第十四回 目黒のさんま
秋が終わる前になんとかこれだけは紹介せねば! と息巻いて、慌てて筆をとっております。安井優です。
慌てて書いておりますが、安井優のことばの宝箱、略して「ことばこ」は、今回もいつも通りのんびりとした雰囲気でお届けします。
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第十四回は「目黒のさんま」ということばを取り上げてみましたが、ご存じの方、いらっしゃいますでしょうか?
「目黒って、東京の目黒?」と思われた方、大正解です!
東京都目黒区周辺にお住いの方には馴染み深い……どころか、むしろ、こんなにも目黒区民狙い撃ちなことばがあるんだ! くらいな勢いのことばですね。(笑)
※ちなみに私は目黒区に住んだこともなく、まったくの無関係です……。
さて、余談はこの辺りにして、本題に戻ります。
「目黒のさんま」はそのことば通り、目黒区のさんま(秋のお魚として代表的な秋刀魚のこと)という意味です。
……と、いうのはさすがに何の説明にもなっていませんでした。申し訳ありません。
どういうことか、といいますと……。
「目黒のさんま」は、落語の噺の一つ。
有名な落語なので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
下賤のものが食べる魚として扱われてきた「さんま」を庶民的(つまり、適当)に調理したものは美味しいけれど、丁寧に調理したらまずかった、というような内容です。
ただ、これだけではどうして目黒なのか? という疑問が残ると思いますので、もう少し詳しくご紹介させていただきます。
鷹狩のために目黒へとお出かけになられたお殿様。
昼食時、どこからか良い匂いが漂ってきて、「あれが食べたい」とお殿様がおっしゃったのが、当時、庶民が食べる魚とされていた「さんま」でした。
お殿様の命令には逆らえませんので、家臣の人たちは仕方なく、適当に調理された「さんま」を食べさせることに。
すると……あらあら、すっかりお殿様は「さんま」に魅入られてしまいます。
お屋敷に戻ってからも、お殿様は「さんまが食べたい」と駄々をこねる始末。
ようやく手に入れた「さんま」を、そのままお出しするわけにはいかないと、あれやこれや手を加え、丁寧に調理をした結果、「おいしくない」とお殿様は一蹴してしまいます。
その時のセリフが「やっぱり、さんまは目黒に限る」というものなのです。
海に面してもいない目黒で捕った「さんま」が美味しいと信じて断言する、というオチが見事な落語ですね。
私も大好きな噺の一つで、秋になってスーパーなどで「さんま」を見かけると、ついこの落語を思い出してしまいます。
ちなみに現在。
この噺がもとになり、目黒区では「目黒のSUNまつり」や「目黒のさんま祭り」なるお祭りが毎年開催されているようです。
「さんま」をたくさん焼いて、無料で配っているんだとか……。
「さんま」も大好きなので、いつか行ってみたいものです!
もうすっかり秋も終わりが近づいてきましたが、皆さま、今年は「さんま」を食べましたか?
今年のシーズンはもう終わってしまいましたが……来年はぜひ、落語と一緒に秋の味覚を楽しんでみてはいかがでしょうか。
その時はぜひ「さんまは目黒に限る」の一言をお忘れなきよう!(笑)
おあとがよろしいようで……?
それでは、また次回。