魔王を倒す為に
5
取り敢えず、今日は早めに宿に入り、明日からアークのレベル上げをする事になった。
アークは気分転換に王都を散歩すると言って出て行き、フレンダは心配だとアークの後を追いかけて行った。
アークとクレアの間に深い溝ができてしまった。
「クレア!なんであんな事をしたんだ!」
「なによ、急に……」
クレアの部屋にリアムが突然入ってきた。年頃の女の部屋にノック無しに入るなど、デリカシーのかけらもない。
だがそんな事おかまいなしというように、リアムの怒鳴り声が部屋に響く。
クレアは突然アークに喧嘩を売った。誰が見ても分かる程の安い挑発。クレアはなぜ、アークに喧嘩を売ったのだろうか。
「なんで……」
「私達は……絶対に魔王に勝たないといけない。生半可な覚悟で着いてこられても迷惑なだけ。だから、ガルフの森に行くって言った程度で怖気付く勇者なんて、いらない」
「その事じゃない!」
リアムの声が一段と跳ね上がる。
「俺が聞いてるのは、なんでお前は最後、本気でアークを殺そうとしたんだって事だ!」
「……」
クレアが最後に放った一撃は、確実にアークの命を狙っていた。
長い付き合いのリアムから見ても、クレアの行動は明らかにおかしかった様に思う。
「あいつがいくら弱くても、それはまだレベル1だからだ!それに、役に立たないから殺すってのは、魔王と同じ考え方だぞ!」
「違う!」
クレアは大きく首を振った。そして、視線を落とす。
「先に私を殺そうとしたのはあの勇者の方」
剣と剣を交えれば、ある程度相手の事が分かるもの。
クレアはアークと剣を交えた時の感覚を今でも鮮明に覚えていた。
アークから放たれる剣は、はじめから全て殺す気で放たれていた。仲間に向かって放つ攻撃では無い。
「あいつは……私を殺す気だった。レベルとか魔力は全然私より下な癖に、剣の腕に関しては、私とほぼ互角で……そこに殺意があるか、ないかの差は凄く大きく出る。こっちも殺す気でやらなきゃ、殺されてた……」
リアムの眉間に皺がよる。もし、クレアの言っていることが本当なら……いや、クレアは昔から嘘が得意ではない。こんな事で嘘をつくなど考えられない。
だとすればアークは、仲間を平気で殺す、とんでもない勇者なのかもしれない。
なぜアークはクレアを殺そうとしたのだろう。
単にクレアの挑発にイラついたから?だとすれば相当短気な性格だ。
だが、もし他に理由があるとすれば……そちらの方が厄介だ。
「兎に角、アークが敵なのか味方なのかは、旅を続ければ分かる。今は、仲間としてやって行かないといけないんだ。魔王を……倒す為に」
「……」
「次の勇者召喚の儀式が出来るのはまだまだ先だ……あの勇者に賭けるしかない。分かるな、クレア」
奥歯を噛み、今まで黙っていたクレアが一言、
「……分かってる」
と言葉を捻り出した。その言葉を聞き、ほっと安堵の息をこぼすリアム。
だがその時、部屋の扉が勢いよく開かれ、フレンダが焦った顔で入ってきた。
「勇者が……ガルフの森に!」