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ガウラのアマディス  作者: Garci Rodriguez de Montalvo(翻訳:小川奇岩)
序幕 始まりの物語
1/3

第壹話 貮王邂逅

レタヴィアのガリンテル王、深き森の中を彷徨ひ歩いて、ガウラのペリオン王と邂逅す

ガウラのペリオン王、貮人の惡漢と壹頭の獅子を屠りて、世界最高の武名を示す

 (いま)(ここ)に、ガウラこくわうペリオンと)きさきエリセナが(ちゃく)(なん)にして、ゆうまうくゎかん()かうしゃうけっぱくだいなるアマディスの、さうだいなるものがたりまく()がる。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 (これ)は、當世(いま)より(とほ)(はる)彼方(かなた)(おほ)(むかし)われ(じん)(るい)(すく)()ぬしにして贖罪(あがなひ)びとたる(かみ)が、(ちち)なる(てん)より(さづ)かりし任務(つとめ)(まった)うせんとするも、(こころざし)(なか)()で、じゅなんひて)(たふと)しゃうがい()へしときより、)いくばくとしつきたぬ時代ころ(はなし)なり。


 エレシア(たい)(りく)西(せい)()の、レタヴィアと()ばるるくにに、いとをりただしく、(をん)(こう)とくじつ)()(せい)にて、(かみ)へのけいけんなるしん(しう)()(しょ)(こく)(ひろ)()(わた)りし、ガリンテルとわうりけり。

 ()()(じん)は、(しん)(せい)なる眞理(まこと)教訓(をしへ)(もと)づく規範(のり)律法(おきて)(もち)ゐて(くに)()べ、(あまね)(ぜん)(せい)(ほどこ)し、(じん)(みん)(たい)して、()(だい)なる(けん)(しん)(つく)せり。

 (それ)(ゆゑ)に、ガリンテル(わう)(とく)(かう)は、()(ゆう)(ひゃう)(ばん)(よっ)て、(かれ)(めい)(せい)(たか)まる(こと)(こころよ)(おも)はぬ(もの)(たち)すら、()(しゃう)()(しゃう)(みと)めざるを()(もの)()りぬ。


 (さて)、ガリンテル(わう)と、()(つま)にして、(はん)(りょ)(ひと)しく、(じん)(あい)(あふ)れし、かうなる婦人おみなメリンダ()とのあひだには、(たい)(そう)うるはしきたりむすめ()りき。

 いち)ひめベラドリアは、(ほん)(らい)レタヴィア(こく)()ける(あと)(つぎ)ながらも、エスコシア(こく)のランギネス(わう)より(つよ)()(のぞ)まれて、(せい)(しつ)として(かれ)もととつぎ、(のち))ぬしより、〈はなきみ〉とばれり。

 ()理由(わけ)は、ランギネス(わう)が、『(きさき)ベラドリアこそは()(かい)(さい)(かう)(れい)(じん)なり』と(だん)(げん)して(はばか)らず、(とり)()(かの)(ぢょ)()くはし)がみ(はなは)り、(はなぶさ)()にして(つく)りたる、じゃうがうせいなるかんむりほかには、(つま)(かみ)おほ)かくさんとする(こと)ゆるさぬ(ところ)なり。

 ()(やう)にしてランギネス(こく)(わう)は、(とき)(をり)(ひま)()(つくろ)うては、(あい)するベラドリア()(こん)(じき)まき)いっそくおのゆび(さき)へとぐり)せつつから)すさびて、屢々(しばしば)()(えつ)()(びた)れり(つく)せりとの(あり)(さま)()りぬ。


 やが()(さい)は、(だん)(ぢょ)()(たり)の、珠玉(たま)(ごと)くに(いと)(あい)らしき、(わう)()(わう)(ぢょ)(まう)けて、(ちゃく)()たる(あに)(ぎみ)をアグラヘス、(よっ)(した)(いもうと)(ぎみ)をマビリアと()()く。

 (のち)(さう)(はう)(とも)(ちゃう)ずるに(およ)んで、()にもごとなると、(はなは)()()うるはしき(をと)()へとるも、(かれ)()(きゃう)(だい)かんしては、いづれは)ながものがたり(うち)にて()かされんことおもひて、いまへてなに(かた)らずに()く。


 (いっ)(ぱう)で、ベラドリアが(いつ)(した)(いもうと)()たる)ひめエリセナは、あねぎみ()してはまさるともおとらぬか、(ある)いははるかにすぐれたるばう)ぬしたたへられ、幼稚(いとけな)時分(ころ)より、(ない)(ぐゎい)(らう)(にゃく)()はず、(あま)()(きん)(だち)(しょ)(こう)から、()きも()らずに(えん)(ぐみ)()のぞまるるも、(ひめ)(りゃう)(しん)()(じゃう)の、(たい)(そう)(しん)(かう)(あつ)(こころ)()(ぬし)なれば、(けっ)してなにものにもなびかず、だれひと()として(かの)(ぢょ)こころにはかな)はずして、(きう)(こん)()えずこば)つづけり。

 エリセナ(ひめ)の、(かみ)への(ほう)()(ため)に、へて()(ぞく)なるけんよりの(しゅう)(じん)()もくしのばんとする、)つつましき日々(ひび)いとなみを人々(ひとびと)みな(こぞ)りてかのぢょを〈(かぐは)しの(せい)(ぢょ)〉と()(たた)へるも、(しか)して(ごく)(いち)()の、(こころ)()(やから)は、〈まどはしの(れっ)〉と(ひそ)かに()(ばう)せり。


 なんとなれば、『レタヴィア(わう)(こく)けるもっとだかすぢしゅつにして、()よう姿たんれいなることるいく、(また)(けん)(らん)にして(いう)()なる(こと)(ぐん)()きて、(へい)(ぜい)より殿(との)(ばら)(しん)(きょう)(おほ)いに(おも)(わづら)はせながら、()()(いっ)()だにせずして、(なほ)あい()()けしエリセナ(ひめ)が、可惜(あたら)やうくら))きでは、()()(ばう)()()(そこ)なふやも()れぬ』と()ひし()(あひ)(ふう)(ぶん)を、(こと)(さら)(ひめ)(ぎみ)から()()にも()けられざる、()(ぐらゐ)(ばか)(たか)(もの)(ども)が、(くち)()(そろ)へて、(ちまた)(うはさ)したる(こと)(ほっ)(たん)とせしも、()(やう)()()(ほう)(へん)(おのれ)(みみ)()れんとも、()(ぜん)エリセナは、(われ)(かん)せずの姿()(せい)(いささ)かも(くづ)さず。


 (じっ)()(むすめ)()(たり)のみにて(だん)()()らず、(あね)(ひめ)ベラドリアをエスコシア(わう)(こく)へと(よめ)(おく)()し、(すで)(こう)(けい)(しゃ)は、(いもうと)(ひめ)のエリセナ()(ぐゎい)()らぬが(ゆゑ)(こく)(わう)()(さい)(おい)ては、エリセナ(ひめ)婿(むこ)()らせて、(かれ)()(くらゐ)(ゆづ)(わた)(ほか)には、()(はや)()(だて)(のこ)らざりき。

 ()れど、(いま)(じふ)(だい)(なか)ばの(みづ)(わか)きエリセナ(ひめ)が、(おの)(みさを)(まも)らんが(ため)とは()へ、(ちち)(おや)たるガリンテル(わう)()(ぐゎい)(だん)(せい)(いた)りては、(この)()()()(おろ)()(ぼく)すら(ほとん)()()けず、(みずか)らの(そば)には、()()(まい)にして、(もっと)(しん)(らい)せし()(じん)ダリオレータを(はじ)めとせし、(すう)(にん)()(ぢょ)のみを()き、(しゅ)(えう)なる(ぎゃう)()(のぞ)いては、(きょく)(りょく)(ぞく)()(かへり)みず、(ひた)(むき)(かみ)への祈祷(いのり)(ささ)げたる(あり)(さま)()て、ガリンテル(わう)とメリンダ()は、(むすめ)とレタヴィアの(ぜん)()に、(ばく)(ぜん)たる()(あん)(きん)()ず。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ガリンテルわうは、)ころすで(たい)(さう)歳齡よはひ()かさねて、(みづか)らの(しん)(たい)のみならず、()(はや)()(りょく)(まで)もが(とし)()いて(つか)()てたる(こと)(わきま)へらば、(こころ)(むしば)日々(ひび)(うっ)(せき)()らし、(てん)への(しん)(かう)()(ぐゎい)に、(おの)精神(たましひ)あんそくんが(ため)おもひ )いたりて、義務(つとめ)()(とき)は、(すみ)やかに(あい)()()(また)がり、()(じゅう)(ども)()()れて、(ひん)(ぱん)さんへとおもむき、(きゅう)(せん)(もち)ゐて、(ゐの)鹿(しか)(など)(じう)(るい)()()(まは)し、(きん)(てう)()()らば、()()(こころ)(なぐさ)めとす。


 と)(はる)、ガリンテル(わう)は、(おの)(きょ)(じゃう)(ちか)くでの、アリマと()ひし()まちへと()たりて、()(あた)りで、()りの()(もの)(さが)(もと)め、(しん)(りん)なか(おく)(ふか)くへとはひ)()んで(しば)(のち)(ハタ)(まは)りをわたせば、何時(いつ)しか(みづか)らが、とも(もの)たるれふたちよりはぐれ、(みち)(まよ)ひたること(いて、(こま)()てる。

 ガリンテル(わう)は、()むを()孤獨(ひとり)てんなる(かみ)への(もく)(たう)とな)へながら、()(づな)()いて、(しばら)周圍(あたり)彷徨さまよ()きたるも、ふと()()けに()(がう)()(せい)()()ひて、(おと)のせしひだり)方向(かたへと()()れば、ひと()ふた)()ぐみあひるも、(ひる)(こと)()く、(いっ)()()かずにたたか)ひを(いど)みし()(あた)りにす。


 ガリンテル(わう)は、()ふた()(ぐみ)おぼり。

 をポリナス(なら)びにブレオと(きゃう)(だい)で、(なげ)かはしき(こと)に、彼奴(きゃつ)()ほかならぬガリンテル(わう)しん()にして、レタヴィアの(わう)()(つら)なりし(もの)(ども)なれど、()せいしつがうがん()(そん)あくぎゃくだう()はいにて、()つガリンテル(わう)しん(るい)たる(こと)かさ()て、(いち)(もん)(ちゅう)(こく)さへ(かへり)みず、じゅうわう()()(けふ)かざし、(あまっさ)(むすめ)エリセナとの(こん)(いん)(よっ)て、(いづ)れかが(わう)()()き、(さら)(けん)(せい)(もっぱ)らにせんとする()(しん)を、(はばか)(こと)()周圍(まはり)(ふい)(ちゃう)せば、こと(おい)ては(かね)てより、ガリンテルははなはだしき忿ふんまんかんずれども、平生(いつも)(たく)みに(かは)され、(こころ)ならずも、(こん)(にち)(いた)(まで)()()せずに()たり。

 ガリンテル(わう)は、(ここ)(いた)りて(やうや)(おのれ)が、()らぬ()(ぞく)(しん)(ども)(りゃう)(ぶん)へと(まよ)()りたる(こと)()()いて、(あらた)めて(くだん)(きゃう)(だい)が、()(まへ)(らん)(ぼう)(はたら)きたるのを()(さだ)むるも、ガリンテル(わう)は、(いやし)くも()(もん)(しゅつ)たる()()(たり)(たい)して、(おく)する(こと)()く、()(かく)(たたか)ひを(いど)みし(もの)が、何處どこだれかをぞんぜず。

 (けだ)しくは(とつ)(くに)(もの)(おぼ)しけれども、よもや()()(はう)が、より(たい)(そう)なる(あく)(たう)で、()(たり)()れを(せい)(ばい)せんとしたる(だけ)やも()れぬと()ひし嫌疑(うたがひ)を、(つひ)(ぬぐ)()(こと)(あた)はずして、()()くガリンテル(わう)は、(かれ)()()()しをせずに、ひよりはなれしところから、戰鬪(たたかひ)すゑとどけり。


 (しばら)くして(のち)(じふ)(すう)(がふ)にも(わた)(せっ)(せん)(をは)り、(たう)(とう)(ぎゃく)(しん)ポリナスとブレオは、()(こく)()()よっちのめされ、(そろ)ひて(とど)めを()されつ。


 ()()は、(はい)()のガリンテル(わう)()(はひ)(かん)()き、(つるぎ)(さや)(をさ)め、(きびす)(まは)し、ガリンテル(わう)(かた)へと()いてあゆり、しうにはだれらず、かれただひとりのみなること(しか)みとめて、(こゑ)(しつ)(ばう)(ひび)きを(にじ)ませながら()へらくには、「(ああ)(しん)(あい)なる其處(そこ)かたよ。()しや殿でん()(くに)では、(みち)()()()(たび)(びと)(いだ)(たび)に、()らぬ(いん)(えん)()けてはおそかりて、(がい)さんとする法度(おきて)習慣ならはし)なんぞらんや?」


 ()()()()ひに(たい)して、(せん)ずる(ところ)(がん)(ぜん)(あり)(さま)(まね)いたるは、(みづか)らの(いた)らなさが(ゆゑ)薄々(うすうす)()()きしガリンテル(わう)は、(ない)(しん)(ぢく)()たる(もの)(おぼ)えつつも、こたへてのたまはくには、「おお、こうよ、やう(らく)(たん)するなかれ。こくたらんとひて、ことさらぜんあくべつらざるがごとくに、偶々(たまたま)しょ()時閒(とき)()いて邪曲よこしまなるやからはせたるがだけ(こと)には()(こう)()()めし()ものどもは、おほぜいたみばかりか、(おの)()つかへししゅくんにさへ(したが)はぬ、きゃうかんなれども、(あまっさ)けんぞくりてはほしいままひて、かるしんりょくしげさんりんうちじろにしてもるがゆゑに、(なげ)かはしき(こと)かな、()くにわう(こん)(にち)(いた)(まで)彼奴きゃつせいてっついくだことかなはざりき」


 へんれきいはく、「()()りなんや。(あひ)(こころ)()たり、ならば(しょう)()(いた)さん。(しか)るに、殿でん(さき)(ほど)(まうせしこく)わうを、此處ここよりとほはる彼方かなたの、マニカ(かい)(けふ)()えたる()る、かれたふとゆうじんからの便たよりをたづさへてさがしにまゐりたり。(のぞ)むらくは、しも()()(かた)しょぞんならば、なにとぞ()おしたまへ」


 ガリンテル(わう)()(ことば)(おう)じてのたまはくには、「()(こう)(ほど)(ゆう)()やうことまうさば、()もっ)ことつたきて、しんじつ(かた)るべきぞ。なにかくさんや、(ほか)ならぬ()こそが、()(こう)さがもとめたる、レタヴィアこく(くん)(しゅ、ガリンテルなり」


 (ことば)()きも()へずに、かぶと(はづ)してガリンテル(わう)はうようし、ひていはく、「さきれいをば、(なに)(とぞ)()ゆる(たま)へ。われこそはガウラ(こく)くんしゅにして、をペリオンとまうものなり。へいかうめいとほ)はう)われ)()(とも)にもきことどき、ひゃうばんねてよりうかがたまはりて、常々(つねづね)でもひとひたしと庶幾こひねがひたれば、よもや殿でんこそがのガリンテルわうとは、いささゆめにもおもはんや」


 ガリンテル(わう)(のたま)はくに、「()れは()()としても(どう)(やう)なり。ガウラのペリオンと()はば、()(かい)(さい)(かう)の、(ゆう)(さう)なる()()との(めい)(せい)(もっ)て、(ひろ)巷閒(ちまた)(おと)()()こえし()(ゆう)(けん)()(わか)(わう)なれば、()(くに)(がい)(あく)(ただ)(ひと)りで(ちゅう)(ばつ)したるのも(むべ)なるかな。(こそ)こそ(まさ)しく(てん)(めい)なり。()(たび)(いち)()(いち)()(あひ)(えん)()(えん)を、(われ)()(とも)(かみ)へと(かん)(しゃ)せねば()らんぞよ」


 くして、ガウラのペリオンとレタヴィアのガリンテルがたり(くん)(しゅ)は、たがひに(こん)(にち)かいこうこころそこからよろこ(いは)ひて、夫々(それぞれ)やまことかたらひつつも、(やうや)()()しんりんとほけて、アリマのまちへとかはんとす。()ために、(あらかじ)()()きたる、(はい)()れふどもしょまでおもむきたるも、とつじょとして、どもてられ、きずよわてたるいっとう()鹿しかが、かれ(がん)(ぜん)姿すがたあらはす。


 ペリオンとガリンテルのりゃうくんは、()()ひの()()鹿(しか)()て、『()れを(こん)(じつ)(きゃう)(えん)の、(かう)(ぶつ)()さん』とかんがへ、(むち)()げ、(あぶみ)()はせて、ぜんそく(りょく)うま()()らすも、たいおもひもらぬてんかい()る。

 深々(ふかぶか)としたるしげみのおくそこより、いっとうがりて、()()鹿しかおそかるや、するどつめ(きば)もって、(わき)ばらき、鹿(しか)(にく)(ひたぶる)(むさぼ)(くら)ふも、(そく)()(ひと)(にほ)ひと()(はひ)()()りて、(かれ)()(はう)へと(つら)()けて、猛々(たけだけ)しくもざんにんきはまりぎゃうさうにてふた)()にらけ、(だい)(はう)(かう)(もっ)かくす。


 ガリンテル(わう)は、(あら)ぶる()()(はな)ちし(さっ)()()()まれて、(こころ)(くじ)()けるも、()れに(たい)してペリオン(わう)は、()(ぢん)(ひる)まず、()()さるる(こと)()く、(れい)(せい)()(じう)()えて、「おお、()()よ、(ほこ)だかひゃくじうわう(じゃ)よ。(なに)(とぞ)()()(たま)へや。なんじものまへを、()(にく)ひとれものこさぬほどに、(はら)()てる(こと)なかれ」と(のたま)ひて、(あい)()より()りつ。


 してペリオンは、(かぶと)(かぶ)り、おの(こし)(もと)()きし(めい)(けん)(つか)へと()(にぎ)()め、(さや)から(おご)そかに()(はな)ち、後方(うしろ)(ひか)へたる(じゅう)()ユスティーノより()()りし、象徵あかしたるたてまへへとし、(おな)じく、精神(たましひ)たるつるぎてんへとかざして、いきほいさんで、(がん)(ぜん)()()へと驀地(まっしぐら)(かふ。

 ()れをるや(いな)や、ガリンテルわうおもはず、「おお、(かみ)よ!(なん)たる(こと)ぞ!(はや)まり()さるな、ペリオン殿(どの)()(たま)へ!」とだいおんじゃうぜっきゃうげたるも、(いさ)()つペリオン(わう)は、(すで)()(みみ)()たずして、()(やう)現狀(さま)では、()(はや)かれせいすることあたはざりき。


 (くち)には(にく)(へん)(くは)へながらも、(いま)()()ゑたるは、(まなこ)(いか)らし、みずからが(とら)へたる()()鹿(しか)ざん)(がい)()ばなし、ペリオン(わう)へとかひて、(ガバ)()おどらせ、(おそ)()からば、りゃう(いう)つひげきとつす。

 きょうあくなる(よつ)(あし)は、(たちま)ちペリオン(わう)いて、(のど)(もと)へと()き、(がい)さんとする(いきほ)ひで(きば)()くも、ペリオン(わう)は、(あやふ)()(まう)(こう)(たて)にて(ふせ)ぐ。

 (しか)れども、()(はや)()(きふ)(そん)(ばう)刻限(とき)()(ぢか)

 (じゃう)(じん)ならば、(すで)(いのち)(うば)はれ(うしな)ふか、()()ければ、()(まへ)(まで)(せま)(きた)()()()れ、(かく)()せねばならぬ(じゃう)(きゃう)(おちい)れど、(かり)(そめ)にも、(てん)()()(さう)(たい)(ゆう)()たる(えい)()(ほこ)るペリオン(わう)は、(がう)(まつ)おぢことく、おのがうたんふるたして、(これ)(いっ)(きょ)ほふらんとけっし、(のど)(ぶえ)(けい)(ちゅう)せし()(じゅう)(すき)(じょう)じて、(ひだり)(わき)ばらけて、つるぎを「えいや!」と)さば、()()は、ペリオン(わう)から()(はな)れ、(げき)(つう)(あま)り、(しば)しの(あひだ)(しち)(てん)(ばっ)(たう)(もが)(くる)しみが(すゑ)に、()堂々(だうだう)たる(きょ)(たい)は、(つひ)()へと(くづ)()つ。

 ()(とう)()てに、ひゃくじうわう(じゃ)は、(やうや)ますペリオンがあしもとへと、えいきう(たふ)()せり。


 ありさまいちじゅうあたりにせしガリンテルわうは、たいそう(ぎゃう)(てん)し、()(けい)(ねん)()め、ペリオン(わう)かひてのたまはくには、「よもや(これ)(ほど)(もの)とは!いやはや、(なん)たる(くゎい)(きょ)ぞ!さすがかいさいかう(ちまた)(うた)はれし(げう)めいたがはぬ()(じん)なるかな!」


 すさまじきげきとうをはりをむかへ、()(くん)ぜいれふ()あつめ、ガリンテル(わう)みづからのリゲルじゃうへと、(ひん)きゃく)たるペリオン(わう)くゎんげいせんがためさきれが使しゃつかはし、つぎに、()()みの()へと、()(もの)たる()()()鹿しかを、其々(それぞれ)せてはこばしむ。

 くして()(たり)(わう)は、()(たび)()ぐゎいなるたまものて、よろこいさんで、ナムネテスの(みやこ)へとくゎんせり。

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