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魔王で勇者なアーク・マーティン  作者: 早乙女ごんぞう
一章
7/7

私も戦える

 6


「すまない……気分を変えたい。俺様は少し王都を歩いてくる」


 そう言って三人と別れ、一人歩くアーク。昼間よりも少し人の数が減り、落ち着きを取り戻す町。

 アークは下を向いて歩きつつ、クレアと戦った事を後悔していた。クレアの安い挑発に我慢出来ず、歯止めが効かなかったのだ。


「さすがにヤバかったか……」


 小さく呟くアーク。

 もしあの時クレアの事を殺していたら、おそらくアークはリアム、フレンダの事も殺さないといけなかった。


 クレアとの戦いはあくまで力量を測るという名目で始まった。

 だからクレアは、最初の方は全然本気では戦っていなかったのだ。

 あそこまで食らいついていけたのは、クレアが本気でアークを殺しに来なかったから。


 だが、クレアを殺したとなると、その段階でリアムとフレンダはアークを明確に敵だと認識するだろう。本気で殺しにかかって来られると相手が悪い。


 そして仮に二人と戦って、倒せたとしても、殺人を犯した勇者を、人々は認めない。

 結果的に、アークは国から狙われる事となる。

 自分が魔王だとバレる事と同じくらいのリスクを伴うのだ。


「はぁ……俺様は本当に、馬鹿か!」


 自己嫌悪に陥る。こう言った経験は、実は初めてではない。

 アークは昔から頭を使うのが苦手なのだ。力で全ての物を屈服させてきた魔王に、戦略を立てるなどという概念がそもそも存在しない。

 感情のまま、気に食わないものは抹殺してきた。それだけの力があった。


 過去にアークは自分の配下であった部下の一人を気に食わないという理由で殺した事がある。


 だが殺した後に、その部下が戦闘において最強クラスの魔人だった事を思い出して、相当後悔した経験があった。それ程までに感情に流されるがままアークは生きてきた。


「あの三人を殺すのは、やはりこの世界の魔王を倒してからか……次からは俺様も、もう少し考えて行動しないといけないな……」


 そんな反省を何十回と繰り返していると、後ろから誰かに声を掛けられる。


「勇者様……ここにいた」


 振り返ると、そこには魔法使いの女の子、フレンダ・コックスがいた。どうやら追いかけて来たらしい。


「何しに来たんだ?」


「えっと……用事は……ない」


 相変わらずモゴモゴと小さな声で話す。


「じゃあ、宿に帰れ」


「勇者様は……どこに行くの?」


 アークは一言。


「森」


「え……?」


 アークは引き分けとは言え、少なからずクレアを倒せなかった事も気にしている。

 あの時、フレンダがクレアの剣を止めたからアークは今も生きている。だが、もしあのまま戦いが続いていれば、アークは二度目の敗北を味わう事になっていただろう。


 やはり、すぐにでも強くなりたかった。だから、一人でもレベル上げをしようと、森に向かっていたらしい。


「そ、それは……ダメ」


 アークはフレンダを無視して歩き始める。


「一人で行くのは……危ない」


「……」


「勇者様……」


「……」


「どうしても行くなら……私も行く」


「……なに?」


 漸くフレンダの言葉に耳を傾けるアーク。フレンダはあまり動かない表情を少しだけ緩めて笑った。


「私も行けば……サポートも出来る」


「いらん」


「いらんくない!いざとなったら……私も戦える」


「……」


「私が……勇者様を守る」


「俺様を……守る?」


 自信満々にこくりと頷くフレンダ。だが、アークは思わず吹き出してしまった。


「ぷっ……俺様を守るか……よくそのレベルで自信満々に言えるな」


「……え?」


 アークは嫌味ったらしくフレンダに言った。


「確かに、お前の魔力がほんの少し高いのは認める。だが今のレベルでは、正直言って邪魔なだけだ」


「……」


フレンダの表情が曇る。アークは気にせず続けた。


「お前等の力など借りなくても、俺様は強くなってみせる……俺様の事は放っておいてくれ」


 そう言って、アークはまたフレンダから視線を外し歩き出す。フレンダはアークの背中に向かって小さく呟いた。


「……える」


「なに?」


 振り向かずにアークが問いかける。するとフレンダは目に涙を浮かべ、もう一度アークの背中に叫んだ。


「私も……戦える!」


「……は?」


「私も、戦える!見てなさい……これが私の本気!」


 そう言って、フレンダは掌をアークに向けて突き出した。手に光が集中する。この魔法をアークは見た事があった。


「おい、お前……なにを!?」


「ホーリー……」


「やめっ……」


「スパーク!」


 ホーリースパーク。そう口にした途端、フレンダの掌から光の玉が放たれた。反応が遅れ、かわす事ができない。

 咄嗟に手でガードの形をとるアーク。だが、その程度では防げない。フレンダの放つこの魔法の威力を、アークは体で覚えている。アークが元いた世界で、散々見てきた魔法……その光景が鮮明にフラッシュバックする。


(クソォ!)


 光の玉は、アークの体に直撃して弾けた。


「ぐっ……」


「……」


「…………」


「…………」


「……あれ?」


 魔法は確かに直撃した。にも関わらず、全くもってダメージがない。アークはほっと安堵の息をこぼす。


「何をしやがる!いきなり魔法なんてぶっ放しやがって……」


「……」


 掌をアークに向けたまま固まるフレンダ。その目には涙が浮かんでいて、一筋流れ落ちた。


「は?」


「バカ……バカ!」


 なぜか暴言を吐かれ、フレンダは涙を拭いながらアークの前から逃げる様に去っていった。

 何が何だか全く分からない。


「何だったんだ……あいつ」


 アークは息を吐き、気持ちを切り替えると、サナーシャの森へと向かった。


「ふむ、そう言えば、地図を見るのは初めてだな。基本的に俺様はずっと魔王城にいたから……うーむ、ここがサナーシャの森で……ここが、現在地……なら、多分こっちだな」


 正確にはサナーシャの森へ向かってると思いながら、ガルフの森へと向かっていた。


 アークは、自身が致命的なまでの方向音痴であると言う事をまだ知らない。

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