴んだそれを俺の目の前に持ってくる。
「ほら!」
背中を掴まれたバッタが足をバタつかせていた。
「たしかに」と呟く。
この森は植物以外の存在しない、寂しい場所だと思っていた。それは大きすぎる巨木に目が行っていて、逆に小さなものに気づけなかったからだ。彼女の言うように、もっと目を凝らせば、この森はまた違った色を見せるのかもしれない。
「まぁ、僕はこの森と長いこと付き合ってるからね。色々知ってて当然だよ」
言いながら、未だ手に持っていたバッタを口の中に放り投げた。
「ええぇっ!」
「……なにさ」
口をモゴモゴ動かしながら言う。
「いやぁ、食べるんすねぇー」
「お昼を持ってきたとはいえ、それだけだとお腹が空いちゃうよ。君も食べとくといい」
渋い顔をした俺を見て、キテラは疑問符を浮かべる。
「虫食べたことないの?」
「あることにはある……けど、好き好んでは食べないというか……」
旅先で一度食べたことがあるが、食感が駄目だった。もろに昆虫を食べてる感じがして、生理的に受け付けない。飲み込んだら吐くという確信があった。
「嫌いでもいいけど、食べた方がいいよ。食料は貴重なんだから。……分かった! あーん、してあげよう」
「結構です」
「即答だね……」
何故かキテラは傷ついたような表情をしていた。
目的地である倒木に着くまでは歩くばかり、2人ともとにかく暇である。だから雑談をして時間を潰していた。それから、話題はキテラが以前言っていた道中の目印のことになった。
「そういえば、道中に目印を置いてるって言ってませんでした?」
「それなら木につけてあるよ。ほら、この木とか矢印がついてるでしょ?」
木の表面が削られて、矢印がつけられていた。矢印自体は大きくないので、言われなければ気づかずに通り過ぎてしまうかもしれない。
「じゃあ俺と最初に会った時も、目印を確認しながら歩いてたんですか?」
「あのときは違うよ。距離が近かったから感覚で分かる」
「魔法ですか?」
「よく分かったね。ツリーハウスの辺りは魔力が濃いから、その方角に歩けばいいんだ」
当てずっぽうだったが見事に当たった。しかし、そんな便利な機能もあるのか。地図やGPSを使わなくたって、近場なら絶対に森で迷うことはないのだろう。それが俺も使えたらどんなに楽か。
「あの、俺にも魔法って使えますか?」
「その質問はいつかしてくると思ってたよ。私がされがちな質問ランキング堂々のトップだからね」
やれやれといったふうに苦笑を浮かべる。それから質問の答えを返してくれる。
「出来ないことはないけど、出来るとは限らない」
「つまり?」
「結局は才能次第ってこと」
「その才能はどうやって分かるんですか?」
「帰ったらテストしてあげるから、それまで待ってな」
俺のその質問すら予期していたようで、呆れた口調で言い放った。




