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第八百七十四話「一年三学期始まる」


「あああぁぁぁ~~~っ!」


 俺は色々と思い出すたびにベッドの上を転がり回ってぬいぐるみをボスボスと叩いた。何度思い出しても恥ずかしい。


「咲耶様……、あまりそのようにされてはお裾が……」


「うぅ~~~っ!」


 椛に注意されて少しだけ耐える。でもまた羞恥に耐え切れずにゴロゴロしたり、ボスボスしたり、どうにかこの羞恥を発散しようと転がり回った。


「あんな衣装の数々を着させられるなんて!あんな格好で接待させられるなんて!もう!もう!思い出すだけで顔から火が出てしまいます!」


「何も変な衣装はなかったではありませんか。どれも普通に売っている物ばかりでしたよ」


「それはそうかもしれませんが……」


 椛は呆れながらヤレヤレと首を振っていた。確かに椛の言う通りご褒美の日に皆に着替えさせられた衣装は普通にどこにでも売っているものだ。大人のお店とかに売っているような変なアイテムやグッズというわけでもなく、子供達も利用する普通の量販店で売っている。


 今時はちょっとしたコスプレというか、クリスマスやハロウィンの衣装とかグッズなんて普通の店にも大量に置いている。子供向けの安価なコスプレグッズとでも言えば良いんだろうか?その手の物なんて普通に売っているわけで、先日俺が着替えさせられた衣装もそれらに近いようなものだった。


 あとは鬼灯に着させられたようなレーシングブルマとか、薊ちゃんに着させられたハイカットレオタードは際どい衣装ではあると思うけど、普通に運動やスポーツをしている人なら着用しているものだった。変態的な物や大人のおもちゃ的な物ではない。


 確かにそう言われたらそうなんだけど、だからといって俺がそれを着用しても恥ずかしくないかと言えばそれとこれとは別問題だ。


 極端に言えばビキニの水着なんて水着コーナーに行けばどこでも売っている。着ている女の子もたくさんいる。じゃあ自分が着ても恥ずかしくないか?と言えばそれは別問題だ。他の人が大勢着ているとか、世間的に普通だと認知されていることと、自分がそれを着ることが恥ずかしいかどうかはイコールではない。


「そもそもそう言うのなら椛はあの時のような衣装を着て人前に出ても恥ずかしくないと言うのですか?」


「もちろんです。何なら咲耶様と一緒に着替えましょうか?」


「…………へ?」


 人に言うのなら自分が着てみろと椛に言ってみたら……、椛は何か黒い笑みを浮かべていた。もしかして俺は何か言ってはいけない言葉を言ってしまったんじゃないだろうか?


「それでは参りましょうか」


「ちょっ!?まっ、待ってください!」


「いいえ待ちません。ご自身でおっしゃられた言葉には責任を持ってください」


「まっ、待ってぇ~~~!」


 椛の細い体のどこにこんな力があるのかと思うほど強い力で俺は引き摺られていったのだった。




  ~~~~~~~




「咲耶様、よくお似合いですよ」


「こっ……、これはぁ~~~!?」


 水色のシャツに紺色のミニスカート!帽子もセットのちょっとだけ警察官のように見えるこの衣装は……。


「ミニスカ婦警さんではありませんか!?」


 俺は椛に無理やり着替えに連れてこられて一緒に着替えた。だから二人ともお揃いの衣装を着ている。この衣装は……、セクシーなお姉さんがなんちゃってな婦警さんのコスプレをしている『ミニスカ婦警さん』だ!


 俺が今まで着たことがあるような膝上丈のミニスカートじゃない。太腿まで見えるこれまででもっとも丈の短いミニスカートだ。椛の眩しい太腿が丸出しになっている!


「もっ、椛の太腿が……、胸元が……」


 このコスプレ用のミニスカ婦警さんは太腿も丸出し、胸元も大きく開いていて男性が『そういう目』で見ることだけを考慮して作られている。そんな大胆衣装を着た椛が目の前に……。こんなの辛抱堪らん!


「咲耶様のちち!しり!ふとももーっ!」


「ぁ……」


 椛の叫び声で俺は自分の思考の渦から戻ってきた。俺は椛のセクシーな姿にばかり気を取られていた。でもよくよく考えてみれば俺も椛と同じ格好をしているんだ……。こんな丈の短いスカートを穿いて、胸元がばっさり開いたシャツを着て……。


「あっ……。あぁ……。あぁあぁぁ~~~っ!」


「ハァッ!ハァッ!羞恥に悶える咲耶様も堪りません!」


 自分がどんな格好をしているのか思い出した俺はもう何が何やらわけがわからなくなって、気が付いたら自室のベッドに潜り込んでいたのだった。




  ~~~~~~~




 先日の椛とのコスプレごっこは途中でどうなったのか覚えていない。次に俺が気が付いた時には寝間着に着替えてベッドの中でくるまっていた。その途中で何があったのかさっぱり覚えていない。


「咲耶様、お召し替えの時間です」


「椛……」


 今日から三学期が始まる。いつもと変らない様子で朝の準備をしにきてくれた椛を見て、先日のことは夢だったのかとすら思える。もしかしたら俺の中の願望が椛の『ミニスカ婦警さん』姿を見たいと思って夢か幻でも見たのかもしれない。


「今日から三学期ですね」


「新学期が始まっても咲耶様の生活リズムは変りませんが……」


 声をかけても椛の様子はまったく変らない。やっぱりあれは夢だったのかもしれない。そうとわかれば早く着替えて百地流の朝練に向かおう。




  ~~~~~~~




 百地流の朝練を終えてから久しぶりに学園へと登校してきた。他の生徒達も久しぶりに友達と会えて少し浮かれているようだ。


 前世だったら始業式初日から眠そうでだるそうな生徒もたくさん居たような気がするけど、藤花学園ではほとんどの生徒達はビシッと背筋を伸ばしていつも通りに振る舞っている。長期休暇中に夜遊びや夜起きていることが当たり前になって、休み明けに生活リズムが戻らず眠たそうにしている、なんてことはない。


「御機嫌よう」


「「「きゃーーーっ!九条様~~~っ!」」」


 毎朝毎朝きっちり行列に並んでいる子達と軽く挨拶をしながら教室へと向かう。一年三組の教室に入ってみると既にメンバーの皆は来ていた。


「御機嫌よう皆さん」


「おはようございます咲耶様!」


「御機嫌よう咲耶ちゃん」


 休み明けは皆と話したい話題がたくさんあるんだろう。皆早くから来て楽しそうにおしゃべりしていたようだ。俺も自分の席に向かって荷物を片付けながら皆の話に耳を傾ける。


「やっぱりハイカットレオタードが至高だったでしょ?」


「そんなことありません!ミニスカ振袖が究極です!」


「――!」


 荷物を片付けていた俺の耳に聞こえてきたのは恐ろしい会話だった。これは……、これはあの『ご褒美の日』の話じゃないか!?あんな……、あんな衣装を着せられた……。


「ああぁぁ~~~っ!」


「咲耶ちゃん!?」


「咲耶様!?どうされましたか?咲耶様!?」


 顔を覆って奇声を上げた俺に皆が駆け寄ってきてくれた。でもあの日のことを思い出すと俺の体はガクガクと震えだしてしまう。男なのに……、男なのにあんなハイカットレオタードを着たんだ……。女子用レーシングブルマを穿いて、ミニスカート振袖を着て……。


「ふぎゃ~~~っ!」


「咲耶様っ!?しっかりなさってください!」


「「「咲耶ちゃん!」」」


 この後俺は『ご褒美の日』のことを思い出すたびに顔を覆ってうずくまってしまって、まともに皆と話も出来ない状態だった。




  ~~~~~~~




 何とか無事に始業式も終えて三学期が始まった。色々とあったけどそれでも三学期が始まってよかったと思う。三学期はこれといって行事もないし、今年は例年に比べて早い鷹司家のパーティーがすぐに開催されるということくらいだろうか。


 主人公・藤原向日葵とは相変わらず会えずじまいだけど五組の問題もある程度は片付いたと思う。まだ一部の先鋭化した過激派は残ってるみたいだけど、一度処分を受けている生徒も多いので今の所は大人しくしている。このまま卒業までずっと大人しいとは思えないけど、出来ればこのままずっと大人しくしていて欲しい。


「やっほー!咲耶っち!」


「……ん。咲にゃん」


「御機嫌よう、鬼灯さん、鈴蘭さん」


 お昼休みにいつものメンバーで集まる。ひまりちゃんとりんちゃんは相変わらず俺から離れた席に座っているけど、一時期のような余所余所しさはなくむしろとても上機嫌な顔をしている。やっぱりあだ名や愛称で呼んでいるというのはそれだけでも大きな影響があるようだ。


 二人が離れた席に座っているのも別に俺を避けたいからではなく、自分達の家のことや他のメンバーへの遠慮で遠い席に座っているに過ぎない。決して俺が嫌がられているから離れられているわけじゃない。


「咲耶っちレーシングブルマ似合ってたし、足も速いし、一緒に本格的に陸上をしようよ!」


「ひぅっ!」


 鬼灯に『ご褒美の日』のことを言われてビクンとしてしまった。でも朝ほど顔を覆って奇声を上げたりはしなくなってきた。もしかしたら慣れてきたのかもしれない。こんなことに慣れたくはないけどいつまでも気にしてばかりも居られない。


「咲耶っち?」


「あっ!何でもありませんよ!それよりも……、え~……、私は陸上にばかり注力しているわけにもまいりませんので……、ごめんなさい」


 陸上ばかりしている場合じゃないというのも本当だし、万が一にも俺が本気で陸上部で活動したら陸上関係者の目に留まってしまう可能性が高い。別に俺が世界に通用するほどの才能を持っているとは思わないけど、同世代の女子の中ではそこそこだと思う。


 スポーツに力を入れている大学とか、実業団とか、そういう所からのスカウトがある可能性もある。自分が凄いなんて思い上がっていないけど、地方大会でそこそこの成績だったとしてもそういうスカウトくらいはあるだろうしね。


 俺は九条咲耶お嬢様なのに下手にそういう所で目立つと何が起こるかわからない。あと百地流を辞めて陸上一筋に転向するなんて選択肢もないわけで、折角のお誘いだけど鬼灯と一緒に陸上に情熱を燃やすというわけにもいかない。


「まぁそうだろうと思ったけどね」


 鬼灯はケラケラと笑ってそう言ってくれた。でも本気で誘ってくれていたのは間違いないと思う。


「本当にごめんなさい……。ところでそう言えば……」


「ん?」


 鬼灯と話していて少し疑問に思ったことがある。折角なのでそれを直接聞いてみようと思ったのが悪かったのかもしれない。


「あのレーシングブルマはどのように用意されたのでしょうか?他の皆さんが用意された衣装も……。それに使用済みの物はどこへ?」


「ああ!あれは皆各自が自分で用意する約束だったんだよ。だから咲耶っちに穿いてもらったレーシングブルマは私の私物!っていうか今も穿いてるよ!ほらこれ!」


「…………は?」


 鬼灯は食堂だというのにガバッ!とスカートを捲り上げた。その下に穿いているのは見覚えのあるレーシングブルマだった。でも今はそれよりもスカートを下ろさせる方が先だ。


「ちょっ!?鬼灯さん!男子の目もあるのですよ!早く隠してください!」


「あっはっはっ!誰も私みたいな男女のスカートの中なんて見たくないよ。それに下はご覧の通りレーシングブルマだし大丈夫!」


「まったく大丈夫ではありません!周囲を見てください!鼻の下を伸ばしている男子生徒がたくさんいるでしょう!鬼灯さんは自分の魅力に無頓着すぎます!」


 とにかく無理やりにでも鬼灯のスカートを下ろす。確かに鬼灯は女性好きを公言しているし、サバサバしているけど、それでも男子達からすれば年頃の可愛い女の子だ。そんな女の子がスカートを捲り上げていたら誰でも見るに決まっている!


「……って、今何とおっしゃられましたか?」


「え?私みたいな男女のスカートの中なんて見たくない?」


「いえ……、それではなく……、今穿いている物があの時のものだと?」


 俺の聞き間違いであって欲しい。まさか……、俺があの時着せられた物が鬼灯が日頃着用しているもので、しかも今穿いている物があの時のものだなんて……、そんなの……。


「ああ……。そうだよ?ほら!これあの時のやつ!もちろん洗ってないよ!咲耶っちを感じたいと思って洗わずにそのまま穿いてみたんだ!」


「ふっ……」


「「「ふ?」」」


「ふぎゃあぁぁぁぁ~~~~~っ!」


「「「うわっ!?」」」


 俺は俯いてブルブルしていた。それを見て皆が不思議そうな表情を浮かべる。でも俺はそれどころじゃない……。まさか……、俺は鬼灯が日頃使っていた物を穿いてしまっただなんて……。しかも今もまた鬼灯がそれを穿いているだなんて……。


 ハッ!?まさかこれまで俺が着替えさせられてきたコスプレ衣装も全部皆の私物だとか、持って帰られているとかそんなことないよな?今更ながらだけど俺が着替えさせられた衣装達はどこへ消えていたんだ!?



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― 新着の感想 ―
[一言] 椛がミニスカポリス姿を餌に、咲耶様のミニスカポリスを。。。 茜ちゃんの策士ぷりに思うところがあったのだろう そして咲耶様が何かに気づき始めた。 みんなー、早く話を逸らして誤魔化してー
[気になる点] 〉ちち、しり、ふとももー! 再アニメ化はありますかね?
[一言] 咲耶の使用済み(意味深)。 鬼灯もなかなかレベルが高かったww
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