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魔王で勇者なアーク・マーティン  作者: 早乙女ごんぞう
一章
4/7

三人の戦士

 3


 改めてアークは王の待つ部屋に来ていた。相変わらず相当な数の兵士が待機している。おそらく、ここでまた謀反を起こそう物なら、容赦なく一斉に襲い掛かってくるのだろう。

 今のアークでは到底この数を相手にすることは出来ない。

 そんな兵士を従える王はと言うと、相変わらず偉そうに、王座に鎮座していた。


「どうやら、手助けしてくださる気になったようですな」


 王はそれでいいと言わんばかりの表情を浮かべる。その顔が癇に障りアークは鼻で笑った。


「はっ、手助けする気は無い」


「なに?」


「俺様はただ、魔王を倒したいだけだ。人間共を助けるつもりも、勇者になる気も一切無い」


「成る程」


 王は(いささ)か渋い表情を見せる。半分呆れている様子だった。だが、何はともあれ、目的は一緒な事に変わりはない。王は気を取り直して話を続ける。


「まずは勇者アーク・マーティン殿には森に入ってレベルを上げて貰う。今のレベルでは、いくら勇者とて到底魔王には勝てまい」


「森?」


 アークに地図が手渡された。地図には赤色のマーカーでマルとバツの印が書かれている。


「地図上のマルが書かれた場所。王都を出てすぐの場所に、サナーシャの森という場所がある。そこは新人冒険者のレベル上げには持って来いの場所だ。そこで暫くはレベルを上げて貰う」


「レベル上げ……か」


 正直とてつもなく面倒くさい。今までは待っていれば敵の方からやって来てくれたのだ。

 それをわざわざ森にまで入って敵を探さないといけない。なんとも面倒くさい。


「このバツ印が付いているのはなんだ?」


「あぁ、そこはガルフの森だ。危険な魔物が住み着いていると言う噂でなぁ。そこへは絶対に立ち寄ってはならん」


「成る程な……」


 地図を見るに真逆の位置関係にある森だ。まず間違える事は無い。


「それでは、まずは王都で防具や武器、薬草などを集めるといい。その為の資金を支給しよう」


 王が合図をすると、奥で待機していた兵士の一人が袋に入った銀貨を持ってきた。おそらく中身は500枚くらいだろうか。


「それと、もう一つ」


「あ?」


 まだ何かあるのかと、アークは面倒くさそうな表情を浮かべる。


「お主一人ではどれだけ強くなっても、魔王には勝てまい。一緒に戦う仲間として、此奴らを連れて行くがいい」


「仲間?」


 怪訝な表情を浮かべるアーク。人間の仲間など必要ないし、そもそも信頼出来ない。人間に背中を預けるなど、考えただけで寒気がする。


「俺様は一人で大丈夫だ。仲間の手など……」


 仲間の手など借りずとも、魔王の一人や二人倒してやる……そう言ってやろうと思った。だが、言葉の途中で扉が開かれ、三人の男女がアークの前にやってくる。


 王を前にして膝を折る三人の冒険者。アークはその三人に見覚えがあった。


「この度は、魔王討伐の為行われた召喚の儀式により、勇者召喚に成功されたと伺い参りました。是非とも、その召喚された勇者様と、旅をご一緒出来ればと思っている次第であります」


「うむ」


 赤い短髪の大柄な男が王に少し緊張した口調でそう言った。王は小さく頷く。


 男の横で同じく頭を低くしていた茶色い髪の女が続いて口を開いた。


「召喚された勇者様と言うのはどちらでしょうか」


「そこにいるのが勇者アーク・マーティンだ。今はまだ未熟だが、色々とこの世界の事を教えてやってくれ」


 女が立ち上がり、アークに近づく。背丈は人間の女性の平均身長くらいだろうか。細身の体格に、茶色い髪は腰のあたりまで伸ばされている。そして、腰の辺りには細身の長剣。見覚えのある特徴ばかりだ。


「貴方が、勇者……」


 キツイ目つきでアークの事を見詰める女騎士。おそらくステータスを見ているのだろう。

 その顔は不服そうに歪んでいた。


「まぁ、レベル1だとこの程度よね……」


「……」


 小さく呟かれた言葉に反応して、体がピクリと跳ねる。だが、アークは怒りの表情を見せる事はなかった。寧ろその逆の、笑顔を作って見せる程だ。


「……」


「勇者様……顔色悪い……どうかした?


 三人のうちの最後の一人、金髪の少女が心配そうにアークに近づき声を掛けてくる。少年のように短い金色の短髪。白を基本にしたマントと、とんがり帽を被っており、見るからに魔法使いと言った特徴の少女だ。


「大丈夫だ……問題ない」


「そう?」


「へ〜フレンダが声掛けるなんて珍しいじゃねえか!」


 男が豪快に笑う。

 そのデカイ声。首に掛けられた卵型のペンダント。そして男が口にした少女の“フレンダ”という名前……間違いない。


「それでは改めて、この世界の平和をお主らに託す!」


 王がそう言うと、周りの兵士が剣を掲げた。


「健闘を祈る!」


「おう!任せて下さい、王様!」


「リアム、頭を低くしなさい」


「クレアも……」


「あっ……」


 何やら三人でコソコソとやっているが、そんな事はどうでもいい。アークは一人歓喜に震えていた。


(残念だったな……王の期待には答えられそうにもない。何しろ、俺様の目的は魔王を倒さなくても果たせる状況下にある)


 アークは下を向き表情がバレないように笑うと、小さく呟いた。


「見つけた……俺を殺した……そして、俺が殺す“三人の戦士”」

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