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ゆっくり更新ですみません。
回想回です。
ベルドウィン家へ嫁いだのは十五年前、私が十六の頃だった。
ちょうど今のロゼリアと同じ年頃。容姿もよく似ていたと思う。腰まで届く銀の髪。女性にしては高い背、意志が強そうとも華やかとも評される顔立ち。ただひとつ目の色だけが違った。ロゼリアの瞳はオルランド様譲りのアイスブルーだ。銀糸の睫毛に囲われるそれは冬の青空のように美しい。対する私の目は緑に赤の虹彩が散りばめられたもの。社交界では物珍しい鉱石のようだと言われたが、裏側では嫉妬深い魔女の目だと言われていたのを知っている。史実として残る稀代の悪女、初代から二人目の王妃が同じ目の色をしていたらしい。その王妃は恐ろしく嫉妬深く、王の寵愛を受けた女を一人残らず処刑したと言い伝えられている。故に緑の目は嫉妬の象徴。赤が混じっていようものなら化け物の扱いだ。生家が伯爵の位である私はまだよかったものの、これが平民であったら迫害までされていただろう。
だから伯爵家同士顔を合わせた際、私は酷く陰気な様子でうつ向いていた。家族でさえ、美しいと褒めそやしながら腫れ物のような扱いだった奇異の目。それを年上の美しい男性に見られるのは恐ろしかった。
しかしオルランド様はわざわざ私のために膝を折り、下から目を合わせて言った。
「深い森に花が咲いているようだね。綺麗な瞳だ」
社交辞令でもお世辞でも良かった。
一見冷たく見える顔立ちが優しく微笑みかけてくださった光景を私は生涯忘れない。寂しさを抱える娘は一瞬で恋に落ちた。
オルランド様との生活は幸せだった。
国の政治にも携わるオルランド様は多忙を極める。私も伯爵家の管理や社交で毎日が目まぐるしく、普通の夫婦のような時間を過ごすことはままならなかった。それでも愛する人の妻として努めることは嬉しかったのだ。周囲より目立つ容姿を存分に役立て、オルランド様のお力になりたかった。
おかしくなったのはどこからだったろうか。
ああそうだ、私の体調に異変が現れたのが始まりだった。
ロゼリアを出産後、私は産後の日だちが悪く床に伏せることが多くなった。オルランド様は養生するようにと労ってくださったが、役に立ちたい気持ちは体の不調により変質し、役に「立たなければ」という歪んだものに姿を変えつつあった。私はメイドや執事に口止めをし、オルランド様の留守中は今まで通り家裁を執り行った。それがいけなかったのだ。無理が祟った結果私は倒れ、一年もの間病床に伏すようになった。
二度と子を孕めないと医師から言われた際の感情は、何故だか思い出すことが出来ない。しかしながら、それよりも衝撃だったのは回復した後の出来事だった。
「第二夫人を迎え入れようと思う」
オルランド様は言った。
郊外の別邸で療養をし本邸へ戻って来た私はやせ衰えた顔を誤魔化すため笑顔と化粧で取り繕っていたが、努力はその瞬間無駄なものになる。オルランド様は私の変化に気がつかないのか、伏し目がちに言葉を続けた。
「わかってくれアザレア。家を存続させるためには跡継ぎが必要なんだ。それは男児でなくてはならない」
私はそれになんと答えたのだろうか。今となってはそれもわからないが、完璧な淑女たる態度で返答したのだろう。
翌年、伯爵家には第二夫人が迎え入れられた。