在る日の魔女
ぬるい日差しに当てられて。欠伸をしながら身体を起こす。
畑を世話して、水浴びをして、魔法研究に没頭する。たまにはラジオを聴いたりする。
波一つない生活。繰り返される時間。
誰の邪魔も入ることなく、自分の好きなことに熱中できる。この場所は割と居心地がいい。
毎日同じ時間に起き、同じ時間に眠る。
悠久に呑まれることを、自身が望んだせいで、時間の感覚を忘れてしまった。
思い出せる大切な記憶。父母、友人。それらの過去が、どのくらい前の出来事であったのか。
小屋からツリーハウスへと木箱を移していく。宅配段ボールほどの大きさの箱を持ち上げる。まだまだ重ねて持てそうだ。時短のために、いっぺんに運んでいこう。大きい順に積み上げて、5段重ねになった箱を持ち歩く。ここまでくると目の前が箱で遮られてしまうので、頭を横にずらして前を見なければならない。
当然、体幹が不安定になる。
小屋からツリーハウスへと続く足場。ほんの少しの距離をよろよろと進む。それでツリーハウスまで辿り着けたのは奇跡と言っても差し支えないだろう。だが、終わりを目前にして気が緩んでしまったのか、ついにバランスを崩した。
咄嗟の反射神経を発揮して、来るべき未来に抗った。
手元が左右に揺れて、積まれた箱も左右に滑る。
「お、おっとと……とぁ!」
その努力の甲斐もむなしく、上3段を落としてしまった。そのうちの一つの蓋が衝撃で開き、床に茶色い薬草の粉末がばら撒かれた。
「あぁ……やっちゃった……」
とりあえず持っていた箱を床に下ろした。
これらは研究で使う予定だったんだけど、まいったな……。
不幸中の幸いか、ぶち撒けてしまったのは珍しくない種だから、近場に植生してるはず。探せばすぐに見つかるだろう。
想定外の手間が増えてしまったが、過ぎたことだから仕方ない。『無理するからだ』とか、『こうなることを予想できなかったのか』とか。そういう正論に耳を貸す必要はないのだ。
玄関でポーチを肩にかける。扉を開け、ツリーハウスを出た。
変わらない景色に包まれて、穏やかな日々が過ぎていく。
事情で、2日ほど投稿を空けます。




