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「それで、お前は誰だ。わしはクリスティーネしかこの城には招いておらぬぞ」
その声が俺に向けられたのは、突然のことだった。呑気に親子の感動の再会に涙していた俺は、慌てて背筋を伸ばす。
「俺は......」
「お父さん、彼はハルト。私のことを助けてくれたの」
俺の言葉に被せるようにしてそう紹介してくれたのはクリスティーネだった。彼女の言葉に、魔王は「そうか」と言う。
「娘を助けてくれてありがとう。礼を言う」
「いえ、そんな」
魔王からの感謝だなんてそんな、恐れ多い。.....というか、俺いつクリスティーネを助けたっけ?むしろ俺が助けてもらっている気がする。彼女がいないと俺は眼鏡が直るあてもなく一人で途方にくれていただろうし、ここまで来れなかった。
「そうだ、お父さんに頼みがあるの!ハルトのメガネ?を直して欲しいんだ」
「メガネ?」
なんだそれは、と不思議そうな声音で問う魔王に、やっぱりこの世界に眼鏡は存在しないのかと不思議な気持ちに襲われる。
「これです」
俺は大事にポケットの中にしまっていた眼鏡をそっと取り出した。魔王の目に見えるように眼鏡を掲げる。
「それを直して欲しいのか?」
「はい。魔王様なら直せると、クリスティーネが言っていたので」
頼みごとをするときは目を見ながらでないといけない。ふと、昔そう教わったことを思い出して、物体へと向き直る。魔王の目がどこにあるのか、ぼやけて見えないけれど。
というか、魔王ってどんな姿形をしているんだろう。
そう疑問に思うのと、魔王がばさりという音とともに翼を広げるのは同時だった。
「良いだろう。ドラゴンであるわしの姿を見ても臆さず見つめてくるその気概、気に入った。直してやろう」
低く、重い声。
「本当ですか......!ありがとうございます!」
これでやっと眼鏡が直る!視界がクリアになる!俺の異世界ライフはここから始まるんだ!
思わず声を弾ませてしまった俺は、しかし後から遅れて魔王の言葉を理解して固まることになる。
......ドラゴン?
そうかそういえばクリスティーネにだって翼と尻尾があるもんな。魔王だもんな。そうか......いやこわっ!
魔王もグレンのように俺に度胸があると勘違いしているようだが、なんてことはない、ぼやけて見えるためドラゴンだということに気がつかなかっただけなのだ。
まあでも、そういうことは黙っていた方がいいだろう。俺は魔王のおそらくここが目だろうなと思われるところを見つめて、深々とお辞儀をした。




