第九百六十四話「次なる企み」
向日葵と花梨は頬を上気させてポーッとしたまま帰り道を歩いていた。
「何だか凄いことをしてしまった気がします」
「そうですね……。凄い経験でした……」
事前に今日の放課後は勉強会の代わりに『インナー品評会』なるものをするという話は聞いていた。具体的に何をどうするのかはわからないまでも、梅雨や夏の間を涼しく過ごせるインナーを穿いてきて皆で教え合う、という趣旨は聞いていたが、まさかあんな風にお互いに見せ合うことになるとは思っていなかった。
「私達……、九条様にあのような……、お目汚しを……、んっ!」
スカートを捲り上げて所謂『見せパン』とはいえじっくり皆に見られてしまった。よくよく考えてみれば普通の下着姿を着替えの時に同級生達に見られているはずなのだが、それとは比べ物にならないような羞恥を覚える。しかも憧れの九条様にあのようなものをお見せしてしまったと思えば思うほどに恥ずかしくなり、下腹部がキュンキュンしてしまう。
「それに九条様の……、もじっくり見てしまいましたね……」
「そっ、そうですね……」
自分達の『見せパン』を見られたというのも恥ずかしく、そして興奮してしまうのだがそれだけで終わりではなかった。最後は九条様のスカートの中も見てしまったのだ。
これまた冷静に考えれば着替えの時に普通の下着姿を見たり、何なら水着に着替えたり入浴の時などは全裸かそれに近い姿すら見ているはずだとわかっている。わかっているが何故か今日の九条様のスカートを無理やり捲り、その下に隠されたインナーを見た時の背徳感と興奮は着替えの時の下着姿とは比べ物にならない。
九条様は夏以外のほとんどの季節はパンスト、あるいはタイツを着用されている。実際にそれがパンストであるのかタイツであるのかはわからない。両者の違いは糸の太さの違いであり、糸が太くて厚手のものがタイツ。糸が細くて薄手のものがストッキングとなる。
九条様の場合は素肌が見えないほど厚手のものを着用されていることが多いが、さすがに春の終わりや秋の始まりなど暑い季節には薄手のものになっていると思う。そうなると常にタイツを穿いているとかパンストを穿いていると言うことは出来ない。恐らく気温などによってタイツとパンストを使い分けられていると思われる。
そんな九条様が今日は膝から下は生足をお見せくださっていた。今日もインナー品評会までは足を覆う何かを穿かれていたはずだが、インナー品評会の時にはそれを脱いだのか、どこかで穿き替えてこられたのか、膝から下は生足になっていた。
そしてグループメンバー達に押さえられてスカートを捲られた時、その下には鍛えられた美しいお御足に張り付いたショートスパッツが見えた。恥ずかしがる九条様……。あられもなく捲られるスカート。その下にある桃源郷。それを見てグループメンバーは全員おかしくなっていたのだと思う。
冷静に考えれば九条様が嫌がることをされるはずのないメンバー達が、あれほど恥ずかしがってお顔を真っ赤にされている九条様に遠慮もせずに、捲られたスカートに顔を突っ込みそうなほどの勢いでジロジロと観察されていたのだ。そしてそれは他のメンバー達だけではなく自分達まで……。
「ああぁぁ~~~っ!私はどうしてあんなことをしてしまったんでしょう!」
「そうですね……。でもとても美しかったです……」
向日葵の言葉に花梨も頷きつつもあの光景を思い出してうっとりした表情を浮かべていた。
「引き締まった太腿、スパッツによって強調された鼠径部、可愛らしいおへそ、そして……、筋っ!」
「うんうん。あれはもう芸術の域でしたね」
あまりに完璧すぎる黄金比の体を思い出して二人はまた夢見心地になっていた。まさに美の極致。ただのエロスだけではなくそこに美しさまである。それでいて上を見てみれば恥らったそのお姿にいけない感情が湧いてきてしまう。
「あんなことをしてしまって……、あんなに夢中でじっくり見てしまうなんて……、これから九条様に顔向け出来ません……」
「でも藤原さん……、またアレがあると言われたら……、参加するんですよね?」
「はい!絶対参加します!」
二人は矛盾した思いを抱えながらも、『次もあったら絶対参加したい』という思いだけはどうしても譲れないと思いながら帰り道を歩いていたのだった。
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いつもの椅子に座りながら紫苑はブツブツと文句を言っていた。
「あ~!も~!全然咲耶様に見ていただけなかったじゃない!」
「「隊長……」」
影の親衛隊の隊長席に座りながら紫苑は不満をずっと口にしていた。インナー品評会で咲耶様に下着姿をじっくり見ていただけると思ったのに、他のメンバー達に邪魔されて結局ほとんど見ていただけなかったのだ。
「ですが咲耶お嬢様のインナーはじっくり見られたのですよね?」
「そりゃ見たわよ!最高だったわよ!でも……、何ていうかもっとこう……、恥ずかしがっている咲耶様に強引に私の下着姿を見せつけたかったの!」
「「隊長……」」
海桐花と蕗には紫苑の性癖は理解出来ない。そんなことをして何が楽しいのか。むしろ嫌がっているのにそんなことをすれば咲耶お嬢様に嫌われてしまうのではないかと思ってとてもそんなことは出来ない。しかし紫苑はそれがしたいという。
「やっぱり他のグループメンバーは邪魔よ!あの子達がいない場所で私達だけでじっくり咲耶様を堪能したいわよね?」
「そう……、ですね……」
「それはまぁ……」
紫苑の言っていることはわかる。他の邪魔が入らない状況で自分達、影の親衛隊だけで咲耶お嬢様を接待して、接待して、接待し尽くしたい。だがそれは難しい。前回絶好の好機だと思ったのに自分達は返り討ちにされてしまった。例え邪魔者である周囲のグループメンバーをどうにかしても、ラスボスである咲耶お嬢様をどうこう出来ないことがはっきりわかってしまった。
「折角海桐花達や酢橘達が高等科に上がってきたのに……、このままじゃ……」
「「…………」」
海桐花と蕗も自分達の不甲斐なさに遣る瀬無い。隊長のためにも、影の親衛隊のためにも、そして咲耶お嬢様のためにも、もっともっと尽くしたいという気持ちが抑えられない。
「隊長!やりましょう!」
「次の作戦を考えましょう!」
「海桐花……、蕗……」
この状況をどうにかしようと海桐花と蕗は隊長に発破をかけた。それを聞いて紫苑も不貞腐れた顔から徐々に元気を取り戻していった。
「そうね!やりましょう!諦めるのはまだ早いわ!」
「「はいっ!それでこそ隊長です!」」
復活した紫苑に海桐花と蕗も笑顔で頷いた。
「それじゃ次の作戦を考えましょうか!」
「「はいっ!」」
復活した紫苑の大まかな希望を聞いて、海桐花と蕗は次なる作戦を必死に考え始めたのだった。
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「ねぇアプリコット」
「何すか?長官」
「咲耶ちゃん成分が足りないわ」
「そうっすね!」
茅は大学の休憩所で椅子に座りながら隣に座っている杏に声をかけた。ここの所同じ言葉の繰り返しになっている。
「パーティー以来あまり咲耶ちゃんに会えていないと思うのよ」
「その通りっす」
「そろそろ咲耶ちゃんに会いたいわ。咲耶ちゃんに会って、抱き締めて、撫で回して、嗅いで、吸って、嘗め回して、咲耶ちゃんの全てを私のものにしたいわ」
「長官!それはずるいっすよ!私も交ぜて欲しいっす!」
茅の独占のような言葉に杏はちゃんと抗議した。二人は長官とエージェントという関係ではあるが、だからといって手柄を全て長官に奪われるだけの関係ではない。昔の杏なら多少遠慮していた部分もあったかもしれないが、今となってはそんな遠慮をしていては自分だけ仲間外れにされてしまう。
「ええ。もちろんわかっているわ。アプリコットの働きのお陰だものね。もちろん三人で楽しむわよ」
「それを聞いて一安心っす!」
まだ仕留めてもいない獲物の取り分で話し合っていても取らぬ狸の皮算用ではあるが、今の茅と杏にはこんな話をするくらいしか出来ることはない。
「大学と高等科って近いのに遠いのね……」
「そうっすね……」
大学と高等科の敷地はすぐ隣であり簡単に行き来することが出来る。しかしただ高等科に行くだけでは意味がない。両者は授業時間や生活時間が違いすぎるために中々会える機会もなかった。このままではまずいと思いながらもどうすれば良いのか思いつかない。
「ねぇアプリコット」
「何すか?長官」
「どうすれば咲耶ちゃんと楽しいことが出来るかしら?」
「う~ん……。中々難しいっすねぇ……」
咲耶が今寝る間も惜しんでコンサートに向けて猛練習中だということは知っている。バンドメンバーには話が伝わっているし招待客として特別席に呼ばれている。
ただ遊びたいと九条邸に押しかければ心優しい咲耶は受け入れてくれるだろう。出来る限り他の予定をキャンセルして自分達に合わせて遊んでくれるはずだ。しかし大変な思いをして猛練習中の咲耶の邪魔をして遊びに行くなど言語道断だ。
昔の茅ならばコンサートなど知ったことかと遊びに行っていたかもしれない。しかし杏がうまくコントロールしている茅はそんなことをしては咲耶に迷惑をかけてしまうとか、最悪の場合は嫌われてしまうかもしれないと教えられて自重している。
「何か作戦を考えてちょうだい」
「はいっす!」
普通に考えれば指揮官である長官が作戦を考えて認可し、それを担当エージェントが行うものだろう。しかしこの長官とエージェントの関係は違う。エージェントが作戦を考え、長官に報告し、認可されればそれをエージェント自身で実行する。ほとんどエージェント任せの長官なのだ。
「どうにか咲耶たんと遊べる方法を考えるっす!」
「ええ。任せたわよ、エージェントアプリコット!」
こうして杏はどうにか咲耶と遊べる隙はないかと作戦を考え始めたのだった。
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中等科五北会サロンでは最奥の『女帝席』に座った竜胆とその前に座っている睡蓮が話をしていた。
「咲耶お姉様のコンサート……、私もお手伝いしたかったわ」
「むぅ~!バンドメンバーを蔑ろにするなんて酷いですぅ~!」
夏休みの終わり間近に開かれる咲耶お姉様のソロコンサート……。バックバンドとして同級生のバンドメンバーは手伝いに入るというのにそれ以外のメンバーは今回はお休みということになってしまった。
もともと咲耶お姉様のソロコンサートであり、どうしても足りない部分や複数の楽器や奏者が必要なために協力するメンバーが必要なことはわかる。そしてバンドメンバー全員が協力しては結局それはバンドのコンサートになってしまうというのもわかる。だがどうして自分達は駄目だと除外されてしまったのか。
「はぁ……。やっぱり私達じゃ演奏も覚束ないからかな……」
「そんなことないですぅ~!」
睡蓮はそう言っているが竜胆も睡蓮も自覚していた。下級生グループはバンドメンバーと言っても同級生メンバーや上級生メンバーに比べて演奏がお粗末だ。単純に経験年数の違いと言えばそうかもしれないが、そもそも楽器を本格的に習い始めた時期自体が遅すぎた。
同級生グループなどは何やかんや言いながらも家の方針によって幼少の頃から楽器などに親しんでいたのだ。しかし竜胆達や秋桐達は咲耶お姉様の後を追いかけて遊んでいただけで習い事などはあまり熱心ではなかった。
竜胆や睡蓮は堂上家、それも五北会メンバーに選ばれるような家柄のため幼少の頃からそれなりに色々と習っていた。作法はもちろん楽器や家業、貴族の必要なスキルは習っていた。だがそれは十分ではなく、むしろ自分からそういうものを放り出して咲耶お姉様を追いかける日々を送っていた。
そうなれば当然演奏の実力もつかず、途中からバンドに加えていただけたとはいえ下級生は全体的にレベルが低いのも当然の帰結だった。自分達の努力が足りなかった結果が今の状況だということはわかっている。わかっているが納得は出来ない。
「どうにかして私達も咲耶お姉様の手助けが出来ないかしら?」
「えっとぉ~……、睡蓮にはわかりません~……」
一瞬考えている表情を浮かべた睡蓮だったが早々に諦めた。そんなことで答えが思い浮かぶのならとっくに考えて行動している。それがわからないからここで燻っているのだ。
「とにかく秋桐達、他のバンドメンバーにも協力を仰ぎましょう」
「そうですねぇ~」
睡蓮は気の抜けたような返事をしているが本人は至って真面目だった。竜胆と睡蓮だけで話し合っていても解決しない。それならば少しでも他の知恵も借りようと秋桐達、下級生のバンドメンバーにも協力を仰ごうと竜胆と睡蓮は立ち上がったのだった。




