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第八百二十一話「お立ち台練習」


 のっけから波乱だらけだった高等科の二学期だけどそれも少し落ち着いてきた。さすがに何日も経てばデイジーとガーベラが留学生としてやってきたことにも多少は慣れる。一部のミーハーな子達は留学生が珍しいから未だに二人を見てはキャーキャー言ったり何か噂話をしているようだけど、大半の子達は落ち着いてきている。


 夏休みの近衛家のパーティーのこととか、留学生のこととか、欅とデイジーの謎の戦いとか、本当に二学期はどうしていきなりこんな急展開になっているのか理解が追いつかない。ただ欅とデイジーの戦いは顔を合わせた最初の時だけであれ以来起こっていないし、パーティーや留学生の話題も時間が経てば落ち着いてくる。


 最初はどうなることかと思った二学期だったけど、俺がどんなに焦ろうとも困惑しようとも時間は止まらない。日常は流れていき人は環境に慣れていく。二学期が始まって数日が経ったら俺もいつの間にか慣れてしまったようだ。


 そして今日は……、体育の授業で体育祭の練習がある。何か高等科になってから初めて見た競技にエントリーしたけど一体どうなることやら……。


「咲耶様!早く行きましょう!」


「薊ちゃん……、私達だけが早く行っても授業が早く始まるわけではありませんよ」


 早く早くと急かしてくる薊ちゃんに皆が苦笑していた。今日から体育祭の練習が始まると聞いて薊ちゃんはすぐに着替えて皆を急かしている。でも授業の開始時間は決まっているわけで、皆が早く着替えて体育館やグラウンドで待っていたとしても授業が早く始まるわけじゃない。


「うぅ~……。そうですけど~……」


 薊ちゃんはよっぽど体育祭を楽しみにしているのかな?ソワソワして早く早くと言っているのは何だか子供みたいで可愛い。もう高等科一年にもなったというのに薊ちゃんは本当に純真というか純粋というか無垢というか……。


 皆の体が発達してきて大人っぽくなってきたことを意識しすぎている俺は汚い大人だ……。薊ちゃんのように純粋に体育祭を楽しみにしていてはしゃいでいる子が眩しい。


「薊……、がっつきすぎですよ。あまり不審なことをしては咲耶ちゃんに怪しまれてしまいます」


「しょーがないじゃない、そんなこと言ったって!これから咲耶様と狭いお立ち台で……、ふひひっ!」


「それはまぁ……、ジュルリ!」


「ふっふっふっ!」


「へっへっへっ!」


 何か皆楽しそうにニコニコしながら話しているなぁ……。俺以外の皆は純粋に体育祭を楽しみにしているんだろう。体育祭で女の子達との肉体的接触が増えるとか思って邪なことを考えてしまった俺が恥ずかしい……。




  ~~~~~~~




 体育の授業が始まってそれぞれの競技に分かれて練習を行っている。今日俺が最初にやってきたのは『お立ち台』という競技の練習だ。


 一応最初に簡単な説明を受けたけどぼんやりしたイメージしかなかった。実際に競技の道具などを並べて目の前で見てみればどんなものかはっきりわかった。


 まず『お立ち台』の名前にもなっている通り狭い台の上に参加者が団子になって乗る競技だ。時間制限があってその時間が終わった時にお立ち台の上に乗っている人数によって点数が加算される。


 今日は練習ということで一クラスで五人だけで練習しているけど、本番の時は他のクラスと合同で十人でお立ち台に立つことになる。そして点数は両クラスに同じだけ入るので合同になったクラスは敵ではなく味方だ。足を引っ張り合うようなことをしてはいけない。


 合同にする理由は一クラスからの代表人数だけでは人数が少なすぎるからだろう。そして敵ではなく味方として協力させるのは、もし敵だったとしたら突き落としたりして危険だからだと思われる。合同チームで同じだけ加点されるならお互いに協力し合った方が良い。だから合同チームの妨害や突き落としたりはしないだろうという考えだと思う。


 ただこれは相手の善意を信じてのことであり、例え合同チームで同じだけ加点されるとしても、相手が気に入らなければわざと突き落としたり、自分達のチームも点数が下がったとしても妨害したり出来てしまう。この辺りはちょっとルールというか設定の欠点があるんじゃないかなぁ……。


 例えば俺は嫌われ悪役令嬢・九条咲耶お嬢様なわけで、日頃から反発や反感を買っているし煙たがられている咲耶お嬢様に合法的に復讐出来ると思ったら、誰かが事故に見せかけて突き飛ばしたりしやしないだろうか?


 あるいは巻き込まれ体質、イジメられっ子体質である主人公・藤原向日葵はどうだ?誰かが向日葵をイジメて突き飛ばして事故を起こさせ、それをやらせたのが咲耶お嬢様だって話になったりしやしないだろうか?


 あくまで『合同チームで同じだけ点数が入るんだから邪魔をするはずがない』とか、『怪我をさせようとわざと突き飛ばしたり事故を起こすはずがない』という人の善性のみによって担保されているルールだよな……。


「さぁ咲耶様!それじゃ実際にやってみましょう!」


「そうですね……。まずはどのようなものか実際に試してみなければわかりませんね」


 薊ちゃんは随分張り切っているなぁ。このメンバーだけでやる時は変な事故とか妨害を心配しなくて良いので気が楽だ。


「さぁさぁ咲耶ちゃんは真ん中へ。私達が周りに順番に乗ってみますね」


「あっ、はい……」


 何か皆でどうぞどうぞと真ん中を薦められてしまった。とりあえずお試しだしまずは立ち位置とか作戦とかを考えずにやってみるか。


「それでは咲耶ちゃん……、失礼しますね」


「おっ!?」


 おほっ!やばいやばい!変な声が出るところだった。ぎりぎり『おっ』で堪えたけど下手したら変な声を出して俺の中身が男だってバレるところだ。気をつけなければ……。


 でもそれにしても……、椿ちゃんのたわわが……、たわわがグイグイ押し付けられている!これはヤバイ!想像以上に危険だ!


「椿ちゃんもうちょっと寄って!よい……、しょっ!」


「おぉっ!?」


 おほほっ!ヤバイ!蓮華ちゃんと椿ちゃんに挟まれて前から後ろからバインバインのプニプニだ!これは……、俺の理性が保たない!変な声出ちゃう~っ!


「次は私が乗りますね」


「おっふ!」


 にょほほほぉ~ぅっ!どこを向いても女の子、女の子、女の子!や~らかい!良い匂い!ヤバイ!何これ!この競技やばすぎる!


「私が乗って完成ですね!簡単じゃないですか!ドーンッ!」


 そして最後に薊ちゃんが皐月ちゃんの向かいから乗ってくる。前後に椿ちゃんと蓮華ちゃん、そして左右に皐月ちゃんと薊ちゃん……、と思ったのも束の間、薊ちゃんが乗った瞬間に皐月ちゃんが押し出され、それに引っ張られて椿ちゃんと蓮華ちゃんもお立ち台から落ちてしまった。


「ちょっと薊!勢いをつけすぎですよ!」


「ごめんごめん!」


 そう言ってもう一度……、今度は慎重に乗ったにも関わらず結局最後の一人が乗ると誰かが押し出されるように落ちていた。最初のうちは遠慮しながらお立ち台に乗っていたメンバーも次第に熱くなってきている。でもどう頑張っても五人全員が乗れない。


「このサイズ……、絶妙すぎますね……」


「「「確かに……」」」


 今日練習で使っているお立ち台は五人用の練習用のものだ。本番では十人で乗るので本番用のサイズで五人なら余裕で乗れてしまう。だから今は練習用に五人用の小さいサイズで練習しているわけだけど……、このサイズが絶妙すぎる。


 お立ち台の上の面積だけで言えば全員の足が乗るサイズだ。全員の靴を脱いで上に並べれば余裕で全ての靴を乗せることが出来る。でも人間は足のサイズよりも肩幅の方が大きい。どんなに寄り集まって小さくなろうとしても肩幅より小さくなることは出来ない。だから最後の一人が足をかけて乗ろうとしたら誰かが押し出されてしまう。


「今度は真ん中に一人立って周囲で同時に乗ってみましょうよ!」


「う~ん……。それは……」


「まぁ試すだけ試してみましょうか……」


 失敗するようにしか思えないけどとりあえず色々なパターンを試してみる。


「「「「せーの……、ほっ!」」」」


「むぎゅぅ……」


 四人がお立ち台を囲んで立って、合図と同時に真ん中に立っている俺に向かってきた。四人に挟まれた俺はむぎゅっと潰されて……。


「んぐっ!」


「わっ!」


「無理……」


 皆で一斉に乗ろうとしたら当然反発力が凄い。一気に俺に向かってきた皆は反動で弾かれて全員落ちてしまった。勢いをつけて全員で一斉にというのは無理がある。


 この競技は一瞬でも乗っていればいいわけじゃなくて、制限時間内に乗れるだけ乗って、時間が終わった時点で乗っている人をカウントする間キープしなければならない。無理して乗ってもカウント中にキープ出来なければその時点で落ちた人はカウントから除外されてしまう。


 最初は遠慮気味だった皆も本気になってきているし、この競技は思ったよりも難しい。最初はもっとお気楽というか簡単なものかと思ったけどそうもいかないようだ。五人用でこれだけ絶妙な大きさということは本番の十人用ではもっと難しいかもしれない。何か作戦を考えなければ高得点を狙うのは難しそうだ。


「もういっそ四人で完成ということにしてみては?」


「確かに五人乗ろうとすると誰かが落ちてそこから崩れてしまいます。でも最初から四人を目指していては他のクラスを上回ることは出来ませんよ」


 皆真剣に議論している。このお立ち台が『四人で限界』を想定して作られているのなら、確かに他のクラスも四人で手を打とうと考えるかもしれない。無理に五人乗ろうとしたら誰かが弾き出されて、その一人が落ちたショックで引っ張られて他の子まで落ちてしまう。それなら最初から四人で安定というのも手ではあるかもしれない。


 ただそうなると他のクラスも皆四人で安定を狙えば毎回全クラスが同じという結果に終わってしまう。リスクを取らない代わりに勝ちもない。それでは面白味に欠ける。かといって無理に五人乗ろうとすると弾かれて対面などの子が落ちてしまう。これは難しいところだ。


「う~ん……。立ち位置を変えてみませんか?私が最後に乗ってみます」


「えっ!?」


「咲耶ちゃんが最後だったら感触を楽しめないじゃないですか!?」


 ……ん?


「まぁ練習の一環として試してみましょうか。最終的にどうするかはまた後で他のパターンも練習して決めるとして、今は順番に立ち位置なども変えてみましょう」


 皐月ちゃんが俺の意見に賛同してくれた。他の子達も渋々?なんだろうか?認めてくれたようで立ち位置を交代する。


 何故俺が最後に乗ることを提案したかと言うと俺には少し秘策があるからだ。それを試してみたいと思って皆に聞いてみた。ただ何か皆の反応が思ったよりも鈍かったのは予想外だったけど……。


「はい。咲耶ちゃん以外全員が乗ってみましたよ」


「それではいきますね……」


 俺以外の四人が乗った状態で最後に俺がお立ち台に足をかける。そして……。


「ふんっ!」


「「「「……あれ?」」」」


 俺が乗ったことで押し出されると思って身構えていた子達はキョトンとした顔をしていた。俺が乗っているというのに皆は弾き出されていない。それを不思議に思っているんだろう。


「大丈夫ですね……」


「どうして……」


 皆不思議そうな顔をしているけどその理由は気付いていないようだ。ただ俺の方を見た皐月ちゃんが気付いたことを口にした。


「あれ?咲耶ちゃんってそんなに背が低かったですか?というかお立ち台に乗っているんですよね?何か遠い?」


「ふっふっふっ……。これが私の秘策ですよ」


 俺の秘策……。それはお立ち台の上に足だけ乗せて空気椅子やスクワットのように膝を曲げて体をお立ち台の外に出すことだ。人間は肩が一番広い。だから足の置き場としては面積が十分でも肩がぶつかってお立ち台の上に全員が立てない。ならば自分の肩や体がお立ち台の上部からはみ出ていればいいわけだ。


 全員が体を反らせたり、お立ち台の円上からはみ出したりしていたらバランスを崩して落ちてしまう。だから俺は俺だけお立ち台の上から上半身を外に出すことにした。足だけお立ち台に乗せて、筋力で無理やり空気椅子やスクワットのように空中に静止している。


 これぞ百地流!……いや、百地流は関係ないけどね?


「凄いですね咲耶ちゃん!」


 椿ちゃんが素直に驚いてくれた。これで本番も必勝……。


「駄目です!これじゃ咲耶様が味わえないじゃないですか!」


「これで決まりじゃ困ります!」


「そうです!仮にこれが本番での完成型だったとしてもまずは他のパターンも練習してみましょう!」


「え……?そう……、ですか?それではまぁ……」


 あるぇ?何か俺が思っていたのと反応が違う……。もっとこう……、『すごーい!』とか『これで勝つる!』とかそんな感じの反応をイメージしていたのに……、折角空気椅子で耐えているのに何か皆の反応が冷たい……。


「さぁ!それじゃ本番までまたパターンを変えて練習しましょう!」


「「「おーっ!」」」


「おっ……、おー……」


 何か皆はテンションが高いんだけど、俺だけ秘策を否定されたような気がして微妙にテンションが下がってしまったのだった……。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] お立ち台。。。ジュリアナ東京。。。 [一言] 咲耶様は要なので、中央でないといけないのです。
[気になる点] 最近みんな咲耶様に対して遠慮が無くなった気がする… まあ咲耶様との触れ合い(意味深)を譲れない気持ちも分りますけどね^^
[一言] みんなでスクラムを組もう!
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