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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世界迷惑劇場

ヘンゼルとグレイテル

作者: 爆微風



<世界迷惑劇場>



 むかしむかしあるところに、ヘンゼルとグレイテルという兄妹がいました。


 家は貧しく、木こりをしている父と五年前から家族になった継母と、四人で慎ましやかに暮らしておりました。


 しかし二年前から一帯が寒冷化し、飢饉(ききん)(おちい)ってしまったのです。

 頭のいい継母のやりくりも大変になり、毎日カリカリと怒りっぽくなっていきました。


 蓄えも底を突き、やがてはその日の食事にも困るようになってしまい、継母が『口減らし』のために子供のどちらかを森に捨てることを提案します。


 父親はそんなことはできないと言いますが、常日頃から稼ぎの少ないところを継母にフォローされていたので強くは言えません。

 押し切られる形で了承してしまいました。


 その会話を聞いていたヘンゼルとグレイテル。

 しかし笑いだした妹に、兄は問い掛けます。



「一体何を笑っているんだい?」


「フッフッフ、マッタク地球人ノ生活れべるノ低サハ耳ヲ疑ウ……」



 ヘンゼルは彼女の灰色の肌を眺めながら、妹には耳がないのになぁと不思議に思いました。

 が、そんな場合でもなく。


 このままだと、兄妹のうちどちらかが捨てられる…… その問題を回避するための作戦を悩み、考え、しかし彼にはなにも思いつくことはありませんでした。

 継母がどちらを選ぶのか、うっすらと理解していたのかもしれません。


 無駄に悩み、思考が空転しているうちに、妹は不思議な石板を手に持っていました。



「グレイテル、それは?」



 しかし、笑うばかりで教えてはくれません。

 いつの間にか、光る石板は消え失せていました。



「ううん、えっと、何を考えていたんだっけ……」



 兄の頭にはモヤがかかり、色々なコトを忘れています。

 忘れたコトさえ、忘れていたのです。



 次の日、継母に森の奥へと連れて行かれるグレイテル。

 何を考えているのか解らない彼女を、継母は気味悪がっていたのでした。



「いいかい、ここでじっとしてるんだよ」



 山を二つ越えて、大きな木の根もとに縛り付けられた少女(?)は、不敵に笑います。



「フッフッフ! コンナ所マデ運ブトハ無駄ナ努力(どりょく)ヲシタモノダ」


「グレイテル。あんたは気味が悪いんだよ。あの人は『まさに真珠(マルガレーテ)だろう』なんて言うけれど、私には『黒真珠』にも見えないね」



 言い放つと、継母は急ぎ足で帰って行きました。



「ばかメ。コンナ暴挙ヲ我ガ許ストデモ思ッタカ? 選択肢ヲ間違エタト後悔スルガイイ……」



 グレイテルは置き去りにされてしまい、ただ黒く大きな瞳で継母を見送るだけ。

 彼女はそのまま家に帰ることはありませんでした。



 しばらくすると、それでも家庭は困窮(こんきゅう)し続け、兄のヘンゼルも口減らしされることになりました。


 父親は彼を殺すことに抵抗していましたが、彼女に小言を繰り返されては逆らえません。


 継母が提案した通り、切り分けたパンに毒をかけて食べさせ、殺す予定でした。

 が、妹のことがあり、ヘンゼルは継母から出される料理を信用していなかったのです。


 食べた振りをして服の中にパンをしまいこみ、二人も口にしていたうすいスープだけを飲み干しました。


 弱る気配のないヘンゼルを、父親はしかたなく山奥へと連れていきます。



「山の中にあるワナを見回るよ。ついておいで」


「明かりを持ってはいかないの?」



 黙っている父親に、ヘンゼルも察してしまいました。

 貧しい暮らしはどうしようもないのです。



「すまない…… 本当にすまない」



 森に連れて行かれ、やはりおいてけぼりになりました。


 夕闇に包まれていくのを見守るしかなく、そして森は容易(たやす)く夜を迎え入れてしまいます。



「妹を見殺しにしたのは、僕も一緒だ…… 今度はちゃんと、君の近くへといくよ、グレイテル……」



 家の外は、獣の支配する場所です。

 父親のように身を守るちからはありません。


 ヘンゼルは諦めて、大きな木の根に寄り掛かっていました。


 すると突然、空が真っ白に染まります。

 強烈な光に、森の中は昼よりも明るく照らされていました。



「これはいったい……!?」



 ヘンゼルは宙に浮かぶ自分を理解できず、不思議な発光体の中に吸い込まれていきました。


 その中には、死んだと思っていた妹の姿が、たくさん。

 いいえ、それは灰色の人型宇宙人『リトルグレイ』たちでした。



『まったく(おろ)かしい…… 自らの家族すら切り捨てるとは』


『キャトる価値もない……』


『じゃあ処す? 処す?』


『待ってくださいグレイリーダー』



 妹の姿に似たモノが賑やかに、しかし違う言葉で話しているのをヘンゼルは黙って聞いていました。

 その中にいる彼女を見分けられたのは、いつか作ってあげた木の実の首飾りを着けていたから。


 妹が生きていてくれた、それだけでヘンゼルは泣いてしまいました。

 その涙を見て、グレイテルはヘンゼルをかばいます。



『程度の低いモノは情報だけでいいでしょう。この【検体】は私にお任せくださいませんか』


『いいだろう。君は現地に潜り込んで情報収集に努めてくれた功績もある。好きにしなさい』


『ありがとうございます』



 グレイテルはあの石板を操作して、意識を狂わせ森をさまよわせていた父親を回収しました。

 そして、家の中で夫の帰りを待っている継母も回収しました。



「な、なんだここは? あっ、グレイテルが、たくさん……!?」


「な、なんなのっ! 放してっ!」


「ソコニ座リタマエ」



 機械の腕に掴まれていた二人は小さな部屋に押し込められました。

 そして、お腹のすいていた夫婦の前にはテーブルいっぱいに不思議な匂いのするごちそうがならんでいました。



「食ベルトイイ」


「これは夢かしら?」


「死んだハズのグレイテルがたくさん見えるんだ。夢に決まってる」


「なら、食べてもいいのよね?」


「ああ、うまそうで我慢できない」



 二人が夢中で肉やお菓子にかじりついていると、グレイテルとグレイたちが笑いました。

 食事の中には、あるものが混ざっていたのです。



「ぎゃあっ、苦し、喉が、お腹がっ」


「これは、毒が入っ、ごはっ」



 それは二人がヘンゼルに使ったモノでした。


 ヘンゼルが服の中に入れたままの固いパンを、グレイたちが回収し検査していたのでバレていました。

 そのやり口に怒ったグレイテルは、見た目だけ豪勢な食事に合成し、自分から食べるよう仕向けたのです。


 ただ量が少なかったため、弱っただけの二人。

 夫婦は、その後もそこに閉じ込められることになりました。



「お父さんたちをどうするの?」



 ヘンゼルが尋ねると、グレイテルは寂しそうに言いました。



『捨てられてもまだ、お父さんなどと呼ぶんですね。兄さんらしい。あの二人は太らせたり痩せさせ◯◯してから分解しますので、気にしないで。そのための幻覚剤を与えてあります』



 それから数日、丸く黒い目のグレイたちはヘンゼルの見えないところで親たちにいろいろしましたが、まあ、どっとはらい。


 いつのまにか、ヘンゼルにはグレイたちの言葉がわかるようになっていました。

 彼だけを特別扱いした未確認飛行物体は、空の上をどこまでも進みます。



『私たちの星の代わり、としてここを選んだのですが…… 暑すぎて。植物が死滅しない程度の気温を探っていたら、情報収集の拠点から追い出されてしまったのよ。まぁフォーミングも終わっていたので、兄さんだけが心配だったのだけど……』


「そうか。グレイテルは他の星の女の子だったんだね」



 不思議に思っていたことがいっぺんに解決しました。

 世界が寒くなったのはグレイたちが変化させたのです。



「お前の兄さんのつもりだったけれど、勘違いだったんだね」



 すべてを知って、僕も父や継母のように『処理』されるのだろう。

 ヘンゼルは自分の運命を悟りました。


 しかし、グレイテルは殺すつもりなどありません。



『兄さんは、兄さんです。こんな気持ちでは、処理のやり方なんてわからない』



 そう答え、一着のスーツを差し出しました。

 その全身スーツを着ると、ヘンゼルもグレイたちと見わけがつきません。



「これは?」


『グレイスーツ、兄さん用です。夜なべして作りました』



 なんと、彼女は貴重な資材を振り絞り、見た目はおかしな服ですが、一緒にいられるように考えてくれていたのです。


 極寒の世界になった地球の、見た目がおかしな一団に混じって、ヘンゼルとグレイテルの兄弟は幸せにくらしましたとさ。



 めでたし、めでたくもなし。






ご覧いただきましてありがとうございます。

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[良い点] 面白かった。 [気になる点] 新しい言語をいつの間にかで覚えれるヘンゼルすごい。 それともグレイ達に知らないうちに何かされたのかな? [一言] ヘンゼル=妹とグレイテル=兄と勘違いして読み…
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