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「痩せすぎだ。ちゃんと食事を摂らせているのか?」
オルランド様は開口一番このように言った。眉間には先ほどと同様深い皺が刻まれている。明るい場所に引き出された私の姿はよりみっともなく映るに違いない。私は消えたくなるような羞恥に身を縮め深く俯いた。直後「お言葉ですが、」という声が耳に届く。男の声は恐らく執事のものだ。
「アザレア様は元より少食なお方です。その上、心身の衰弱から緩やかに回復している中無理な食事はかえって負担にしかなりえません」
執事の訴えに対し「そうか」という声と頷く気配がある。そこに含まれるのは怒りとも失望ともつかなかった。私は焦りから慌てて顔を上げる。
「見苦しい身を晒してしまい…申し訳ございません。必ずや、近日中に改善いたします。ですからどうか猶予をくださいませ」
私は懇願し頭を下げた。
オルランド様は死人のような女が必死になってすがる様に戸惑ったようで、「どうしたんだアザレア。そんなに慌てることではない」と声をかけてくださる。しかしその言葉に甘えてはいけなかった。役に立たいと見限られるのは十分に使って頂いてからでなければならない。それはロゼリアのためでもあり、私の償いのためでもあるのだから。
「いいえ、いいえオルランド様。どうかお役に立たせてください。いつまでにご用意できればよろしいでしょうか?」
「…ふた月後、ディエント公爵主宰で行われるパーティーだが…。無理をするのは止めろ。倒れられでもしては困る」
「かしこまりました。経過は都度報告させて頂きますのでご安心くださいませ」
再び上げた目をオルランド様へ向ける。込み上げる恐怖心は上手く隠せたらしく、オルランド様の顔には困惑のみが表れていた。 「アザレア、君は…」と呟いたきり口をつぐみ、オルランド様は黙考する様子を見せる。しかし頑なな態度を取る私に折れたのか、やがて諦めたように頷いた。
「わかった。ただしくれぐれも無理はするな。もしもの時も代役はいるから責任を感じる必要もない。わかったね」
私は「はい」と頷く。オルランド様の言う方はマリア様であり、代役とは私の方でしょうとはわかっていても口にしなかった。
ディエント公爵といえば派手な社交家として有名だ。私の記憶に残っているほどの影響力は今も健在なのだろう。公主宰のパーティーで私が誹謗の矢面に立てばロゼリアの、ひいてはオルランド様とその最愛を守ることへ繋がる。
私は今一度決意を固め立ち上がった。
「それでは早速準備にかかりますわ。時間を無駄には出来ませんもの。お先に下がることをお許しください」
弱った足を叱咤し礼の姿勢をとる。退室を許され、私は自室へと戻った。ベッドへ倒れこんだ途端全身が痛みに震えだす。私はうずくまりながらそれに耐えた。声をあげては外に控えるメイドに聞かれる可能性がある。そうなれば早速オルランド様への報告がされてしまうだろう。これからは辛いというそぶりを見せず、それでいて早急に回復しなくてはならない。私は呻きを噛み殺しながら計画を立てていった。