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私の身柄は本邸から元居た別邸へと移された。離縁ののち放逐されるものと確信していたが、すぐ悪女の再来を野放しにしないためだと理解する。王国へ捧げるオルランド様の忠誠心は稀なるものだ。呪わしい女を娶っただけでなく、楔としての子まで為したのだから。憐れな子であるロゼリアは私と共に別邸へ送られ生活をすることになる。温情による使用人は不足なく、彼女は健やかに育っていると聞かされた。父親であるオルランド様の訪れも度々あるらしい。情報はすべて使用人の報告から得た。ロゼリアと私は滅多なことがない限り顔を合わせない。狂女の母となど口をきかぬ方が良いという判断なのだろう。
オルランド様は別邸を訪れる度に私の部屋へも訪ねて下さったようだった。それをことごとく拒んだのは私自身だ。使用人へ私は酷い錯乱状態だと伝えるよう頼んだのだ。旦那様のお姿を見ればまた何をするかわからない。本邸の奥方様の安全のためにもと。そう言えばオルランド様の訪れは容易く絶えた。
当然だろう。呪われた狂女に愛する存在を二度も脅かされてはかなわない。私は二度とない再会に心から安堵した。これであの美しい瞳にこの身を映さないで済む。おぞましい目に嘘偽りない感情を抱くあの方を見ずに済む。私は安らぎを永遠のものにするため、一刻も早くこの身が朽ちることを望みながら過ごした。しかし死にかけのような体は存外しぶとく生き絶えることがない。幾度か危ういことがあったが、使用人の働きが良いためにむざむざと生き延びてしまった。私は失っていた意識が戻るたび病床で絶望に暮れた。そして次こそは死の淵を越えさせて欲しいと願うのだ。
だからこそ、今の状況には全くもって現実感が持てない。
私の向かい側にはオルランド様が座り、まじまじとこちらを見ている。場所は別邸の執務室であり、周囲には別邸を管理する執事と私付きのメイドが控えていた。